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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百三十五話 世界を翔ける虚空の扉(一)

 この数年、状況が好転したことなどあっただろうか。

(いや、ない!)

 胸中、力強く拳を握るようにして断言したのは、シーナ=サンダーラだった。

 崩壊の日、世界は変わったが、彼女の境遇も変わり果てた。

 当時、彼女は、ガンディアの参謀局に所属し、エイン=ラジャール付きの局員として働いていたわけだが、最終戦争の末期にあっても、彼女は、同僚のマリノ=アクア、セリカ=ゲインとともにエインの側を離れなかった。エインに尽くすことこそ、彼女たちの生きる目的といっても過言ではなかったからだ。

 そして、それが幸せだった。

 だが、そんな幸せが唐突に終わったのは、崩壊の日のこと。

 エインと行動をともにしていたはずだというのに、気がつくと、まったく見知らぬ土地にいたのだ。それも、セリカ、マリノとともに、だ。

 自分たちの身になにが起きたのかわからないまま、現地の軍に拘束された彼女たちは、自分たちがどういうわけかレマニフラにいることを知った。

 レマニフラといえば、ガンディアの同盟国だ。

 ガンディア参謀局の人間であることを証明すると、拘束を解かれるどころか、賓客を遇するようにもてなされた。しかし、それを状況の好転とは思えなかったのは、やはり、世界に起きた大異変について、つぶさに知ったからだろう。

 崩壊の日、と、レマニフラのひとびとはいった。

 ワーグラーン大陸がばらばらに引き裂かれ、大海原によってすべてが隔絶された日。その日を境に、世界の状況は悪くなる一方だった。結晶化していく大地には、異形の怪物と化した元人間や獣が溢れ、その対応だけで人も労力も時間も金も費やされていく。

 暗澹たる未来には、夢も希望もなく、今日一日を生きるので精一杯といっても過言ではなかった。

 この数年、ずっとそうなのだ。

「ね、ねえ、あれ……」

 シーナは、不意に話しかけられてむっとした。考え事をしているときに邪魔をされることほど苛立つことはない。話しかけてきた相手が長年苦楽をともにしてきたセリカであっても、同じことだ。

「なによ、ひとが真剣に考え事をしてるってときに、あんたはどうしてそう……って、なにしてんの?」

 シーナが疑問符を浮かべたのは、睨み付けるべく振り向いた先のセリカが、窓の外を茫然と見ていたからだ。窓の外には、レマニフラの都市カイデンフルの夜景が広がっている。見慣れた景色だ。大都市であるにも関わらず、どうにも寂しく、薄ら寒さすら感じるような夜の町並み。夜中に出歩くひとがいないからというのもあるが、カイデンフルの過疎化が進行しつつあるというのもひとつの理由だろう。

 カイデンフルは、最終戦争によって滅亡したレマニフラの復興を目指す、復興派の本拠地だ。故にひとびとが集まっていたのだが、最近、カイデンフルの東にあるタンデリスに新たな勢力が勃興した。もはや滅び去ったレマニフラを復興させるよりも、新たな共同体を作り上げることのほうが建設的であるとするその組織は、異形の怪物との戦いにおいて大いなる成果を挙げて見せた。

 タンデリスならば、怪物の脅威からも身を守り、安全に暮らせるかもしれない。淡い期待は、この暗い世界において、なによりも強い光を放った。ひとびとがカイデンフルを離れるのも無理からぬことだ。

 シーナたちがカイデンフルを離れないのは、レマニフラの同盟国の人間であるが故の厚遇を受けたからということもあるが、タンデリスのことがどうにもきな臭く感じられてならなかったからだ。

 そのような事情もあって、人気の少なくなったカイデンフルの町並みは見慣れたものとなっていったのだが、窓の外を見遣るセリカの様子は明らかに異常だった。

 まるで熱に浮かされたかのようにして、窓の外を見つめている。

 慌てて近づくと、セリカがなぜ、そのような様子を見せていたのか、瞬時に理解できた。

「なによ、あれ……」

 窓の外、星明かりひとつ見当たらない闇夜に光が瞬いていた。雲に覆われた空だ。光などあろうはずもない。にもかかわらず、それはまるで波紋のように夜空に広がり、幾重にも連なるようにして闇を埋め尽くしていく。

「よく、見て」

「見てるわよ! あの光でしょ」

「そうだけど、そうじゃなくて」

「どういうことよ?」

「光の中……よ」

 いつの間にか隣に立って窓を覗き込んでいたマリノが、ぼそりといった。

 シーナは言われたとおりに光の中を凝視し、直後、衝撃を受けた。

 夜空に広がる無数の光の輪ひとつひとつに異なる風景が映し出されており、それらはどこかの戦場のようだった。そして、その戦場の中にに見知った顔を発見する。

 禍々しいばかりの黒き矛を手にした、黒い青年。

「セツナ様、よね?」

「うん、絶対にそうよ」

「ファリアさんにミリュウさんもいるわ」

 光の輪の中に映し出された戦場には、シーナたちが青春時代をともにしたといっても過言ではない人物たちが戦っていたのだ。セツナ=カミヤ、ルウファ=バルガザール、ファリア・ベルファリア、ミリュウ=リヴァイア、レム、そして――。

「それよりそれより、エイン様がいるじゃない!」

 シーナは、歓喜の声を上げて、虚空を指差した。光の輪の中に、難しい顔をしたエインの姿があったのだ。

「本当!?」

「エイン様……やっぱり無事だったんですね……」

「良かった……良かったよぉ……!」

 三人は抱き合って喜び、涙した。

 そして、いまこの世界のどこかで戦っているのであろうエインたちを想い、自分たちにできることを模索し始めた。


 “竜の庭”に在って、レオナは、落ち着かない気持ちで一杯だった。

 セツナたちを信頼し、見送ったはいいものの、戦いの行方がどうなるかはまったくの未知数だという。勝利を信じ、セツナたちが無事に帰ってくることを願ってはいる。だが、この世の中、絶対と断言できることなどあるものだろうか。

「のう、レイオーン」

 レオナは、ガンディア王家の守護獣の鬣に埋もれるようにしながら、つぶやいた。レオナが物心ついたときには側にいてくれた銀毛の獅子は、いつにも増して穏やかに、かつ、悠然とした様子で彼女の傍らにある。だからこそ、レオナは、この状況を耐えられるのだ。

 レイオーンがいてくれなければ、寄り添ってくれていなければ、ずっと泣いていたのではないか。

 レオナは、そんな風に想うのだ。

「セツナは、勝てるか?」

「勝つ、と信じることだ」

 レイオーンは、厳かにいった。

「信じて、送り出したのだろう。ならば、王者たるもの、勝報を待っていればよい。それが獅子の王たるものの務めだ」

「うむ。そうじゃな。レオナが信じてやらねばな」 

 元はといえば、ガンディア王家の問題だというのに、そのすべての責任をセツナに押しつけてしまったようなものなのだ。

 無論、王家とは無縁であったとしても、セツナは獅子神皇と戦い、討ち果たそうとしたに違いないのだが、それはそれとして、レオナは、セツナに託したのだ。

 託したのであれば、信じるべきだ。

 信じ抜き、待つこと。

 それこそ、ガンディア王家の人間としての務めなのだろう。

 そう想ったときだった。

 頭上が明るくなったかと想うと、“竜の庭”の上空に光の波紋のようなものが走った。

 波紋が波紋を呼び、空を覆っていく。

 その光景は、幻想的というほかなかったが、レオナが注目したのは、光の波紋の中だった。

「セツナ!」

 光の波紋の中では、セツナが激闘を繰り広げていたのだ。

 レオナは、思わず立ち上がり、その名を叫んだ。

 何度となく。


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