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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百五十二話 天使と悪魔(六)


「俺ァ、まだ生きてるぜ」

 エスクは、オウラリエルが驚きながらも振り下ろしてきた奇跡の剣を二本の光刃を交差させることで受け止めると、獅徒に向かって告げた。弟子を自称する獅徒は、仮面の奥で、動揺を禁じ得ないとでもいいたげな目をしている。

 それも当然だ。

 エスクはいま、ばらばらになったままの体で立ち上がっているのだ。

 オウラリエルの光刃によって千々に引き裂かれた体でどうやって起き上がり、立っているのかといえば、ソードケインのおかげだった。

 ソードケインの光刃が胸を突き破り、ソードケインそのものが心臓に達したとき、エスクの体がソードケインを取り込んだのだ。エアトーカーやホーリーシンボルを取り込み、失った体の一部を補わせていたように、ソードケインもまた、体の一部にしてしまった。

 そして、心臓と融合したソードケインから伸びた無数の光が、ばらばらになったエスクの肉体をつぎつぎと繋いでいった。

 それもこれも、エスクの肉体に宿る精霊たちの力であり、精霊の加護のおかげだった。

 肉体的にはとっくの昔に死んでいたからこそできた荒技といってよく、もし半端に生きていて、精霊の力がなくとも生存できるだけの状態だったならば、こうはならなかったのではないか。

 エスクは、光の糸で繋がった体の部位と部位が接合し、元に戻っていくのを感じながら、そんなことを考えていた。

 オウラリエルが奇跡の剣を振り抜いたとき、その場にはエスクはいなかった。エスクが左に大きく飛び去ったからこそ、光の大剣を振り抜けたというべきなのだから、当然だろう。巨大な光の刃が大地に叩きつけられたとき、神威が炸裂したのか、地面が大きく抉れている。もし、エスクの蘇生が間に合わなければ、エスクの肉体は跡形もなく消し飛ばされていたこと請け合いだ。

 エスクは、その光景を横目に見ている。

 オウラリエルは、光の大剣を維持したまま、こちらに向き直った。威圧感はさすがというべきか。しかし、それは、エスクにとって心地良いものでしかない。

「さすがは、師、というべきですかな」

「いいや、違うな」

 エスクは、完全に回復した肉体の状態を確かめるようにして、踏み込んだ。雨でぬかるんだ地面も、いまのエスクには関係がない。息吹きとともに、素早く、オウラリエルとの間合いを詰める。オウラリエルが、大剣を水平に薙ぎ払った。エスクは飛ぶ。すると、大剣の軌道が急角度に曲がった。勢いよく振り回した大剣を途中で切り返すなど、常人には不可能に近いが、相手は獅徒だ。その上、重量のない光刃ならば、不可能とは思えない。

 胴体狙いの切り返しに対し、彼は、両方の足裏から光刃を伸ばすことで対処した。ソードケインの光刃は伸縮自在で、エスクの思い通りに変化する。足裏から伸びた光刃は、オウラリエルの大剣の軌道上で格子状に展開し、大剣を受け止めて見せた。激突の瞬間、光が散る。

 もっとも、受け止めたはいいものの、二本の光刃では押し切られるのはわかりきっている。

 エスクは、すぐさま頭上に向かって虚空砲を撃ち放つと、反動でもって地上に落下した。着地と同時に泥水が飛び散る。敵の大剣がこちらの光刃を押し切り、虚空ごと切り裂いたのを感覚だけで認めて、低い姿勢のまま、前に飛ぶ。オウラリエルは、大剣を振り上げた姿勢のまま、こちらを見ていた。

「俺が悪魔だからさ」

「はて?」

「あんたは剣の天使だろう」

 エスクは、オウラリエルが透かさず大剣を振り下ろしてくるのを感じ取り、にやりとした。オウラリエルの反応速度、身体能力は、人間のそれを超越している。いまのエスクでなければ、対応など不可能だった。以前の、ついさっきまでのエスクでは、容易く真っ二つに断ち切られていたに違いない。

 確信がある。

 なぜならば、

「だから、俺は剣の悪魔なんだよ」

 エスクは、両方の手のひらから光の刃を発生させると、左手を頭上に掲げ、落ちてくる大剣を受け流そうとした。が、奇跡の剣の前では、一本の光刃など軽々と粉砕される。彼は内心苦笑すると、迫り来る光の大剣に向かって、体中から生やした光の刃で対抗した。

「きっと、そういうこった」

「ふむ」

 エスクの全身、至る所から伸びた光の刃が、オウラリエルの光の大剣に絡みつき、動きを止めた。しかしそれは、オウラリエルにとっては予期せぬことではなかったようだ。彼は、思考を読むことができる。エスクの体に起きた変化も、エスクの思考から読み取れたのだ。

 だからといって対処しきれなかったところに、オウラリエルの限界がある。

「よくはわかりませんが、貴殿が納得しておられるのでしたら、なにもいいますまい」

 オウラリエルは、しかしながら、どこか嬉しそうにいった。エスクが死の淵から立ち上がり、再び戦えることを喜んでいるような、そんな印象を受ける。

 戦闘狂などではなかったはずの彼だが、どうやら、エスクの影響を受けすぎたらしい。

 エスクは、そんな彼が嫌いではなかった。

「わたくしは、わたくしのやるべきことをやるのみ」

「それでいい」

 エスクがそういったとき、彼の右手の光刃は、オウラリエルの胸に到達していた。しかし、突き刺さりもしない。分厚く強靭な胸甲がオウラリエルの胸を護っている。光刃一本では、傷つけることすらかなわないのだ。

 そんなことは、わかりきっている。

「俺も、それだけだ」

 告げ、すべての光刃の出力を上げる。

 ホーリーシンボルの能力を最大限に発揮し、虚空砲ことエアトーカーの力もソードケインに回す。いまや、三つの召喚武装と融合した召喚武装人間と化したエスクには、そんな芸当も不可能ではなかった。三種の召喚武装の能力を限界まで引き出し、自身もまた、戦竜呼法を最大効率で発揮する。

 オウラリエルはといえば、杖を握る両手に全力を注いでいるようだった。光の大剣がさらに巨大化し、力がいや増していくのがわかる。六枚の翼が神々しいまでに輝いていた。彼もまた、全力を発揮しているのだ。エスクを斃すために。

 師を超えるために。

 頭上で、エスクの光刃が砕け散った。オウラリエルの力が上回ったからだ。獅徒の全力を費やせば、そうもなろう。エスクには、わかりきったことだ。

 だから、光刃を破壊させた。

 当然、光の大剣が降ってくる。

 エスクは、避けない。ただ、真っ直ぐに突っ込み、オウラリエルの懐に飛び込む。巨大な光の刃がエスクの頭を真っ二つにしたとき、オウラリエルの全身に光の刃が突き刺さっていた。今度は、その強靭な装甲を突き破り、肉体を貫いている。全身、あらゆる箇所を、だ。

 頭も、首も、肩も、胸も、腹も、足も――獅徒の全身、ありとあらゆる箇所を同時に攻撃したのは、そうしなければ、オウラリエルを斃すことなど不可能だからだ。

 獅徒を斃すには、体の何処かにある“核”を破壊しなければならない。

 だから、エスクは、早々に全身の光刃を破壊させ、それら光刃でもってオウラリエルの全身を攻撃した。

 その結果、エスクは首の根元まで真っ二つに断ち切られたが、オウラリエルの刃が心臓に達することはなかった。

「無謀な試みと思いましたがな」

 オウラリエルが、全身を貫く無数の光の刃を見回しながら、いった。無念ではあるはずだが、どこか、満足げだった。

「獅徒の力を頼みにしすぎなんだよ」

「それはお相子でしょう?」

「ああ……まったくだ」

 エスクは、オウラリエルの苦笑に対し、笑って返すほかなかった。

「今回ばかりは、否定しようがねえな」

 エスク自身、自分の生命力を頼みにした戦い方で勝ったようなものだ。もしエスクがただの人間ならば、最初の段階で死んでいただろうし、たとえ途中まで生き残ったとしても、体をばらばらにされた時点で絶命しているのだ。

 頭をかち割られて生きているというのも、異常だ。

 人外だからこそ死に、人外だからこそ生き延びた。

 エスクは、オウラリエルの肉体が崩れ始めたのを見て、すべての光刃を消した。

「“剣魔”殿。師を乗り越えるというのは、難しゅうございますなぁ……」

「そりゃあ仕方ねえよ。なんたって、最高の師だからな」

「ふむ……それならば」

 エスクは、オウラリエルの肉体が砂のように崩れ去っていく様をじっと見ていた。人間や他の動物のように骨も残らない死に様は、生物であることを捨てたからなのか、どうか。

 だとすれば、エスクは、どうなるのだろう。

「致し方、ありませんな……」

 微苦笑とともに消えていくオウラリエルに自分の未来を見て、エスクは、なんともいえない気分になった。


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