第三千四百一話 結晶大地の激戦(五)
侍大将は、厳格かつ尊大な人物に見られがちだが、実際のところ、彼ほど隊長同士の関係に目を配り、気を揉んでいるものもいないのではないか、と、スコールは見ている。
なぜならば、侍大将こそが護峰侍団の運用方針を決めているからであり、最適な作戦行動の実行のためにも、隊長同士の相性の良し悪しを把握していなければならないからだ。
故にヴィステンダールは、十名いる隊長同士の関係が良化することを望んでおり、あらゆる隊が一切の問題なく作戦行動をともにし、完璧な連携をこなせるようになる日を夢に見ているのだ。そして、そのために隊長同士の仲が良くなるようにと様々に手を打っていた。
もっとも、ヴィステンダールのそういった策が上手く行くかどうかは、やはり、隊長同士の本質的な部分での相性が関係しているようであり、スコールと六番隊長シグ=ランダハルのように根本的に合わないものたちがわかり合える日は来そうになかった。
そんなヴィステンダールの胃が痛くなるような日々には多少なりとも同情はするものの、それが侍大将の役割なのだから致し方のないことだ。
護峰侍団でもっとも偉く、もっとも重要な役割であるはずの侍大将が、もっとも心をすり減らす立場なのだ。
そして、そのような日々に溜まりに溜まった鬱憤を晴らすようにして最前線で暴れ回っているヴィステンダールの姿を見れば、侍大将になどなりたいとも想わないのがスコールだった。
ヴィステンダールは、剛刀・覇鉄と大鎧・古鉄というふたつの召喚武装を同時併用しており、その戦いぶりは豪快極まるものだ。古鉄の防御性能に頼り切ったような突撃でもって敵陣に切り込むと、大刀を振り回して剣風の嵐を巻き起こすのだ。凄まじい斬撃の数々が神兵の巨躯を容易く肉塊に変えてしまう様は、さすがは護峰侍団を率いる侍大将というべきだろう。
武装召喚師の総本山たるリョハン、その中でも武闘派である護峰侍団において選りすぐりの隊長たちをも支配するのが侍大将なのだ。生半可な実力では務まらない。
侍大将に選ばれるのは、隊長の中でも特に実力と功績を認められた人物であり、癖の強い隊長全員と強い信頼関係が結ばれていなければならなかった。
スコールですら、ヴィステンダールは尊敬するべき武装召喚師として、見ている。
「にしても、突出し過ぎじゃあないかね」
「無視したな?」
「根に持たない」
「持つ」
「ええ」
「……確かに、指揮官たる侍大将が敵陣に切り込むのはどうかと想うがな」
「やっぱり、日頃の鬱憤かなあ」
「それだけではないだろうが」
それもある、と含むようにして、アルセリアはいった。
彼女の召喚武装は、靴型というべき形状をしている。名を戦靴クイーンドレッドという。故に彼女は足技を得手とするのだが、足技を得意とするから靴型召喚武装を愛用しているのであり、靴型召喚武装を呼び出してしまったから足技に特化する戦い方を体得したわけではない。
身のこなしも軽やかに敵の攻撃をかわし、あるいはクイーンドレッドで受け止める姿は、流麗としか言い様がない。
そして、隙を見つけた瞬間に叩き込まれる蹴りの一閃もまた、鮮やかだ。直撃の瞬間、靴の踵から放出された凄まじい量の衝撃は、神兵の上半身を粉々に打ち砕き、“核”を露出させる。すると、彼女の部下が間髪を入れずに攻撃を叩き込み、“核”を破壊して見せた。
部下との連携も、護峰侍団の隊長に求められる要素のひとつだ。
その点については、スコールも負けてはいない。
雷槍オーロラフォールを舞い踊るように振り回し、ついでのように雷光の雨を降り注がせれば、周囲の神兵を尽く巻き込み、様々に痛撃を与える。運良く“核”を露出させることができれば、部下のいずれかが確実に仕留めてくれるから、スコールは気楽だった。
気負う必要がない。
部下を信頼しているし、部下もまた、彼を信頼してくれている。
強固な信頼関係こそが連携の要だ。
そしてそれは、護峰侍団全体にいえることであり、護峰侍団の理といってもいいのかもしれない。
空中高く飛び上がった際に横目に見れば、七番隊長サラス=ナタールが九番隊長オルファ=サンディーとの信頼関係を見せつけるようにして、神兵を蹂躙していた。
最高齢の隊長サラス=ナタールは、侍大将ヴィステンダールよりも年上ということもあって護峰侍団の重鎮として扱われがちだ。教室も持ち、多数の弟子を抱えている。その弟子のひとりが彼と息の合った戦いぶりを見せつけているオルファ=サンディーであり、弟子が隊長に選ばれたことからも、サラスの教育者としての実力も窺い知れるというものだろう。
サラスが全身に身に纏う白銀の甲冑は、鎧型召喚武装シルバーコフィンであり、オルファが身に纏う長衣型召喚武装シルバーウォールは、師の影響を受けた結果だろう。
そんなふたりの信頼関係は、苛烈なまでの連携攻撃からも見て取れる。
空中に舞ったサラスが白銀の光に包み込まれると、オルファがその背を殴りつけるようにしたのだ。すると、白銀の光弾となったサラスが敵陣に襲いかかり、何十体もの神兵を巻き込み、薙ぎ倒していった。何体かは“核”ごと破壊したようだが、生き残った神兵には、オルファの追撃が襲いかかり、何体もの神兵を一網打尽にしてしまった。
見知った連携攻撃とはいえ、想わず唖然としてしまう。
「さすがは銀の師弟だ」
アルセリアが素直に褒めるのも当然ではあった。
(まあ、そうだけど)
スコールは、槍の切っ先を地上の敵に向けると、一条の雷光となって突っ込んでいった。
激戦は、続いている。
アルヴァ=レロンは、弓銃型召喚武装レインボウカノンでもって神兵の群れを攻撃しながら、周囲の様子に気を配っていた。
護峰侍団一番隊長たる彼は、敵陣で暴れ回る侍大将の代役を務めなければならなかった。それは、ヴィステンダール直々の指名であり、命令でもあったのだ。
本来ならば侍大将こそどっしりと後方で構え、戦況を見て適切な指示を飛ばすべきなのだが、ヴィステンダールは、最初に各隊長に指示を下したあとは、みずから敵陣に切り込んでいってしまった。すると、侍大将の補佐たる参謀二名がアルヴァの元にやってきて、大将代理を務めて欲しいといってきたものだから、彼は、なんともいえない顔になったものだ。
ヴィステンダールは、基本的に保守的な人物だ。常に慎重かつ冷静、行動を起こすにも熟慮に熟慮を重ねた末、というところがある。だからこそ、護峰侍団の頂点たる侍大将に選ばれたといっても過言ではないのだ。
護峰侍団は、積極的に行動を起こす組織ではない。リョハンの自衛こそが主目的であり、リョフ山とその近隣の警護が主な任務といってよかった。
そんな組織にあって、積極的、能動的な人物が指揮を執るのは、好ましくないのだ。
故にヴィステンダールのような人物が選ばれるのであり、彼は、御山会議の思惑通りに護峰侍団を運営してきたはずだ。
そんな彼がまさかここにきて、日頃の鬱憤を晴らすかのように敵陣に切り込んでいったのは、さすがのアルヴァにも想像のつかないことだったし、その結果、自分が護峰侍団全体を見なければならなくなったのは、笑えない冗談だと想ったのだった。




