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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百二十六話 合同訓練(五)

 セツナは、碧樹の丘の中心に、ただひとり、立っていた。

 魔晶船の着陸地点のすぐ近くだ。その魔晶船はといえば、いまは碧樹の丘の北端に移動しており、レオナとレイオーンは魔晶船の甲板から合同訓練を見守っているはずだ。

 セツナを除くすべての戦闘要員は、セツナを中心として遠巻きに包囲するようにして陣形を構築している。武装召喚師たちは召喚武装を装備し、竜たちはいつでも飛び立てるように、動き出せるようにと身構え、皇魔も人間も開戦のときを待ちわびている。

 総勢、数万。

 人間と皇魔、竜に神が織り成す混成軍。

 対するは、セツナひとりだ。

 冬にも関わらず温暖な気候が特徴的な“竜の庭”の空気で肺を満たし、呼吸を整え、精神を集中する。全身全霊の力を込めれば、体中にとてつもない力が漲り、体の隅々まで熱を帯びていく。

 セツナは、既に完全武装状態になっていた。アレウテラスで見せたような、それもただの完全武装ではない。深化融合によって、眷属たちが合一した状態だった。ロッドオブエンヴィーの籠手にアックスオブアンビションの脚甲、ランスオブデザイアは尾となり、重装化したメイルオブドーターから生えた一対の翼はエッジオブサーストだ。

 マスクオブディスペアだけは相変わらずだが。

 黒き矛と眷属たち。合わせて七つの召喚武装を同時併用しているだけでなく、そのうち五つの召喚武装が融合し、深化したことで、セツナは常ならぬ恩恵を受けていた。召喚武装を手にすることによる副作用は、視覚、聴覚、嗅覚といったあらゆる感覚を向上させ、身体能力を引き上げるものだが、それがいま、尋常ではないほどに作用し、セツナの脳内に膨大なまでの情報量を取り込んでいた。

 感覚的なことをいえば、視界が、前方だけではなくなっているのだ。

 前方のみならず、左右も後方も上方も、ありとあらゆる方向の景色が脳裏に投影されていた。それは、視覚だけではなく、聴覚や嗅覚、触覚などが全感覚を総動員して捕捉した情報を統合し、不足分を経験や想像力によって補完されたことで完成する映像であり、それが毎秒どころか瞬間瞬間で変化し続ける次元で、セツナの頭の中に再現されていた。

 風の音が、さながら嵐の中にいるかのようにうるさく聞こえたかと思えば、碧樹の丘を踏みしめる靴音がすぐ側に響く。鋭敏すぎる聴覚が認識する音の大小関係なしに脳に叩き込んでくるからだが、それも次第に慣れていった。

 普通ならば人間の脳で処理しきれないほどの量の情報は、まるで洪水のようであり、ともすれば飲み込まれ、我を見失いかねないのだが、そこは黒き矛と眷属たちの扱いに慣れたセツナだ。情報の洪水に押し流されることもなければ、自分を見失うということもなかった。

 呼吸音を、聞いている。

(ああ……)

 セツナは、その独特な呼吸音を認めて、ミリアの話通り、シーラ、エスク、エリルアルムの三名が戦竜呼法を体得したのだと、理解した。

 セツナたちが“竜の庭”を離れて、それほど長い日数が経過したわけではない。短期間といっていい。にもかかわらず、シーラたちは、戦竜呼法の体得という極めて困難な試練を成し遂げたのだ。

(さすがだ)

 感嘆の想いを込めて、一同を見遣る。

 シーラは、斧槍型召喚武装ハートオブビーストを手にし、既に能力を発動していた。触媒として血液を必要とする能力の問題点をどうやって解決したのかは不明だが、ともかく、シーラは狐の耳と九つの尾を生やしており、その姿は凜然としていながらも可憐だった。

 エスクは、いつも通りだ。ソードケインを手にし、背に光の輪を負っている。まるで神々が負う光背のようなそれは、召喚武装ホーリーシンボルの能力だ。彼の肉体には、ホーリーシンボルとエアトーカー、ふたつの召喚武装が取り込まれている。

 不敵な笑みは、セツナとの全力の戦いを前に喜びを隠せないといったところだろう。

 エリルアルムは、槍型召喚武装ソウルオブバードを手にしており、背中から一対の翼を生やしていた。色鮮やかな真紅の翼を広げるその姿は、厳正な裁きを下す天使のようであり、彼女の美しさをより引き立てているようだった。そして、驚くべきは、彼女の後ろに控えているものたちだろう。

 銀蒼天馬騎士団の騎士たちは、全員が全員、エリルアルム同様に翼を生やしていたのだ。それはおそらくソウルオブバードの能力だろう。銀蒼天馬騎士団の中には武装召喚師もいれば、召喚武装使いもいるのだが、そのいずれもが翼型召喚武装の使い手、などということはないのだ。

 つぎに、ダルクス。彼は、いつも通り全身を覆う甲冑型召喚武装を身につけているだけでなく、見慣れない槍を手にしていた。波打つような穂先が特徴的なそれは、召喚武装に違いない。彼も、ただ鍛錬をしていたわけではない、ということだろう。

 レムは、普段通りだ。戦場にあって戦場に似つかわしくない可憐な女給服を身に纏い、闇色の大鎌を手にしている。が、それがただの見せかけであることがわからないセツナではなかった。

(やる気だな、あいつ)

 セツナは、レムが満面の笑みでこちらを見ていることから、彼女の企みを察し、内心、苦笑するほかなかった。

 レムには、とっておきがある。

 視線を動かせば、人間態のラグナとラムレシアが並び立っており、その様は壮観であり、華やかでもあった。ラグナはただ人間態になったわけではない。半人半竜と呼ぶに相応しいラムレシアの姿を真似ているのだ。それ故、どこか竜の凶暴性を感じられる。

 それに加え、ハサカラウ神も、竜人態だった。ただし彼は男性的な姿をしているため、華々しいというよりは雄々しく、猛々しいといったほうがいいだろう。

 そして、マユリ神とマユラ神が彼らの頭上を飾っている。希望の女神と絶望の男神は、いずれも神々しい光を放っていて、そこだけが妙に眩しかった。

 別方向に視線を向ければ、“剣聖”トラン=カルギリウスが待ち遠しいとでもいわんばかりの表情でこちらを見ていた。二本の召喚武装を手にした“剣聖”の姿は、かつてマルディアでエスクがルクスとともに戦った際の、最強装備なのだろう。

 両脇に並び立つアニャンとクユンも、臨戦態勢が整っている。

 他の竜騎士たちも、守護竜たちも、だ。

 アガタラのウィレドたちも、リョハンの武装召喚師たちも。

 グロリア=オウレリア、アスラ=ビューネル、カート=タリスマの三名も召喚武装を身につけているし、護峰侍団の武装召喚師たちも、いつ戦闘が始まっても構わないというような状態だった。

 空は晴れ渡り、雲ひとつ見当たらない。

 太陽は遠く、風は穏やかだ。

 まるで冬の真っ只中とは思えないくらいに暖かな日差しの中、碧く輝く大地の上で、それこそ史上最大の戦いが始まろうとしていた。

 一対数万。

(兵力差でいやあ、あのときよりは遙かに増しだろ)

 セツナが脳裏に思い描いたのは、最終戦争の最終局面のことだ。

 あのとき、セツナはひとりではなかった。レムもいれば、ウルクもいた。ほかにも何名もの味方がいたのだが、しかし、敵はこれ以上に多かった。

 三大勢力すべてが敵といっても過言ではなかったのだ。

 ヴァシュタリア共同体、ザイオン帝国、神聖ディール王国、それぞれが二百万ほどの大軍勢を率い、“約束の地”争奪のためにガンディアを踏みにじったあの日のことは、一生忘れないだろうし、あの戦いほどの絶望感は、そうあるものではないだろう。

 そう、いまは絶望していない。

 むしろ、興奮している自分に気づいていた。



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