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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千二百二十二話 解き放つ(四)

 イルス・ヴァレへの帰還を果たすなり実感したことは、この世界の大気を制御するのがいかに楽かということだった。

 長年慣れ親しんできたというのもあるだろうし、自分自身が生まれ育った世界だから、というのもあるはずだ。それ以外に理由として考えられるのは、本当にシルフィードフェザーの世界の大気よりも扱いやすい性質を持っている、ということだが、その可能性も決して低くはない。

 ルウファは、シルフィードフェザーの翼を広げ、星空の下を飛翔しながら、そんなことを考えていた。

(戻るなり戦場の真っ只中とはね)

 異世界での試練を終え、イルス・ヴァレに戻ろうとしたとき、シルフィードフェザーからの忠告があったが、それがこの状況を示したものであるとは、さすがのルウファも思ってもいなかった。しかも、扉を潜り抜けたときには召喚武装としてのシルフィードフェザーを身に纏っていたのだから、驚愕も甚だしい。

 術式を介さず、召喚武装を呼び出すことなど、本来ならばできるはずもない。

 では一体、なにが起こったのか。

 試練を乗り越え、そのような力を身につけた、などということがあるわけもなく、単純に、シルフィードフェザーが協力してくれたのだろう。

 門を潜り抜ける瞬間、召喚武装としての力を貸してくれたのだ。だからこそ、ルウファは、この世界に帰ってくるなり、すぐさま飛び立ち、戦場を駆け抜けることができた。

 戦場。

 見渡す限り、どこもかしこも激闘を繰り広げている。

 激突する軍勢のうち、どちらが味方なのかは一目瞭然だ。竜と皇魔、人間からなる軍勢が味方であり、飛翔船と神兵からなる軍勢が敵だ。そしてその敵とは、ネア・ガンディア軍であることは、だれに聞かずともわかることだった。

 飛翔船を用いる軍勢など、ほかに知らないからだ。

 もしかすると、まったく未知の軍勢である可能性もないではなかったが、どうでもいいことだ。セツナたちが戦場に在り、敵対している以上、敵を敵と認識し、攻撃するべきであるということなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 それだけを考えるべきだ。

(とはいえ、どうしたもんかな)

 どうやら、味方が押されているらしく、どうにかして戦局を覆さなければならないほどの状況であるらしいということが、風に乗って聞こえる声から伝わってくる。

 だれもが必死に戦っているのだ。

 レムも、ウルクも、エスクも、エリルアルムも、だれもかれも。

 竜たちも、皇魔たちも、人間たちも。

 リョハンの武装召喚師たちも、だ。

 六大天侍の皆も、全力を挙げて敵軍への攻撃に参加し、あるいは本陣の防衛に力を注いでいた。

 シヴィル=ソードウィンが召喚武装ローブゴールドによって多数の神兵を屠れば、ニュウ=ディーのブレスブレスが神兵を薙ぎ払い、カート=タリスマのホワイトブレイズが氷壁を生み出している。アスラ=ビューネルは三鬼子・月鏡の真価を発揮させていたし、グロリア=オウレリアのメイルケルビムは、空中戦において多大な戦果を上げているようだ。

 各人の戦いぶりを感じ取って思うのは、負けていられないということだが、同時に、このような戦いをいつまでも続けられるものではない、という危機感にも似た想いだ。

 確かに、彼らは強い。

 六大天侍は、リョハン最高峰の武装召喚師たちであり、護峰侍団の隊長たちはそれに匹敵する力を持っている。彼ら以外にも実力を持った武装召喚師は、リョハンに多数いて、それらが多大な戦果を上げていることは、調べずともわかることだ。

 しかし、それは一時的なことに過ぎない。

 元より、武装召喚師というのは長期戦に向いてはいない。召喚武装の維持と能力の行使に精神力を消耗するからだ。

 しかも敵が強ければ、力を入れざるを得ない。武装召喚師たちが力を入れれば入れるほど、消耗は激しくなり、さらに長期戦が厳しいものとなる。

 負担と消耗は、武装召喚師に常について回る問題なのだ。

 その問題を解決する方法は、いまのところ、ない。

 力の配分と運用法を考える以外にないのだ。

 そして、この戦いは、どれだけ適切に力を配分し、運用法を徹底したとしても、武装召喚師たちの精神力が尽きるほうが、敵軍が壊滅するよりも早いだろうということが明らかだった。

 というのも、敵がまったくもって減らないからだ。

 いや、減ってはいるのだが、その分、増えているようなのだ。

 まるで際限なく増援が来ているように。

(際限なく……か)

 増援がどこからともなく現れることなど、あるだろうか。

 可能性として考えられるのは、飛翔船だ。ネア・ガンディアの飛翔船には転送装置があり、転送装置を介して大部隊を送りつけてくるという話を聞いたことがある。見たところ、敵陣の後方に艦隊ともいうべき飛翔船の群れがあった。

 そして、際限なく現れる神兵の数々は、それら巨大飛翔船から飛んできているようだった。

 つまり、あの巨大船を落とさなければ、戦況を覆すことは不可能ということだ。これまで見たどの飛翔船よりも巨大なそれらは、船というには大きすぎた。まるで空飛ぶ要塞のようであり、光り輝く無数の飛翔翼を生やしたその様は、異様としか言い様がない。

 視線を巡らせる。

 その途中で、雷光と磁力の渦を見た。莫大な力の奔流は、異世界での試練を乗り越えたが故のものだろう。ファリアとミリュウ。ふたりの息の合った戦いぶりを見届けたい気もするが。

(雑魚は、あのふたりに任せるとして)

 ルウファは、シルフィードフェザーを最大限に広げると、翼の数を増やした。加速する。

(俺は――)

 敵陣上空を飛び越えようとすると、何体もの神兵が殺到してきた。

 神鳥型の神兵たち。

 炎を纏う燕に雷を纏う鷹とでもいうべきそれらを一瞥して、ルウファは、なんともいえず苦笑した。そんなもので足止めできると思われているのか、と。

「雑魚に用はないんだ」

 かといって、斃すのも惜しい。

 しかしながら、ここで振り切った結果、味方に被害が出るのは問題外だ。ならば、どうするべきか。逡巡もなく、ルウファは、飛んだ。神兵の集団が追い着いてこられそうな程度の速度でもって、駆け抜ける。

 そのときだ。

 とてつもなく巨大な雷鳴が轟いたかと思うと、閃光が後方から駆け抜けていった。凄まじい爆発音に目を向ければ、敵陣を貫く一条の残光を見る。ファリアとミリュウの共同作業は、彼女たちがこれまで見せてきたどのような攻撃よりも強力かつ、圧倒的といわざるを得ない。

 再び、雷鳴を聞く。

 空飛ぶ敵の数が減ることは惜しいが、戦力差を覆すには致し方のないことだ。

 そう思っている間にも、ルウファは、敵艦隊を視界に捉えていた。

 背後から飛来した神兵の攻撃の数々を大気の障壁で防ぎながら、要塞のような飛翔船の巨大さに唖然とする。

(それにしたって大きすぎやしないか)

 いくらネア・ガンディアの力を示すためもあるとはいえ、あまりにも巨大すぎて、運用に困るのではないか。

 そんなことを考えていると、飛翔船の群れがルウファの接近に気づいたようだった。艦隊の前方に構築した分厚い防衛網を容易く突破してきたことへの驚きもあったに違いない。

 少しばかり、遅かった。

 神威砲による砲撃が始まったときには、ルウファは、シルフィードフェザーの能力を全開にしていた。



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