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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百二十八話 選ばれしもの(一)

 激突は一瞬。

 間合いに入り込むのと同時に繰り出したセツナの攻撃は、呆気なく防がれてしまった。

 獅徒ヴィシュタルを包み込む防御障壁によって、だ。

 黒き矛と白き盾の力の衝突は、激しい火花を散らせ、爆音を轟かせた。反動がセツナの肉体を貫き、弾き飛ばされるようにして距離を取る。

 着地したのは、草花の咲き誇る花壇の中だ。

 態勢を立て直すだけの時間的猶予があったのは、相手が攻撃してこなかったからにほかならない。

「ぎせいの間……ねえ」

 セツナは、ヴィシュタルに視線を戻しながら、いった。

「なんとも縁起の悪そうな名前だ」

「そうだね。それは否定しないよ。だけど、そんなことはどうだっていいことだ。違うかい?」

「ああ、そうだな」

 ヴィシュタルの表情ひとつ変えない返答を受けて、セツナは、苦笑するほかなかった。

「その通りだ」 

 なにかしら神秘的な儀式が行われるための祭壇のような場所に在って、ヴィシュタルは、揺るぎない支柱のように立っていた。黒き矛による攻撃も容易く弾き飛ばすのが彼の召喚武装シールドオブメサイアの能力だ。かつて、その防御力の前に黒き矛が折れたことは、いまも記憶に焼き付いている。

 結果、心まで折られてしまったのだ。

(だが、いまは違う)

 もう、折れない。

 黒き矛も、心も、折れることはない。

 死闘に次ぐ死闘を乗り越え、死線という死線を突破し、絶望を超克したいま、セツナの心が折れることなど絶対にあり得ないと断言できた。

 それに、以前、シールドオブメサイアの防御障壁を突き破った経験があるのだ。ついさっきは弾き飛ばされたが、それもこれも、全身全霊、全力の攻撃を叩き込まなかったからに違いない。完全武装状態ですらないのだ。手加減にもほどがあった。

 弾かれて当然といえる。

「ぎせいの間の名称なんてどうだっていい。いま重要なのは、おまえとの勝負だ。そうだな、クオン。いや、獅徒ヴィシュタル」 

 黒き矛を掲げ、切っ先をヴィシュタルに向ける。

「おまえを斃さないと前へ進めないのなら、獅子神皇の元へ辿り着けないというのなら、おまえが飽くまで立ちはだかるというのなら、俺は一切、容赦しない」

「望むところだ」

 ヴィシュタルは、むしろ嬉しそうにいった。

「それこそぼくの使命であり、ぼくの運命であり、ぼくの宿命」

 そして、ヴィシュタルが右手を頭上に掲げると、手の先に神威が収束した。神威は熱気を帯び、熱気は紅蓮の炎となって燃え盛ったかと思えば、一筋に収斂し、一本の剣へと変化する。切っ先から柄頭まで、燃え盛る炎のような真紅の剣。刀身が枝分かれしているのも、炎のようだったし、七支刀のようでもあった。

 これまで武器を手にしたところを見せなかった彼が、初めて握り締めて見せたのがそれだ。

「さあ、君とぼくの長きに渡る戦いに決着をつけようじゃないか」

「長きにってほどじゃあねえよ」

「そうでもないだろう?」

 地を蹴ったのは、ヴィシュタルのほうが先だった。これまで彼が防御に専念しているところしか見たことのなかったセツナにとっては面食らう出来事だったが、反応が遅れるようなことはなかった。右へ飛び、ヴィシュタルの空振りを誘う。

 セツナが立っていた場所に着地したヴィシュタルの剣は、確かに空を切った。しかし、その空振りは決して無意味なものではなかった。なぜならば、水平に薙いだ斬撃は、そのまま彼の背後へと至り、振り向いてこちらを視界に捉えるなり、刀身から火の玉を撃ち出してきたからだ。

 枝分かれした刀身から撃ち出された六つの火球は、様々な軌道を描いてセツナへと殺到する。セツナは、右へ左と飛び回って火球を回避して見せたが、それこそ相手の狙いだったのだろう。回避した先に、ヴィシュタルが待ち受けていた。

 真紅の剣と黒き矛が激突する。

「君がぼくを嫌っていたことは知っていたさ」

「昔の話だ」

「へえ。じゃあ、いまは好きだといってくれるのかい?」

「なんでそう極端から極端に走るんだよ」

 不意に熱気を感じて、セツナは身を捩り、ヴィシュタルの肩を蹴った。蹴り飛ばすのと同時に自身も飛び離れることにより、ヴィシュタルの剣から噴き出した炎を回避する。

 炎を象徴するかのような剣は、実際、炎を生み出すことの出来る剣であり、近距離は無論のこと、遠距離攻撃もお手の物なのだ。

 人間時代はみずから手を下すことのなかった彼からは考えられないほど攻撃的だが、セツナを斃そうというのであれば、当然のことなのかもしれない。

「嫌いが普通になっただけのことだ」

「そうか……まあ、それはそれで嬉しいからいいけど」

「嬉しいのかよ」

「もちろん」

 ヴィシュタルは、地上に降り立つと、炎の剣を構え直した。

 犠聖の間という白い花で埋め尽くされた神秘的な領域は、いまや炎の燃え盛る戦場と化していた。セツナが避けた火球が草花を炎上させたのだろう。だが、ふたりとも、炎が燃え広がっていくのを止めようとはしなかった。

「君とは、分かり合いたかったし、分かち合いたかったんだ」

「もう、無理だな」

 セツナは、空中から断言するのとともに黒き矛の切っ先をヴィシュタルに向けた。撃ち出すのは、破壊の奔流。“破壊光線”。

「おまえが敵で有る限りは」

「ああ。だから、残念ではあるんだよ」

 破壊的な光の奔流の中を突き進んでくるヴィシュタルの姿を目の当たりにして、セツナは、憮然とするしかなかった。シールドオブメサイアの防御障壁は、極めて頑強であり、現状の“破壊光線”程度ではびくともしないようだった。

 ヴィシュタルを飲み込んだはずの“破壊光線”が、ヴィシュタルに直撃することなく分散し、周囲に飛び散っていく光景は、圧巻だった。

 そして、“破壊光線”の中を突っ切ってきたヴィシュタルは、その勢いのまま、炎の剣を突きつけてくる。

「君を斃さないといけない」

「斃れるのはおまえだ、ヴィシュタル」

 辛くもかわし、口早に呪文を唱える。術式を必要としない、結語。

「武装召喚」

 その瞬間、セツナの全身から爆発的な光が生じ、それが相手への目眩ましとなった。そしてその一瞬の隙がセツナにとって有利に働く。召喚したロッドオブエンヴィーを手にすると同時にその能力を発動させる。杖の先端の髑髏から伸びた巨大な闇の手が、ヴィシュタルを防御障壁ごと握り締めると、力を込めて投げ飛ばした。

 セツナのそんな攻撃は、ヴィシュタルにとって予期せぬ行動だったに違いない。

 だが、ヴィシュタルは、投げ飛ばされながらも、動揺ひとつ見せなかった。それどころか、冷静に状況を見定めると、神威を解放して見せた。莫大な神威の拡散は、ヴィシュタルをまばゆい光で包み込み、その背から三対六枚の翼を出現させるに至る。

 神威によって編まれた翼は、神々しい光の翼であり、グロリア=オウレリアのメイルケルビムを連想させた。

「フェザーオブラファエル」

 ヴィシュタルは、光の翼を翻し、空中で静止して見せると、こちらを見つめてきた。

「これはたぶん……いや、きっと、君に対抗するための力なんだろう」

 彼は、語りかけるようにしていってくる。

「君と、黒き矛、その眷属たちに」

 そのまっすぐなまなざしに含まれる複雑な感情は、セツナには理解しきれないものだったが、ひとつだけわかることがあった。

「魔王に」

 彼は、斃すべき敵だ。

 黒き矛が、いままでにない敵意を発していたのだ。



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