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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百五話 星と太陽と月と獣(一)

 獅徒ファルネリア。

 そう名乗ったのは、女だ。

 美しい女だった。穏やかな笑みさえ浮かべた顔立ちは、美貌といっていいだろう。眉の形から顎の輪郭に至るまで、均整の取れた顔立ちは、美女という言葉に相応しいものだ。

 ただし、変わり果てている。

 全身が白く変容した元人間の女。髪の先端からおそらくは足の爪先まで真っ白に染まっているだけでなく、細胞の隅々に至るまで神化し、人間とはまったく別の生物、別の存在へと変わり果て、成り果てたもの。獅徒。獅子神皇の使徒。

 その女が発する淡い光は、神々しいといってもいいのだろう。

 神威に近い。いや、神威そのものなのかもしれない。

 神を力の源とする使徒と同じく、主たる獅子神皇の神威を力の源としているのであれば、そうなるだろう。

 そして、そうであれば、使徒以上の強敵であり、凶悪極まりない存在であることは疑いようがない。

 身の丈は、人間と変わらないようだ。おそらく、だが、彼女の人間時代そのままなのではないだろうか。なんとなく、そう想像する。でなければ、多少なりとも大きくなっているか。女性にしては長身のほうだろう。が、マリアほどではない。シーラと然程変わらなかった。

 その全身に纏っているのは、純白の甲冑だ。それこそ、獅徒の共通点であり、他の神の使徒との相違点といってもよかった。

 獅徒のだれもが身につけている純白の甲冑は、同じ形状をしているように思えるが、実際にはそうではないようだ。全体的に似ているように見えるだけで、細部が異なっている。たとえば、ファルネリアの甲冑には、星や月、太陽の意匠が組み込まれているが、それはミズトリスの甲冑には見られなかったものだ。

 甲冑の形状の違いが戦闘にどれほどの影響を与えてくるのかはわからないが、気にしておくべきだろう。

(気にしすぎて足下を掬われることがあってはならないが)

 シーラは、ハートオブビーストを握る力を強くして、自身を戒めるように思った。

「どうしました? 先程から黙り込んで。なにか、気になることでも?」

「敵と交わす言葉なんて持ち合わせてねえよ」

「そうですか。それは残念です。わたしは、お喋りのひとつでもしたかったのですが」

 本当に残念そうにいってきながらも、ファルネリアは、左腕を頭上に掲げて見せた。星の意匠の入ったほうの腕だ。つぎの瞬間、籠手がまばゆい光を放ち、無数の光の棘のようなものが飛び散った。

 それを目の当たりにしたときには、シーラは、大きく後ろに飛び退いている。

 元より、ふたりの間の距離は遠く、わざわざ飛び離れる必要があったとは考えにくい。が、シーラは、脳内に鳴り響いた警鐘に従うことにしたのだ。経験からくる警告が、全力で回避運動を取らせた。

 すると、どうだろう。

 ファルネリアの周囲にばらまかれた光の棘は、地面に突き刺さると想像を絶するほどの大爆発を起こした。ファルネリアの周囲一帯に巻き起こった時間差の爆発の嵐は、やがて、先程までシーラが立っていた場所にまで到達し、さらにその範囲を広げていく。

 光の棘ひとつひとつが凄まじい爆発力を秘めており、それを一瞬にして大量にばらまくことができるのだから、ファルネリアの能力は凶悪というほかない。

 爆撃の嵐によって、夜の闇が夜明けのように眩しくなったが、それも止むと、静寂に満ちた暗闇が訪れた。満天の星々も、月も、爆撃がもたらしたまばゆさには敵わない。

 見知った大地があっという間に破壊され尽くすと、さすがのシーラもなんともいえない気分になった。同時に、俄然、闘志が湧く。

「いうわりには殺意たっぷりじゃねえか!」

「手を抜くわけには参りませんので」

 ファルネリアは、しれっとした顔でいってきた。

「お喋りに夢中になって負けたとあっては、ヴィシュタル様に申し訳が立ちません」

「獅子神皇じゃなくて、ヴィシュタル様、か」

 シーラは、斧槍を構えたまま、ファルネリアを注視した。ファルネリアの左腕には最大限の注意を払わなければならない。大爆発を起こす光の棘を、一瞬にして大量にばらまくことができるのだ。いまのところ、なにかしらの条件があるようにも見えない。いつでも、何度でも、好きなときに使うことができる可能性もある。そうである以上、注意しておくことに越したことはなかった。

 だからといって距離を取り続けても、勝ち目はない。

 シーラの得物は、斧槍だ。能力を発動できればまだしも、そうではないいま現在、相手の懐に飛び込む以外に攻撃のしようもなく、勝機もなかった。

「嫌いじゃないぜ、そういうの」

「獣姫様ならばわかってくださるものと、想っておりましたわ」

「俺は姫じゃないがな」

「では、シーラ様、と呼ばせて頂くといたしましょうか」

「どうでもいいさ」

 シーラには、ファルネリアが喜ぶ様が気に入らなかった。命を懸けた戦いの最中、相手と多少なりとも分かり合えたことを喜ぶ暇など、あろうはずもない。それがあるのは、自分が優位に立っていることを認識しているからだ。意識しているのか、無意識のうちなのかはわからないが、どちらにせよ、シーラには気に食わないことだった。

 獅徒だからこその余裕が、ファルネリアの言動から感じられるのだ。彼女にそのつもりがなくても、だ。

「あんたは敵だ。斃すべき、な」

「セツナ様のため、ですね?」

「そうさ」

 肯定し、鋭く息吹を吐く。

「それが俺のすべてだ」

 同時に地を蹴っていた。低空を滑るように飛び、ファルネリアとの距離を詰める。“剣聖”から学んだ呼吸法は、シーラがこれまで鍛え上げてきた肉体の能力を最大限に発揮させるに至った。あの修行はまったくの無駄ではなかったし、ハートオブビーストを使いこなせていると判断されたシーラにとって、“剣聖”との特訓ほど必要なものはなかったのだ。

 だが、ファルネリアに刃が届くだけの間合いに入ることは、できない。

 ファルネリアが無造作に振り上げた左腕が、その籠手がまばゆく輝いたからだ。無数の光の棘が、ファルネリアの左腕から円錐状に飛び散ると、その射線上に爆発の連鎖が巻き起こる。大爆発に次ぐ大爆発。熱と衝撃波が嵐のように巻き起こり、爆風が粉塵を吹き飛ばしていく。

 シーラは爆発の範囲から逃れこそできたものの、またしてもファルネリアから離れざるを得ず、舌打ちした。

 これでは、埒が明かない。

 どれだけ速度を上げて近づこうにも、距離がある以上、ファルネリアの虚を突くことはできず、反応されてしまうのだ。そうなれば、光の棘をばらまかれ、回避に専念しなければならなくなる。

「それは素晴らしいことです」

 ファルネリアは、満面の笑みを浮かべていた。

「愛を誓った御方にすべてを捧げ、尽くす。それこそ、女冥利に尽きるというものですもの」

 そして、今度は右腕を掲げる。籠手に刻まれた太陽の意匠が、夜の闇を切り裂くほどに光り輝くと、シーラは、はっとした。閃光が視界を真っ白に塗り潰した瞬間、なにかが動く気配があったのだ。それは物凄まじい重圧とともに降ってきた。

 ファルネリアだ。

 そう確信したとき、シーラは、全力で斧槍を振り上げた。地面を抉り、大量の土砂を巻き上げるように。

 すると、頭上で大爆発が起きた。

 大量の土砂が大量に降り注いだ光の棘とぶつかり合い、爆発したのだ。

 距離は、近い。

 爆風が、シーラを飲み込んだ。


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