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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百三十七話 時が動く(二)

 ネア・ガンディアが動き出したということがわかったことにより、セツナたちを取り巻く状況は一変した。

 三界の竜王にセツナを加えた四者会議の中で判明したのは、ネア・ガンディアの新たなる牙城の存在と、ネア・ガンディアが多数の飛翔船をその牙城より出撃させたということ。そして、その飛翔船がネア・ガンディアの牙城から全方向に向かって飛び立ったということだ。

 その三つ目が重要だった。

 つまり、ネア・ガンディアは、狙いを定めて軍勢を出撃させたというよりは、世界中に戦力を派遣したと考えたほうが正しいのではないか、と、会議は結論づけた。

 獅子神皇の狙いがなんなのか。いったい、なにを望み、どのような理由から軍勢を動かそうとしているのか。

 それについて、セツナたちは、想像するほかない。

 獅子神皇は、聖皇の力の器だと、いう。

 故に絶対的な力を持ち、神々の王として君臨し得るのだが、一方で、器たるレオンガンドの意思がまったく影響していないかというと、そういうわけではない。

 ログナーやザルワーンを真っ先に制圧したのも、セツナを求めたのも、獅子神皇の中にレオンガンドとしての意識が色濃く存在するからであり、レオンガンドとして振る舞っているからに違いないのだ。

 ただ、セツナ自身が獅子神皇のやり方を認めることはできないから、レオンガンドと切り離して考えようとているに過ぎない。

 現実には、獅子神皇はレオンガンドそのひとそのものであり、聖皇の力の器と言い切れるものでもないというのに、だ。

 割り切らなければ、やっていられない。

 ただ、それだけのことで、セツナは、獅子神皇を獅子神皇と見て、レオンガンド・レイ=ガンディアであると認めないのだ。

 認めれば、その瞬間、なにもかもが崩れ去ってしまう。

 そんな気がするからだ。

 ただし、だ。

「獅子神皇が聖皇の力の器であるだけならば、まだ、いい」

 四者会議の後、リョハンに向かったセツナにアズマリアはいった。

「獅子神皇が聖皇そのものであれば、世界は問答無用で滅ぼされているはずだからな」

 つまり、獅子神皇とはどういった存在なのか。

「聖皇の力の器だよ。滅ぼすべき、この世界の敵だ」

 アズマリアは、セツナの内心の迷いを断ち切るように告げてきた。

 セツナは、言葉もなくうなずき、それからリョハンを走った。

 四者会議で決まったことを伝えなければならないからだ。

 

 四者会議による決定事項が“竜の庭”全土に知らされたのは、その夜の内だ。ラングウィンの眷属たちが飛び回り、“竜の庭”中に知れ渡った。

 碧樹の丘で続けられる手筈だった合同訓練は、このときを以て終了となり、参加者各自、消耗した体力の回復に務めるよう、また、各員持ち場に戻るようにと通達がなされた。

 “竜の庭”は、元々警戒態勢が敷かれていたが、これにより、臨戦態勢が敷かれることとなり、全区域に緊張が走った。

 もっとも戦場となる可能性の高い南西区域に住む非戦闘員は、“竜の庭”北部への移動が推奨され、飛竜たちが全力を挙げて協力した。

 ネア・ガンディアの牙城たる白い球体が発見されたのは、東ヴァシュタリア大陸より遙か南西、ガンディア小大陸の上空であり、そこから戦力を差し向けてくるとなれば、戦場となるのは“竜の庭”の南西部からリョハン周辺であろう、と考えられた。

 そのため、“竜の庭”は防衛戦力を南西部に集中させており、リョハンは、空中都市そのものを南西部の海上に配置した。

 空中都市リョハンは、その存在そのものが巨大な防壁となりうる。

 守護神マリクによって張り巡らされた防御障壁は、空中都市の眠っていた機能が解放されたことにより、以前よりも遙かに強力なものとなっていたからだ。

 それは、セツナたちがリョハンを離れている間、マリク神らの調査や研究によって発見されたものであり、リョハンはそれらの機能、設備によって、鉄壁の防御を得たというのだ。

『過信は禁物だけどね』

 とは、マリク神の言葉だが、彼は自信に充ち満ちているように見えた。

 その結果、空中都市リョハンを前面に出すというマリク神渾身の策が実行に移されることになったのだ。

 以前よりネア・ガンディアがリョハンに執着していた事実を逆手に取り、ネア・ガンディアが差し向けてきた戦力をリョハンに集中させ、その間に敵主力を叩くというのがマリク神の考えだ。そのため、リョハンの非戦闘員は“竜の庭”に降ろされている。

『これまで三度もリョハンを制圧しようとしたんだから』

 必ずや、ネア・ガンディアの戦力の一部を引き受けられるだろう、と、マリク神はいってきたものの、それで困るのはセツナのほうだった。

 確かにリョハンの守護結界は強化され、生半可な攻撃では沈むことは愚か、傷つくこともないのだろうが、だからといって、戦火飛び交う真っ只中にレオナを置いていくことはできない。

「そうなると、レオナ様はどこに……」

 セツナが困り果てていると、レイオーンの鬣に掴まったままのレオナが当然のような顔でいってきた。

「レオナはセツナと一緒にいるぞ」

「……御冗談を」

「冗談なものか。わたしがおぬしに獅子神皇の討伐を命じたのだぞ」

「だからといって……」

「おぬしの側が一番安全だと、レイオーンもいっておる。のう?」

「うむ」

 レオナに話を振られたレイオーンが迷いもなく首肯する様を見て、セツナは、唖然とした。が、しかし、よくよく考えてみれば、彼のいうとおりかもしれない。

 ネア・ガンディアは、世界中に戦力を派遣した。

 目的は、おそらく世界全土の制圧、征服であり、世界全土ありとあらゆる地域が戦場になることは明白だ。“竜の庭”の一部だけが戦場になる、というのは、こちらの予測に過ぎず、“竜の庭”全土が戦火に包まれる可能性だって十分にあり得るのだ。

 そうならないように突出するのがリョハンであり、リョハンはみずからネア・ガンディアの注目を集め、敵戦力が分散し、戦火が拡大するのを防ごうというのだ。だが、それが必ずしも上手く行くとは限らないし、仮に上手く行ったとして、レオナの避難場所が攻撃を受けないと言い切れるわけではない。

 しかも、ネア・ガンディアの手のものがレオナを狙って動く可能性もある。

 獅子神皇がレオンガンドの意識のまま動いているのであれば、尚更だ。

 実際、ネア・ガンディアがザルワーン島を制圧した際、獅子神皇は、ナージュとレオナを迎えに来ているのだ。

 ナージュは、獅子神皇にレオンガンドを見出し、その手を取った。

 レオナは、獅子神皇を拒絶し、否定した。

 だから、レオナはここにいるのであり、獅子神皇がいまもレオナを欲している可能性は否定できない。

 なにせ、レオンガンドなのだ。

 どれだけ否定しようと、聖皇の力の器と言い張ろうと、獅子神皇にはレオンガンドの意思が働いているのだ。

 だからこそ、獅子神皇は、ガンディアに拘り、小国家群統一に拘るかのような動きを見せたに違いなかった。

 世界征服も、その延長上にある出来事に過ぎないのではないか。

 だとすれば。

 セツナは、レオナと目線の高さを合わせるように屈み込むと、その小さな手を取った。まだまだ幼い少女の、しかし、責任感と使命感に満ちた瞳を見つめれば、その想いを否定することはできない。

 彼女は、彼女なりにみずからの責務を果たそうとしているのだ。

「わかりました、レオナ様。レオナ様のことは、わたくしめが必ずや御守りいたしましょう」

「うむ。よろしく頼むぞ」

 セツナの手を握り返したレオナの表情は、頼もしげに笑っていた。


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