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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百十一話 図書館戦闘(一)

 聴覚を狂わせるような奇怪な絶叫が、図書館のような巨大な迷宮そのものを激しく揺らしたのは、叫び声が強烈な音波となり、衝撃波となったからだ。強く揺さぶられた無数の書棚から数多の本が落ちてきて、まるで本の雨となって降り注ぐ。

 ラグナは、咄嗟にトワとエリナを引き寄せると、飛び退きながら竜語魔法を発動させた。防御障壁を展開し、アルシュラウナとの距離を取る。

 泡立つ肉塊のような獅徒のどこから叫び声が発せられ、その叫び声がなにを意味しているのかもわからない以上、迂闊に近寄ることはできない。

「耳が痛い」

「わしもじゃ」

「そうなの?」

 アルシュラウナの叫びを聞いて平然としているのは、トワだけだった。ラグナですら顔をしかめるほどの異音に対し、耐性でもあるのではないかというほどの反応は、彼女が神であることと関係があるのかどうか。

 しかし、いまはトワのことについて考えている場合ではなかった。

 つぎつぎと床に落ちていく本の数々、その向こう側では、獅徒の姿に変化が起きていたからだ。泡立つ肉塊が膨張し、形を変えていく。

「見て、ラグナちゃん!」

「見ておる。あやつ、変身でもするつもりのようじゃな」

「アルシュラウナはね、元々、戦闘用の獅徒じゃないんだよ」

「つまり、わしらと戦うための姿になろうとしておる、ということじゃな」

「うん」

「ならば!」

 ラグナは、透かさず吼えた。鋭い咆哮が術式となり、瞬時に魔法が発動する。竜語魔法。竜王とその眷属のみが扱うことのできるそれは、発動までの時間差を考えると、極めて強力な攻撃手段だった。無論、防御手段にもなる。

 瞬間、変身中のアルシュラウナを翡翠色の光の槍が取り囲んだ。まばゆく輝く光の槍の数々は、直後、一斉に肉塊に突き刺さる。さらに炸裂すると、膨張と変形を始めていた肉塊の大半を吹き飛ばす。白い肉片が図書館内に飛び散るが、それで獅徒を仕留め切れたわけではない。

 肉塊の残った部分が急速に再生を始めており、ラグナは再び吼えた。今度は、翡翠の光を奔流として撃ち出し、渦を巻くようにしてアルシュラウナを包み込んだ。再生中の肉塊をずたずたに引き裂き、焼き切り、燃やし尽くして消し飛ばす。

「獅徒は、使徒と同じ。“核”を破壊しない限り、滅びない」

「わかっておる。しかしじゃな」

「“核”、見当たらないね」

 ラグナの腕の中で目を凝らしているエリナのいうとおりだった。

 どれだけアルシュラウナと思しき肉塊を破壊しても、“核”らしきものは見つからなかった。影も形もないとはまさにこのことであり、故に、強大な力を発揮しているラグナの竜語魔法も、決定打になり得ない。こぶし大ほどの大きさになった肉塊が、飛び散った肉塊を取り込み、急速に再生していくのを止められないのだ。

 もう一度、竜語魔法を叩き込んだが、結果は同じだった。翡翠の光の雨がアルシュラウナの肉塊を叩き潰しても、“核”を損傷させた様子もなく、アルシュラウナの再生速度を加速させただけとなった。

 そうなれば、ラグナも攻撃の手を止めざるを得ない。

 山のように積み上がった無数の本に囲まれ、変容を遂げていく獅徒を見据えるしかないのだ。

「トワ、おぬしはなにか知らぬのか?」

「アルシュラウナが獅徒に転生する以前は、グラハムという人間だったみたい」

「ほう」

「うん」

 トワはうなずくと、それっきり黙り込んだ。ラグナの左腕に抱えられた少女は、まっすぐにこちらを見ている。純粋すぎるまなざしは、太陽のようにまぶしい。

「む? それだけか?」

「うん。それ以上のことは、わからない」

「なんじゃ、期待させておいて。肩すかしもいいとこじゃの」

「ごめんなさい」

「あ、謝ることはないよ、トワちゃん」

「まあ、そうじゃな。おぬしが悪いわけではない」

 うなだれるトワに対し、多少、ばつの悪さを感じて、ラグナはいった。

「無意味に期待したわしが悪いのじゃ」

 そういっている間に、アルシュラウナの変容は終わっていた。

 泡立つ不気味な肉塊から、人間態とでもいうべき姿への変容。肉体の白さは変わらないが、五体がしっかりと存在し、二本の足で立っているというだけでも、異形感が薄れている。なにより、人間そっくりに変身したのだ。

 それでも竜属からしてみれば異形といえなくもないが、ラグナにとって人間ほど見慣れた存在もなかった。もしかすると、竜属以上に人間のことを見てきたかもしれない。

 もっとも、アルシュラウナのその姿は、人間そのものとも言い難いものがあった。人間というよりは神人であり、神人というよりは使徒に近い。獅徒なのだから当然だろう。白い外皮に覆われた肉体に纏うは、純白の甲冑であり、それは獅徒の外見的特徴に合致した。

 獅徒アルシュラウナが、ようやくその姿を現したというべきかもしれない。

 人間としては秀麗といってもいい顔立ちなのだろうが、ラグナには、興味がないためどうでもいい情報だった。おそらくは、転生以前のグラハムという人間の姿に似ているのだろうが、ラグナの記憶にはそんな人物の顔はなかった。

 記憶しておく必要があるのはセツナの顔だけといってもいい。それも、必ずしも重要なことではない。大切なのは、魂だ。

 魂の色、魂の形さえ覚えていれば、忘れなければ、たとえどれだけ年月が流れ、姿形が変わろうとも、決して見間違えることはない。

 たとえ何度生まれ変わっても。

 そのとき、アルシュラウナが、口を開いた。

「わ」

「わ?」

 思わず反芻するようにいったのは、意味ありげに聞こえたからだが。

「わわわたたたししの名ははは、アルシュラウナ」

「なんじゃ?」

 ラグナは、きょとんとした。エリナ、トワとも顔を見合わせたが、ふたりとも不思議そうな表情をしていた。それもそうだろう。口を開いたかと思えば、まともな会話もできなさそうな口調だったのだ。

 だが、その両目にははっきりとした敵意があり、ラグナは、油断ひとつしていなかった。

「獅徒にしして、ここ、百識の間を預かるるものなりり」

 いうが早いか、獅徒は、剣を掲げてきた。なにもかも白く塗り潰された異形の剣。その刀身が輝いたかと思うと、足場が揺れた。

 ラグナは足下の床が崩れるのかと思い、咄嗟にその場から飛び離れると、空中で静止したものの、そういうわけではなかった。揺れたのは、この迷宮のような図書館そのものであり、書棚であり、無数の本のようだった。

 周囲に降り積もった本の数々が、突如として、重力を無視するようにして浮かび上がると、ラグナの周囲を取り囲む。

「ラグナちゃん、本が!」

「わかっておる!」

 いわれるまでもないことだが、しかし、エリナがしっかりと周囲を見ているということがわかったのは大きい。彼女は、年齢からは考えられないほどに場数を踏み、死線を潜り抜けてきた猛者なのだ。このような状況であっても冷静さを保ち続けられることがなによりの証拠だろう。

 そんなエリナが補佐をしてくれているのだ。

 負けるわけもない。

 ラグナは、頭上を仰ぎ見ると、急上昇して本の包囲網を突破した。

 眼下では、包囲網を突破された無数の本が開かれており、本の内側から様々な武器が飛び出していた。剣や槍、斧や鎚、杖もあれば、矢もあった。

「なるほどのう」

 ラグナは、得心するとともにアルシュラウナが戦いづらい相手であると認識した。



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