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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百四十九話 反撃(九)

 ドルカ=フォームは、マイラムにあるログノール政府官邸に半ば幽閉されているも同然だった。

 ログノールがログナー島の支配者として君臨していたわずかばかりの期間がほんの少し懐かしく感じるものの、だからといって状況を改善しようという努力はしない。現在、ログナー島の支配者はネア・ガンディアであり、ネア・ガンディアの秩序に逆らうのは賢いやり方ではない。

 駐屯部隊として派遣された聖軍の将兵は、話の通じる人間ばかりである上、横暴でもなければ、狼藉を働くようなものはひとりとしていない。法に従い、規律を守り、秩序を維持することに全力を上げていて、そのやり方に従ってさえいれば害はなかった。

 そのため、ログナー島の統治をこのままネア・ガンディアに任せてもいいのではないか、と考え、靡くもの、聖軍に取り入ろうとするものがそれなりに現れ始めており、ログノール政府は内部で真っ二つに分かれ、対立している有り様だった。

 ドルカが動かないのは、そういう理由もある。

 ドルカを支持するものたちは、保守派、あるいは総統派と呼ばれ、ネア・ガンディアに取り入ろうとするものたちは急進派、あるいは守旧派と呼ばれている。

 ひとつの派閥を示す言葉として、急進派と守旧派ではまるで意味が異なるはずだが、彼らの主張を一纏めにすると、そう形容するほかない。

 ネア・ガンディアを受け入れ、その法秩序に順応することこそ急進的であると主張する一方、ネア・ガンディアとは、かつてログナー島一帯を支配していたガンディアそのものであり、ネア・ガンディアに付き従うということは、ガンディアに帰属することであり、ガンディア国民ならば当然の判断であると、彼らは主張するのだ。

 そういった考えに賛同するものは、国民の中にもいて、その数は決して少なくはない。

 そんな情勢下で、総統派の領袖と見られているドルカが、なにかしらの動きを見せれば、急進派を刺激しかねない。ただでさえ不安定な状況で、両派の対立を促進させるようなことは避けなければならなかった。

 もし、総統派と急進派が激突するようなことがあれば、待ってましたとばかりに聖軍が介入してくるのは目に見えている。

 実際、両派の過激な考えを持つもの同士の衝突が起こったことがあるのだが、そのとき、聖軍は治安維持を名目と掲げて部隊を動かした。果たして、両派の過激分子は、聖軍によって鎮圧され、拘禁されている。

 ドルカがみずから動けば、その比ではない衝突が起きる可能性があり、彼は、より一層慎重かつ冷静な言動と対応を求められることとなった。

 これ以上、聖軍による締め付けが厳しくなるようなことがあってはならない。

 死者たちが意気を吹き返し、反撃の狼煙を上げるそのときまでは、現状を維持することに徹しなければならないのだ。

 故に彼は官邸に引きこもり、政務に没頭する日々を送り続けていたのだが。

「どうやら潮時らしい」

 ドルカは、執務室の窓から覗く夜の景色が突如として騒々しいものへと変わっていく様を目の当たりにして、告げた。官邸二階にあるその部屋には現在、彼とニナ=セントールのふたりしかいない。広い室内。備品や調度品の類はニナが手配したものであり、ここのところ彼が向き合い続けている机だって、ニナが選び抜いたものだった。

 天井に設置された魔晶灯の装飾も、ニナのお気に入りであり、ドルカの意見が聞き入れられた部分はなにひとつない。聞き入れられたものがあるとすれば、ニナに側にいて欲しい、という望みだけだ。そして、彼にとっては、それだけで十分だった。

 それだけで、生きていける。

「想像していたよりも随分と早いのですが」

「そりゃそうだ。だれが今日の空模様を想像できた? いくら想像力の豊かな子供だって、あんな景色を思い描くことなんてできなかっただろうさ」

 夕焼けの空を覆う大船団は、ドルカに絶望的な現実を突きつけるかのようであったし、反攻作戦によってログナー島を取り戻し、ネア・ガンディアを撃退するという淡い希望に対し、冷水を浴びせられたような気分になったものだった。

 数え切れないほどの飛翔船の群れがどこへ向かっていったのかなど知る由もない。ただ、それがネア・ガンディアの底知れない軍事力の一端に過ぎないという事実だけは確かであり、反攻作戦によるログナー島の解放など、なんの意味もなさないのではないか、と、考え込まざるを得なかった。

 それでも、彼が自棄にならずに済んだのは、ログナー島に好機が訪れたからだ。

 現在、時計の針は十二時を少し過ぎていた。

 午前零時。

 真夜中も真夜中だ。

 いくら仕事漬けのドルカであっても執務室に籠もっているような時間ではないし、普段ならば寝室の寝台に潜り込んで、夢を見ている頃合いだ。その夢が極上のものであるか、最低最悪のものであるかは、日によってまちまちだが、大抵はいい夢を見て、目が覚めて、幻滅するのだ。

 ネア・ガンディアに支配されているという現実は、どんな甘美な夢の余韻も容易く吹き飛ばす。

 ネア・ガンディアが、真の意味で新生したガンディアならば、良かった。

 レオンガンド王の統治下ならば。ガンディア王家と、それに連なるひとびと、英雄セツナに数多くの勇士たち。それらすべてを内包する国ならば、なんの問題もなく、それどころか喜んでログノールそのものを差し出しただろう。

 だが、ネア・ガンディアは、ガンディアではなかった。

 少なくとも、ドルカはそう考えていたし、ニナも、エインも、アスタルも同意見だった。彼の腹心たちはいずれも、彼の考えに賛同しており、だからこそ、ネア・ガンディアに服従しながらも、反攻のときを窺い続けてきたのだ。

 ネア・ガンディアよりログナー島を取り戻す。

 そのためには、様々な条件を突破しなければならない。

 ひとつは、ネア・ガンディアがログナー島に駐屯させている聖軍の戦力を上回る戦力を持つこと。

 ひとつは、その戦力でもって、聖軍を撃破し、勝利すること。

 そして三つ目。

 これがもっとも肝要であり、不可能に近いことだ。

 ネア・ガンディアがログナー島の支配を諦めること――。

(そんな虫のいい話はないが)

 しかし、ネア・ガンディアがログナー島を軽視していることは、確かだった。

 現に、ネア・ガンディアの大船団がログナー島上空を通過した際、マイラムに駐屯していた聖軍将兵二万人のうち、一万八千人が大船団に合流したのだ。

 その事実からわかることは、ネア・ガンディアのこのたびの大々的な軍事行動が極めて重要なものであり、ログナー島の統治に不備が出ても構わないと考えているということではないか。

(あるいは、たとえこの島に異変が起きたとしても、後でどうとでもなる、と考えているか……だが)

 おそらくは、そうなのだろうし、その考えに間違いはなかった。

 あれだけの規模の戦力を自由自在に動かせるのだ。

 この度の軍事行動が終われば、透かさずログナー島にその一部を差し向け、再び制圧することだって余裕だろう。

 だから、ログナー島は手薄になった。

 そして、それを好機と捉え、動いたものたちがいる。

 エンジュールに隠れ住んでいた死者たちだ。

「あれは、エンジュールかバッハリアの騒動を聞きつけた連中だろう」

 ドルカは、窓の外に視線を遣って、ニナを促した。ニナは窓際に歩み寄ると、窓の外を見て、眉根を寄せた。夜の闇と魔晶灯の光が拮抗するマイラムにあって、官邸の正門付近というのは一際明るく保たれている。ややもすると権威的に見えなくもない魔晶灯が真夜中であってもその光を絶やすことなく、警備の兵が常にその周囲を固めているのだが、いまは、その警備兵たちが脇に退いていた。

 開かれた正門から庭を進んでくるのは、聖軍の連中だった。

「将軍と参謀が動いた、と?」

「この好機を逃す手はないからねえ」

 ドルカは、苦笑交じりにいった。

 これを好機と捉えたのは、エインだろう。

 彼のことだ。

 その後のことも考えてくれているに違いない。


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