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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百六十話 神慮(三)

 セツナたちが、魔晶船に乗って、ベノアガルドの在るというベノア島なる島に向かって飛び立って、数日余り。

 その間、ミドガルドがなにをしていたかといえば、魔晶城の大改造と、魔晶人形および魔晶兵器の大量生産。そして、魔晶船の建造だ。

 いずれも、ネア・ガンディアとの決戦に必要不可欠な戦力を確保するためのものであり、新生魔晶城は、この数日間、一瞬たりとも休むことなく稼働し続けていた。

 魔晶人形にせよ、魔晶兵器にせよ、その製造に関して、ミドガルドがすることといえば、製造工場の機能を稼働させるだけであり、あとは、材料が尽きるまで放って置けばよかった。

 エベルとの決戦に投入された魔晶兵器群は、心核の魔晶石を交換することで再起動しており、それだけでかなりの数の戦力を確保できているのだが、これではまだまだ圧倒的に足りない、ということで、彼は、魔晶城の大改造に踏み切っている。

 大改造された魔晶城は、一回りも二回りもその敷地を広げており、とてつもなく広大な敷地内に無数の製造工場を持つ、世界最大の兵器工場となったことは、間違いなかった。中でも魔晶船の部品を開発する工場は多岐に渡っており、魔晶城の敷地の半分ほどを使っていた。

 というのも、数隻の魔晶船を一刻も早く建造するためだ。完成した部品の数々は、神々の御業によって早急に組み上げられていく。

 そして、あっという間に完成した魔晶船は、三隻。

 いずれもセツナたちのために作り上げた魔晶船とは毛色の異なる外観をしているものの、性能差はない。セツナたちが駆る魔晶船が既に安定した性能を見せていた以上、そこに余計な手を加えるような真似はするべきではない、と、ミドガルドは判断した。

 いまは一刻も早く戦力を必要としているのだ。ここで選択を間違えれば、取り返しのつかないことになりかねない。

(そう……一刻も早く)

 ミドガルドは、逸る気持ちを抑えるようにして、つぎつぎと完成し、起動する魔晶人形や、魔晶兵器の数々を見守っていた。

 それら魔晶兵器群は、起動確認次第、続々と魔晶船に搬入されていく。

 焦りを覚えるのは、状況が動きつつあるという報せがあったからだ。

 報告してきたのは、同志の神であるところのアグナダ神だ。少年神は、ディール大陸の遙か北東に異変を察知し、その様子を探ってきたのだ、という。

 それにより、ネア・ガンディアがついに動き出したことを知ったのだ。

 また、ネア・ガンディアは、かつてガンディア王都ガンディオンがあった地点の遙か直上に本拠地を持っているということも、知った。白い球体のような本拠地から無数の飛翔船が飛び立つ光景を目の当たりにしたアグナダ神は、それら飛翔船が世界各地を侵攻し、制圧するための戦力だろうと推察した。

『俺がいうんだ、間違いないと思うぜ』

 アグナダ神は断言するとともに、セツナたちと連絡を取るべきではないか、ともいった。

 神々がその存在を忌み嫌う魔王の杖の護持者は、対ネア・ガンディアにおいては、必要不可欠似して最重要戦力であり、神々もまた、頼らざるを得ない状況にあることを認めているのだ。だからこそ、とにかくセツナと連絡を取り、合流するべきだ、というアグナダ神の意見に賛同する声も少なくなかった。

 しかし、ミドガルドは頭を振った。

 セツナたちは、ベノア島に飛び立ち、そこからこちらに戻ってくる気配がなかった。それにはいくつかの理由が考えられる。

 ひとつは、ベノア島でなんらかの問題に遭遇し、その解決に手間取っている可能性。

 ひとつは、ベノア島での問題を解決したのち、別の地域へと飛び立ったという可能性。

 ひとつは、東ヴァシュタリア大陸にあるという“竜の庭”に向かった可能性。

 三つ目の可能性がもっとも高い、と、ミドガルドは考えているのだが、だからといっていまから連絡を取りに行くというのでは、時間的猶予がなさすぎるのではないか。

 アグナダ神は、ネア・ガンディアが世界全土を征服するために動き出したようだ、と、いった。

 それはつまり、このディールの地にも戦火が及ぶということにほかならない。 

 セツナたちに戦力を提供するのは当然であり、彼らに協力することを第一に考えなければならないが、一方で、聖王国防衛についても、彼は、全力を注がなければならないと想っていた。

 だからこそ、彼はこの地に残ったのであり、ミナ=カンジュを演じ続けているのだ。

 かつて愛し、いまもなお愛するひとのために。

 そのために、彼は、ここディールの大地で、ネア・ガンディアの軍勢を待ち受けるつもりでいた。

『本気か?』

『正気……らしいな』

 フォロス神が怪訝な顔をすれば、ラダナス神も困惑を隠せない様子だったことを覚えている。

『セツナ殿の力を借りず、わたくしたちだけでネア・ガンディアの軍勢に挑む、と、仰るのですね』

『ははっ、心意気だけは素晴らしいと褒めてやるけどさ!』

『生中なことではないぞ?』

 もちろん、わかっている、とミドガルドはいった。

 だが、勝算がまったくない、というわけではなかった。

 セツナたちに提供する予定だった魔晶兵器群に加え、元々聖王国に配備する予定だった魔晶兵器群が、いま、この魔晶城に存在している。

 全部で三十万体の量産型魔晶人形に、各種魔晶兵器の総数は十万機を数える。それに加え三隻の魔晶船が戦力となる上、六柱の神々が協力してくれるのであれば、ネア・ガンディアが送り込んでくるであろう軍勢に立ち向かうことは、必ずしも不可能ではあるまい。

 ネア・ガンディアの全軍が攻め込んでくるのであれば話は別だが、そうではないのだ。

 獅子神皇と戦うわけではない。

「獅子神皇と戦うのは、わたしの役目ではありませんからな」

 ミドガルドは、何度となくいったことを、その日も口にした。

 それは自分に言い聞かせているようなものだ。

 出過ぎた真似をするな、自重し、みずからの役割を果たせ、と、何度となく自分に言って聞かせなければ、いまにも飛び出しかねない気分があった。

 漠たる不安がある。

 ネア・ガンディアが動き出したことがこれほどまでに不安を掻き立て、焦燥させるなど、考えたこともなかった。

 心配なのは、自分のことではない。

 ウルクのことだ。

 娘の――。

「ウルクのことならば心配することはないだろうに」

 ラダナス神が呆れた顔でいえば、フォロス神もめずらしく同意して見せた。

「まったくだ。あれが一番安全な場所にいるといっても過言ではないのだぞ」

「そうです、同志ミドガルド。あなたのほうが、ウルクよりも危険な戦いを行おうとしているのですよ?」

 ミュゼ神のいいたいこともわからないではなかったが、ミドガルドの胸の内には、不安ばかりが広がるのだから、致し方ない。

 確かに、ウルクは、ここよりも安全な場所にいるのだ。

 セツナの側という、もっとも安全な場所に。

 だが、同時にそこは、もっとも危険な場所でもあった。

 なにせ、セツナは、獅子神皇との戦いにおける最高戦力であり、彼こそが、唯一無二の切り札なのだ。

 ウルクは、彼とともに在る。

 彼が、死地に赴けば、当然、彼女もまた、死地に赴くだろう。

 セツナは、いい。

 彼には、絶大な力がある。

 だが、ウルクはどうか。

 肆號躯体。

 弐號躯体とは比較するべくもなく強力な躯体であり、神々ともある程度対等に戦うことも不可能ではないだろう。

 だが、獅子神皇が出張ってくるようなことがあれば、果たして。

 ミドガルドは、そのことが心配でならなかった。

 北東の空を染め上げる飛翔船の群れよりも、余程。


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