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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百五十七話 乱れ舞い、狂い咲く(四)

「ふふふ……」

 イデルヴェインが突如として笑い出したものだから、エリルアルムは訝しんだ。

「さすがはエトセアの騎士公殿。ここまで戦ってなお、原型を留め、戦う意志さえ失っていないとは」

 どうにも嬉しそうなイデルヴェインの言動は、エリルアルムにはまったく理解の及ばないものだった。高揚しているらしいのは、わかる。だが、その感覚を共有することはできなかったし、したいとも想わなかった。

 エリルアルムには、この戦いを愉しもうという気分は一切ない。

「やはり、運命なのだ」

「まだいうか」

「いうとも。でなければ、わたしと貴方がこうして刃を交えることなどなかったはずだ」

「……確かに」

 エリルアルムは、微苦笑をもらすほかなかった。

「一理あるかもしれないな」

 多少なりとも理解を示したのは、なにかしら運命のような大きな力でも働かなければ、納得できないような状況にいるからだ。

 エトセアの王女として人生を全うすることなどできるわけもないことは、子供の頃から理解していた。

 王位を継ぐのは、王子である兄であり、王女である自分は、いつか政略の駒となり、どこかのだれかの元に嫁ぐものである、と、言い聞かされ、宿命であると受け止めていた。

 それでも、それだけでは終わりたくはなかった。エトセアの力になりたいと想った。だから、剣を手に取ったのだ。

 王女という身でありながら、率先して戦場に赴き、数々の武功を立て、騎士公と呼ばれるまでに上り詰めた。

 そしてそのころには、父も兄も、彼女を政略の駒とは見なくなっていた。

 もし、ガンディアが弱小国のままならば、エリルアルムは、エトセアの騎士公として生涯を全うしたのかもしれない。

 だが、運命が彼女を掴んだ。

 エトセアに並ぶか、あるいはそれ以上の国土を有する、小国家群最大の軍事国家ガンディアの隆盛は、彼女を再び政略の場に引き戻した。

 ガンディアの英雄セツナ=カミヤとの政略結婚。

 予期せぬ運命ではあったが、それが国のためならば、と、彼女は受け入れられた。元より、エトセアのために生きてきた人間だ。エトセアのためならば、どのような運命だって受け入れられた。

 だのに、運命は、彼女から祖国を、エトセアを奪い、限りない絶望をもたらした。

 最終戦争。

 そして、“大破壊”。

 なにもかもが変わり果てた世界で、それでも生きているのは、エトセアを離れるという運命に従ったからこそなのだろう。

(運命……)

 いま、ここにこうして立っていることも、運命に従った結果なのだ。

 ならば、イデルヴェインと戦っているのも、運命といっていい。

「だとすれば、わたしは貴様を斃し、運命の先へ行こう」

「それは不可能だ。わたしが貴方を斃し、ヴィシュタル様の元へ辿り着くことこそ、運命なのだから」

「いいや、それこそ大きな間違いだ。わたしが、セツナの元へ辿り着く」

「どうやって?」

「いったはずだ。貴様を斃し、道を切り開くとな」

「ふふふ。それでこそ、わたしの運命の敵。ならば、わたしも全力で相手しよう。でなければ、負けてしまうかもしれないからな」

 そういって、イデルヴェインが背後で大輪の花を咲かせる飛翔剣の数々を射出したときには、エリルアルムは全速力で飛び出していた。

 距離を取るのではなく、間合いを詰めるべく、前に進む。

 最初から最大速度、全速力だ。

 その上、エリルアルムは、ソウルオブバードにさらなる能力の発動を命じていた。

(長期戦は不可能)

 不利どころの話ではない。

 エリルアルムは、自分自身の負傷の度合いを極めて重傷と見ている。全身に無数の切り傷があり、鎧は破損、左腕も失ってしまった。ソウルオブバードの翼の能力で止血こそしているものの、痛みが消え去ることはなく、それどころか、多少でも動くたびに痛みが走った。

 一方、相手は無傷だ。

 “核”を傷つけられてすらいないのだから、当然のことではあるし、それが人間と獅徒の違いであることは百も承知だ。

 だからこそ、この状況で持久戦を展開しようなどとは考えもしないのだ。

 短期戦。

 わずかな時間に全力を注ぎ込み、相手を出し抜き、上回るのだ。

 そのためには、ソウルオブバードの力を限界まで引き出す必要があるのだが、果たして、それがいまのエリルアルムにできるのか、どうか。

(できるできないじゃない。やるのだ。やってみせる!)

 前方、イデルヴェインの背後から拡散した銀光が、空を放射線状に切り裂いていく光景が展開していたが、エリルアルムは、気にもしなかった。

 イデルヴェインの現在の主な攻撃手段は、飛翔剣による直接攻撃であり、飛翔剣の接近にさえ気をつけていればよく、飛翔剣が急速に離れていく現状は、むしろ好都合だった。

 イデルヴェインは、ただ、空中に浮かんでいるだけだ。武器ひとつ手にせず、こちらを見ている。

 遙か広範囲に飛ばした飛翔剣で事足りると踏んでいるのだろうし、実際、その通りではあるのだろう。

 いままでのエリルアルムならば。

 だから、限界を超えるのだ。

「おおおおおおおっ!」

 そのとき、エリルアルムが吼えたのは、全身を駆け抜ける痛みを振り切るためであり、ソウルオブバードから流れ込んでくる膨大な熱量に応えるためだった。

 ソウルオブバードが、エリルアルムの魂の叫びに応えてくれた。

 その事実が、彼女には堪らなく嬉しかったし、だからこそ、全身の骨という骨をばらばらにし、筋肉という筋肉を千々に引き裂くような痛みにも耐えられたのだろう。

 視界が紅く染まったような気がしたのは、決して気のせいではなかった。

 体中、様々な箇所に生えた紅蓮の翼が、炎と燃え、無数の火の粉を散らせていたからだ。

 背中だけではない。肩や腕、手首や足首にも炎の翼が生え、熱気を撒き散らしながら、エリルアルムの全身を包み込んでいる。

 燃える。

 全身が燃えるようだ。

 いや、実際に燃えているのかもしれない。肉体も、魂も、命も、なにもかもが燃えている。

 このままでは、燃え尽きるのも時間の問題だ。

(だからっ!)

 エリルアルムは、紅く燃える視界の中心にイデルヴェインを捕捉したまま、すべての翼を羽撃かせた。爆発的な炎を撒き散らしながら、急加速する。

 翼型召喚武装の飛行能力は、その翼の大きさか翼の数に比例するという。

 ならば、全身至る所から炎の翼を生やしたエリルアルムの飛行速度は、いままでの比較にならないほどのものになるのは、必然だった。

 故に、イデルヴェインが目を見開くのも、当然であり、道理だった。

 まさに巨大な火の玉となったエリルアルムは、一直線にイデルヴェインとの距離を詰めると、その目前へと到達した。紅蓮に燃え盛るのは、彼女の肉体だけではない。ソウルオブバードそのものもまた、紅蓮の翼を生やし、轟然たる炎に包まれていた。

「素晴らしい」

 イデルヴェインの賞賛は、心からのものだったのだろうが、エリルアルムには、一切響かなかった。彼女は、吼えていた。全身の骨が軋む音を掻き消すように。筋肉という筋肉が上げる悲鳴を打ち消すように。

 ただ、吼えていた。

 そして、イデルヴェインの懐に潜り込むと、無数の殺気を感知した。

 遙か広範囲に散らばっていた飛翔剣が、エリルアルムの急接近に反応し、迫ってきたようだった。その速度たるや凄まじいものであり、エリルアルムがイデルヴェインに槍の切っ先を突きつけようとしたときには、極至近距離に肉薄している。

 故に、イデルヴェインには、エリルアルムを賞賛する余裕があったのだろう。

 獅徒は、勝ち誇るように告げてきたのだ。

「だが、ここからどうする?」


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