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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百六十九話 幕、上がる(五)

「……当然、ねえ」

 それも、わかってはいる。

 これまで散々抵抗し、敵対してきたリョハンや、ネア・ガンディアとは相容れることのない三界の竜王を攻め滅ぼすべく、あの大艦隊はやってきたのだ。交渉の余地など端から在ろうはずもなく、問答無用で攻撃してくる可能性のほうが高かった。

 故に三界の竜王は、いつでも三位結界を張れるように準備をしていたに違いない。

「少しは可能性というものを信じてみてくださればよろしいのに」

「そうすりゃ付け入る隙ができたって?」

「そんなことはありえませんか?」

「どうだろうな」

 セツナは、レムの話に雑な相槌を打ちながら、敵艦隊を見つめた。

 無数の飛翔船と多数の飛翔戦艦からなる大艦隊は、ゆっくりと、しかし確実に、こちらに近づいている。

 三位結界が張り巡らされた一帯への砲撃が無効化される上、その結界内にこそ、斃すべき敵がいると判明している以上、ネア・ガンディアの大艦隊は、どうしたところで三位結界に接近せざるを得ない。三位結界に近づき、戦力を送り込んでくるのだ。

 となれば、こちらの戦力でも十二分に戦えるのではないか。

 ネア・ガンディアの飛翔船は、ウルクナクト号がそうであったように神威を動力としていた。大艦隊を構成する飛翔船のほとんどは、神の乗船を必要としない新型の飛翔船である可能性が高いが、しかし、飛翔戦艦となると話は別だろう。

 飛翔船とは比べものにならないほどの規模の戦艦だ。

 神が乗船し、神威を注ぎ続けなければ飛び続けることなどできまい。神威砲を発射するとなるとなおさらだ。

 そして、つい先程まで視界を蹂躙した神威砲による一斉砲撃こそが、大艦隊の基本戦術であるということを考えれば、神々を戦力として派遣してくる可能性は低いと考えていいのではないか。

 となれば、大艦隊が戦力として寄越してくるのは、地上戦力であろう聖軍将兵に神人や神獣などの神化した怪物たち、そして、神々の使徒と見ていい。

 神々との直接的な戦闘は、いまは、考慮する必要がなさそうだった。

「いうておくが、三位結界が防ぐことができるのは、結界外からの攻撃のみじゃ」

『結界内部への侵入を防ぐことも、結界内部での戦闘行動についても、干渉できないことを心得よ』

「そんなこったろうと想ったよ」

『ですが、セツナ。結界内部に在る限り、わたくしたちがあなたがたを加護することもまた、事実ですよ』

「それは、心強いことです」

「なんじゃなんじゃ、わしの加護もあるのじゃぞ!?」

「拗ねるなよ。俺の竜王様」

「拗ねてなどおらぬぞ」

「そりゃあよかった」

「ふん」

 鼻息も荒く顔を背けたラグナだったが、その小さな体から溢れる喜びを抑えられないように尻尾を振り回していた。

 魔人が、囁くようにいってくる。

「ラグナシアの扱いも手慣れたものだな」

「あんたのおかげでな」

「いい誕生日の贈り物だっただろう?」

「……ああ、最高だよ」

 セツナは、魔人の皮肉とも本音とも取れない発言に対し、全力で肯定した。

 何年も前の誕生日。

 あの日、アズマリアがラグナを差し向けてくるようなことがなければ、セツナが彼女とここまで仲良くなることはなかったのではないか。ラグナが側にいてくれたからこそ、乗り越えられた場面はいくつもあった。ベノアなどがその最たる例だろう。

 そしていまも、彼女には大いに助けられている。

 ラグナだけではない。

 レム、シーラ、エリナ、ウルク、エスク、ダルクス、エリルアルム――。

 だれもがセツナにとって必要不可欠な存在であり、皆がいてくれたからこそ、自分はここにいられるのだ、と、彼は本気で想ってた。

 アズマリアだってそうだ。

「あんたにだって感謝しているさ」

「ほう?」

「俺にこんな人生を与えてくれたんだからな」

「皮肉か?」

「いいや、本心だよ」

 セツナは、苦笑を浮かべる魔人を見つめて、いった。

「最高の人生だ」

 それもまた、心の底からの想いであり、アズマリアは、予想外の言葉に面食らったようだった。


 戦いの幕を強引に開いたのは、北東方面制圧艦隊の一撃だった。

 一撃というには、あまりにも苛烈な一斉砲撃。

 バルガザール級飛翔戦艦一隻、ラグナホルン級飛翔戦艦一隻、ホークロウ級飛翔戦艦二隻に加え、多数の飛翔戦艦、そして無数の飛翔船に搭載された神威砲が、一斉に火を噴いたのだ。

 次空をねじ曲げかねないほどの莫大な神威が、白くまばゆい光の奔流となって夜の闇を吹き飛ばしながら、北東大陸へ殺到していった。空を灼き、海を割り、天を砕きながら。

 直後、轟音がアルガザードの巨体をも揺らした。砲撃の反動ではなく、砲撃が直撃したことによる余波が衝撃波となって艦隊を襲ったのだ。余波だけで天地が震撼したのではないか、と、思えるくらいの衝撃だった。

 だが、しかし。

 幻光幕を埋め尽くした光が消えてなくなると、予期せぬ光景が広がっていた。

 神威砲の一斉砲撃によって消滅するはずの南西部沿岸地帯が無傷のまま残っていたのだ。

 当然、敵戦力も無傷だ。

 なにか強大な力によって防がれたのは間違いない。

 イルトリは、すぐさま作戦の変更を考えたが、敵軍の反応を窺うため、もう一度、一斉砲撃を行った。大艦隊による一斉砲撃は、とてつもない破壊力を持っている。並大抵の方法では防ぐことなどままならないはずだ。一度は防げたとしても、二度も防げるものかどうか。

 しかし、二度目の砲撃も、防がれてしまった。

 しかも、完全無欠に、だ。

 三度、四度と繰り返しても無意味に終われば、イルトリ以外の神々も考えを改め始めた。

 五度目の砲撃が防がれたとき、大艦隊は方針を変更した。

 一斉砲撃による一方的な蹂躙は諦め、北東大陸に戦力を送り込むことにしたのだ。

「こうなった以上はそうするよりほかありませんが、しかし、だいじょうぶなのですかな?」

「なにがだ?」

「彼らがどうやって一斉砲撃を凌いだのかがわからぬのです」

「わからぬな。だが、それを探っている状況でもあるまい」

 ホグナハンの意見ももっともだったし、状況が許すのであれば彼のいうように敵の対抗手段を探るべく時間を費やすのだが、そういっていられるような場合ではない。

 イルトリには、後がないのだ。

 早急に北東方面を完全制圧し、勝利の報告をもってナルンニルノルに帰還しなければならない。

 ただでさえ、当初の思惑とはまったく異なる事態に陥っているというのに、時間をかけてなどいられなかった。

 イルトリは、苛立ちを覚えながら、左方の幻光幕を見遣った。幻光幕には、ジーンが映り込んでいる。ジーンは、艦隊の一部を率いて、リョハン攻略に赴いていた。

「リョハンはどうなっている?」

『そちらと同じですよ』

「同じ?」

『一斉砲撃がまったく意味をなしません』

「ふむ……ならばリョハンは捨て置け」

『はい?』

「いますぐこちらに合流するのだ」

 イルトリは、幻光幕に投影されたリョハンを睨み付け、口の端を歪めた。

 敵がリョハンを突出させ、大陸から離れさせたのは、こちらの戦力を分散させるためだということは、わかりきっていた。敵の策に乗ったのは、たとえ分散させたとしても、こちらの圧倒的な火力の前では、大陸もリョハンも一撃の元に沈黙するだろうという算段が在ったからだ。

 しかし、リョハンも大陸も鉄壁の防御力を誇っているというのであれば、大陸から離れる一方のリョハンなど放置して、大陸に全戦力を注ぎ込むほうが余程有益だろう。

 大陸さえ制圧してしまえば、リョハンなどどうとでもなるものだ。


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