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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百三十三話 船の中で(一)

 空をゆく船の中にいる。

 参加者全員を敵に回しての合同訓練を終えての休憩中、セツナたちは、突如としてラングウィンの召喚を受けた。

 流星のように現れた飛竜イネイルカーラギアによって告げられた緊急招集により、すぐさま魔晶船に乗り込んだのは、碧樹の丘まで同行してきた面々だけではない。

 レムにシーラ、エスクにダルクス、エリルアルムたちも船に乗り込んだのは、セツナと行動をともにしているという意識があるからだろう。

 ラムレシアも、ラングウィンの召喚によって、セツナたちとともに“竜の庭”の北部、霊帝の座所に向かうことになった。

 ラングウィンに名指しで召喚されたのは、セツナとラグナ、ラムレシアの三名であり、三名以外同行する必要はなかったが、同行を拒む必要もなかった。イネイルカーラギアも、三名だけでなければならない、とはいわなかったのだ。問題はないだろう。

 セツナたちはともかく、シーラたちは、魔晶船に乗り込むと、ウルクナクト号とは全体的に勝手が違う様子に戸惑っていた。船内の構造も内装も機能も設備も、なにもかもが大きく異なっている。ウルクナクト号を元に造られたとはいえ、ミドガルドによって一から設計し直されているのだから、さもありなん、といったところだろう。

 セツナたちがなぜ魔晶船という新たな飛行船に乗ってきたのか、ということについては、掻い摘まんで説明している。

 その説明中、だれもが度肝を抜かれた反応を見せたのは、いうまでもない。

 なにせ、あのナリアと並び立つ二大神の一柱、黒陽神エベルとの戦闘中に轟沈したのだ。ナリアとの死闘を経験したレムたちにしてみれば、セツナたちだけで同等の力を持つ神を討滅したなどとは、到底考えられないことだっただろう。

 もし、セツナたちがエベルと遭遇するようなことがあれば、一目散に逃走し、戦力を募るべきであり、レムたちはそのことで怒った。が、事情を聞けば、黙り込まざるを得ない。すべては、ミドガルドが仕組んだ計略であり、神をも欺く計画の内に過ぎなかったのだから。

 そして、ミドガルドの思惑通りエベルが討ち滅ぼされたことも話した。

 ミドガルドたちの協力によって、新たな翼・魔晶船があっという間に作り上げられたことも、神聖ディール王国との協力関係が結ばれ、その旗頭、象徴にはマユリ神が選ばれたこともだ。

 そのことに関して不服を述べたのは、レムだった。

「御主人様ではいけなかったのでございましょうか?」

「ただの人間じゃあ説得力はないからな」

 だから、奇跡を体現する神でなければならなかったのであり、それもただの神ではなく、行動力を持ち、希望を司るマユリ神でなければならなかったのだ。ミドガルドが同志の三神を象徴に選ばなかったのは、きっと、そういう理由からだろう。

 なにより、マユリ神には、数々の実績がある。

 セツナたちと行動を供にし、数多の苦難を乗り越えてきた実績がだ。

 すると、エスクがここぞとばかりに茶々を入れてくる。

「ただの人間ってあーた」

「あん?」

「化け物じゃないっすか」

「俺は人間だぞ」

「はいはい、人間ですねえ」

「雑に流すんじゃねえよ」

 長期間離れていたわけではないというのに、そんな会話すら懐かしく感じるのは、きっと、離れている間に濃密な時間を過ごしたからだ。

 エベルとの激戦こそ、まさにそれだ。

 実際に戦っていた時間は短いはずなのに、物凄まじい時間と労力を費やした気がするのだ。

 それはきっと気のせいなのだが、実感としては、エスクたちとの軽口の叩き合いが懐かしいと思ってしまうのだから、仕方がない。

 と、そのときだ。

「ひとつ、うかがってもいいだろうか」

「ん?」

 エリルアルムが足を止めたのは、船内の居住区画を案内しているときのことだ。

 全員が怪訝な顔でもってエリルアルムを見遣ると、彼女は、通路に面した一室に目を向けた。その瞬間、セツナは、彼女の疑問に気づいたが、どうしようもない。

「この部屋……なぜセツナ殿とウルクの名札がかかっているんだ?」

「それは……」

 居住区画には、乗船員の個室が連なり、通路を挟んで向かい合っているのだが、個室には、部屋主の名札が掲げられているのだ。そして、エリルアルムが見つめた先の部屋は、ほかよりも大きく造られている上、扉の上にでかでかとセツナとウルクの名札が掲げられていた。

「ああっ、本当でございますね!?」

「ああん!? どういうこった!?」

「確かに確かに……これはいったい?」

 素っ頓狂な声を上げるレムとシーラに対し、エスクの反応はというと、実に愉快げなものであり、彼の性格の悪さが如実に表れている気がしてならなかったが、そんなことをいっている場合ではない。

「これは……だな」

「これはですね……」

 セツナは、ウルクと顔を見合わせ、どう説明するべきものかと考え込みつつ、ウルクが赤面していることに気づき、茫然としたりもした。

 

 セツナが、魔晶船の内部構造を把握したのは、完成し、試運転をする段階になってからのことだ。それまでは、船のことはミドガルドに任せきりだったし、ミドガルドならばセツナたちの活動に支障の出ない船を作り上げてくれるに違いないという信頼があったから、なにひとつ注文することはなかった。

 それが結果的に良かったのか、悪かったのかは、わからない。

 ただひとついえることは、余計な注文をしなかったからこそ、ミドガルドは魔晶船を思いのまま設計し、技術の粋を注ぎ込んだ挙げ句、早急に完成させることができたのだ。

 そればかりは否定しようのない事実だろう。

 が、それはそれとして、セツナは、内部構造を把握した際、居住区画に用意された自分の部屋を目の当たりにした瞬間、言葉を失ったのも事実だった。

『これはいったい……?』

 セツナの疑問に、ミドガルドは胸を張っていってきたものだ。

『娘の幸福に全力を尽くさぬ親がおりますか?』

 つまりミドガルドは、ウルクのためを想って、セツナの部屋をウルクとの相部屋にしたということだ。

 そう断言されれば、返す言葉もない。ましてや、作り直せ、などといえるはずもない。ミドガルドに作ってもらったのだし、それが嫌なら、最初からミドガルドの思惑が入る余地もないほどに注文しておけばよかったのだ。

 たとえば、自室は、自分専用である、とだけでもいっておけば、こうはならなかったはずだ。

 が、時既に遅し。

 こうなった以上は、ウルクとの相部屋であっても利用するほかなかった。


「なるほど……そういうことか」

「ミドガルド様らしいといえば、らしいのでしょうが……しかし……」

「へえ……セツナは、それで納得したってわけか……」

「いや、納得というか、だな……」

 三者三様の反応を見せるエリルアルムたちに比べると、にやにやしてこちらを見ているエスクが腹立たしいのだが、彼に構っている場合ではない。シーラたちの感情を刺激しないよう、穏便に話を進めなければならない。

 そう考えていると、セツナの頭の上で小飛竜が首を捻った。

「なんじゃなんじゃ、なにをそんなに荒れておるのじゃ?」

「ラグナには関係ねえことだ」

「むう?」

「おまえはいつもセツナにべったりじゃねえか」

「なんじゃ、シーラもセツナとべったりしたかったのかのう?」

「え、いや、そ、そういうわけじゃねえから!」

 シーラは、顔を真っ赤にすると、全身全霊の身振り手振りで否定の意を示すと、通路を駆けだした。そして、こちらを振り向いて、もう一度、叫んでくる。

「そんなこと、絶対にないからな!」

 そのまま通路を突っ切っていったシーラの後ろ姿が視界から消え去ると、レムがぽつりとつぶやいた。

「シーラ様は、ああいうところが可愛らしゅうございますね」

 同感ではあったが、セツナは、なにもいわなかった。


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