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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百三十七話 世界を翔ける虚空の扉(三)

 その日、イルス・ヴァレの空を駆け巡った光の波紋は、世界中の様々なひとびとが目撃した。

 夜空に瞬く星々よりもあざやかで強烈な光を発する波紋。昼間の青空をもまばゆく染め上げる光の輪。朝も昼も夜も関係なく、その時間、イルス・ヴァレの空は、増殖し続ける光の波紋によって覆われていった。

 ひとびとは、その怪現象を目の当たりにして恐怖したり、世界の終わりを囁き合ったり、在りもしない陰謀論を戦わせたりする一方、光の波紋がただの怪現象ではないことに気づくものも少なくなかった。

 龍府のひとびとは、グレイシアを筆頭に、光の波紋の中にセツナたちを見た。光の波紋の向こう側に映し出された光景は、見知らぬ戦場そのものであったが、その戦場で死闘を繰り広げるものたちには見覚えがあった。それがセツナたちだということに気づいたのは、だれが早かったのか。

 グレイシアは即座に気づいたし、リュウイ=リバイエンもすぐさま妹の勇姿を見出していた。

 突如として空を覆った光の輪、その向こう側に映し出される光景がなにを意味するのか、神ならぬグレイシアたちには想像を働かせるよりほかはなく、想像力だけでは確かなことはいえなかったし、わからなかった。

 しかし、セツナたちがこの世界の脅威と戦っていることだけは確かであり、敵がネア・ガンディアに関わるものたちであることも間違いなさそうだ、と、グレイシアたちは結論した。

 そして、その戦いこそ、この世界の命運を決めるものなのだろう、と、察した。

 でなければ、このような現象が龍府の空を覆うはずがない。

 きっと、セツナたちが助力を求めているのだ。

 グレイシアの出した結論に、異論が挟まれることはなかった。

 かといって、龍府のひとびとになにができるわけもない。龍府の戦力をセツナたちの元へ送り込む手段はなく、仮に手段があったとして、足手纏いにしかならないことはわかりきっている。

 では、なにをどうすれば、セツナたちの助力となるのか。

 グレイシアたちが考えに考え抜いた末に出した結論は、祈ることだった。

 祈りは、力となる。

 神々がひとびとの祈りによって成立しているように、きっと、セツナたちへの祈りもまた、彼らへの助力となるはずだ。

 たとえそれがほんのささやかなものであったとしても、なにもしないよりはずっといい。

 グレイシアは、龍府のひとびとにセツナたちの勝利を祈るように呼びかけると、自身もまた、強く祈った。

 ガンディア王家の人間としての責任を果たせず、すべてをセツナに押しつけた格好であるという事実は、グレイシアに後ろめたさを抱かせ続けていた。

 祈るだけで、そういった後ろめたさから解放されるわけもない。

 だが、セツナの勝利の一助となれるかもしれないということは、グレイシアに希望を与えた。

 グレイシアだけではない。リュウイを始めとするリバイエン家の人間も、龍府にいる多くのひとびとも、セツナたちの勝利を信じ、祈った。

 ユリウス・レイ=マルディアも、ユノ=マルディアも、セイル・レイ=アバードも、だれもかれもが祈りを捧げ、戦いの行く末を見守った。

 もちろん、世界中のだれもが龍府のひとびとのような反応をしたわけではない。見知らぬものたちの死闘を見せられたところで、どうしようもないというのが普通だ。

 だれもが、セツナたちのことを知っているわけではない。

 だれもが、この世界の現状、窮地を知っているわけではない。

 だれもが、世界の行く末に興味を持っているわけではない。

 しかし、世界中に散らばったセツナたちのことを知るものたちは、光の波紋の中にセツナたちの勇姿を発見して興奮、あるいは驚愕し、そこになんらかの意味を見出そうとした。そして、自分たちにできることを考え、実行に移した。

 つまり、セツナたちを応援するということ、祈るということだ。

 そうした祈りの声が増大するに連れ、虚空の門はその力を増していく。

 より強く、より鮮明に戦場の光景を映しだし、ひとびとの目に、記憶に焼き付けていく。

 セツナたちが傷つきながらも決して諦めず、折れることなく戦い続ける様は、セツナたちのことをまったく知らないひとびとの心にも響いたのだ。

 やがて、祈りの声が世界中に満ちていく。

 

 セツナたちの戦いぶりを映し出す光の波紋は、結晶の大地で戦う連合軍将兵たちの遙か頭上にも展開していた。

 空を覆う無数の波紋。

 それは当初、ネア・ガンディア側の攻撃として受け止められたが、すぐさまそうではないことが明らかになると、連合軍将兵は、その光の波紋の向こう側で繰り広げられる死闘に刮目した。

 突入組が獅徒、神将とほぼ一対一の戦いを行っていて、その激闘たるや、物凄まじいとしかいいようのないものだったからだ。

 もちろん、連合軍の戦いぶりが劣っているといっているわけではない。

 神々同士の激突は無論のこと、竜王や神卓騎士、兵装召喚師の戦いぶりは、突入組にも引けを取らないものといっていいはずだ。

 しかし、セツナたちのそれは、死闘と呼ぶに相応しいものである上、相手が相手ということもあって、より一層激しく、熾烈極まるものであるように想えたのだ。

(突入には成功したが……予定通りとはいかなかったか)

 ニーウェハインは、ネア・ガンディアの神々を相手に大立ち回りを演じながら、セツナと獅徒の戦いを見ていた。セツナの相手は、おそらく筆頭獅徒のヴィシュタルとやらだろう。なんとなく、わかる。

 突入組の目標は、獅子神皇の打倒、それのみだ。

 獅徒や神将など、相手にする必要はなかった。獅子神皇を斃すためには、全員が一丸となって死力を尽くす必要があると考えられていたし、そのためにも、無駄な消耗を避けなければならないからだ。

 無論、それが困難なこともわかっていた。

 なんのために神将や獅徒がナルンニルノルに残っていたかといえば、ナルンニルノルに乗り込んできたものたちを迎撃するためだろうし、突入組のナルンニルノル突入が成功すれば、獅徒や神将が待ち受けていることはわかりきったことでもあったのだ。

 だから、本来ならば、ニーウェハインを始めとする連合軍最高戦力の多くを突入組に振り分けたかったのだが、獅子神皇を相手にするという性質上、できなかった。

 獅子神皇の神威に抵抗するには、魔王の加護が必要だ、という。

 そうである以上、突入組に制限が出るのは致し方なかったし、賭けに出るしかなかったのだ。

 ほかに方法がない。

 故に、ニーウェハインもセツナたちを信じ、勝利を祈るしかないのだ。

(そう、信じている)

 ニーウェハインは、セツナがヴィシュタルを相手に凄まじいまでの戦いを繰り広げている光景を横目に、ネア・ガンディアの神々に向かって両腕を振り翳した。

(我が偉大なる半身よ。同一存在よ。俺は、君を信じている)

 手の先から溢れた黒と白の神威が混じり、爆発的に膨張する。

 神々が一斉にニーウェハインの眼前から姿を消したのは、神威の爆発に巻き込まれないようにするためだろうが、時既に遅し。

 ニーウェハインが炸裂させた神威は、無数の灰色の刃となって虚空を貫くと、捕捉対象の現在座標へと転移したからだ。

 多数の神々がほぼ同時に怒りの声を上げる様に、彼はほくそ笑んだ。

(だから、俺は俺にできることをしよう)

 ニーウェハインは、神々の集中砲火の中で、神威をさらに爆発させた。


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