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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百二十三話 合同訓練(二)

 飛竜たちの咆哮は、瞬時に魔法となり、魔晶船に襲いかかってきた。

 火炎の渦が押し寄せれば、光が奔流となって肉薄し、雷光の帯が無数に殺到してくる。そこへさらに皇魔たちの魔法攻撃が重なり、武装召喚師たちの攻撃も追加されるものだから、映写光幕に投影されるのは、破壊的な光景ばかりだった。

 魔晶船の防御障壁に直撃する魔法攻撃の数々が爆発し、炸裂し、光と音の乱舞を狂い咲かせていく。

 震動が船体を激しく揺らす中、レオナがセツナの肩に置いた手を強く握り締めるのを感じて、彼は、女神を振り返った。操縦席の女神は、苦笑していた。

「だから、通達しておくべきだといったのだ」

「船を飛ばすほうが早いといったのはどこのだれですかね」

「ふむ……」

「なにが、ふむ、じゃ」

 ラグナが呆れ果てる傍らで、ウルクが小首を傾げた。

 合同訓練が行われている碧樹の丘は、リョハンよりかなり遠方に位置している。

 セツナたちが合同訓練を見学に行くと決めたとき、まず先に合同訓練中のシーラたちに連絡しておくべきではないか、と提案したのは、確かにマユリ神だった。が、同じ口から魔晶船を飛ばしたほうが早い、ともいっていて、セツナたちは、その案に乗ったのだ。

 先触れを出したところで、先触れが到着するよりも遙かに早く魔晶船が到着するのは目に見えている。それならば、いっそのこと、連絡せずに向かったほうが色々と楽だろう。

 そう考えた結果がこれだ。

 船体が激しく震動するほどの苛烈な攻撃を受けながら、しかし、魔晶船は傷ひとつついていない。魔晶船を傷つけるには、まずは防御障壁を突破しなければならないのだが、魔晶船の防御障壁は、ウルクナクト号のそれよりも遙かに強固であり、堅牢なのだ。

 しかも、防御障壁を破ったところで、船体を傷つけることができるかどうかはまた別の話だ。

 魔晶船の船体そのものもまた、ウルクナクト号よりも強固なのだ。

 とはいえ、いつまでも攻撃されているのはたまったものでもないので、セツナは、魔晶船を包囲する飛竜や皇魔、武装召喚師たちに向かって、拡声器を通して攻撃の停止を呼びかけた。

 包囲側は、最初こそ疑念を抱いていたが、セツナの声であり、味方であるということが知れ渡ると、すぐさま攻撃を停止し、魔晶船とともに地上に降り立った。

 碧樹の丘の、碧く美しい大地に。

 

 碧樹の丘の中心に着地した魔晶船から降りたセツナたちは、合同訓練中の連合軍による盛大な出迎えを受けた。

 特にシーラ、レム、エスク、エリルアルムらは、船にセツナが乗っているということを知ると、いても立ってもいられなくなったとでもいわんばかりの勢いで、船の降下地点に集まってきており、昇降口を出たすぐ目の前に待ち構えていた。そして。

「御主人様あああっ!」

「お、おい、レム!?」

 全力で飛びついてきたレムの体重の乗った体当たりに耐えきれず、思わず倒れそうになったところをウルクに支えられて、事なきを得る。レムの体格は華奢であり、体重も軽いのだが、全力で突進してくればそうもなろうというものだ。嘆息とともに、背後を見る。

「助かったよ、ウルク」

「いえ、当然のことです」

 ウルクは、柔らかな笑みを浮かべながら、いってきた。その表情は、レムの反応が予想通りだったといわんばかりのものでもあった。

 それから、レムに視線を戻せば、彼女はセツナの胸に顔を埋めて、どこかうっとりしていた。

「レム、おまえはもう少し状況を考えてくれよ……」

 そういったのは、彼女がいきなり飛びついてきたことではない。セツナがレオナを抱えたままであり、危うく振り落としそうになったからだ。レオナも、レムの突然の行動に驚き、目を丸くしていた。

「でもでも、御主人様が悪いのでございますよ」

「なにがだよ」

「久々に逢えたのでございますよ? その喜びを全身全霊で表現するのは、下僕の務めでございます」

「なにが――」

 呆れながら言い返そうとすると、頭の上で小飛竜がうなずいた。

「うむ、先輩のいうとおりじゃ」

「そうです、先輩の仰る通り」

「だ、そうでございます」

 従僕仲間の同意を得たレムは、勝ち誇るかのようにいってきた。見れば、イルとエルまでレムの意見を肯定するかのようにうなずいている。従僕たちは、レムに強く影響されており、それどころか完全に支配下にあるといってもいいのではないか。

 そして、彼女たちの圧力を背景に主導権が握られる日がくる可能性を憂慮して、セツナは頭を振った。

 そんなろくでもないことを考えている場合ではない。

 何千、何万という戦士が魔晶船の前に集まっているのだ。

 

 その船は、異様な形をしていた。

 これまで、ウルクナクト号を始めとして様々な飛翔船を目の当たりにしてきたエスクから見ても、その船は、異形と呼ぶに相応しかった。

 飛翔船は、川船を超大型化した上で改良を施したような、そんな印象を受けなくもない。飛行時には翼が出現するというのは、幻想的かつ神秘的であり、異形感よりも美しさのほうが印象に残った。対して、突如空から降ってきた船は、異形感が強かった。

 まず、飛翔船とは異なり、翼を持たないというのが、違和感のひとつだろう。空飛ぶ船といえば、翼を生やすものだという先入観、固定観念があるからだ。そして、船体後部の巨大な輪だ。なんとも形容しがたい形状のそれを船と認識したのは、結局、セツナの声明があったからであり、それまでは落下してくる異形の物体、という認識しかなかったのだ。

 だから、全軍でもって迎撃する運びとなったのだ。

 もっとも、船であるという認識をだれもが持てたとして、迎撃しないわけはないのだが。

 それはそれとして。

「あーっ、レムちゃんずるいぜ!」

 エスクは、昇降口にセツナが姿を見せた瞬間、だれよりも早く彼の元へ飛び出したレムの背中に向かって、叫んだ。すると、近くにいたシーラがこちらを見て、怪訝な顔をした。

「おまえもあんな風に出迎えたかったのか?」

「いやいや、シーラ殿の本心を代弁しただけですぞ」

「はあっ!? なんで俺がっ!?」

 素っ頓狂な声を上げ、全身で大袈裟なまでの反応を示すシーラだったが、それこそ、彼女の本心の現れであるとエスクはよく知っていた。彼女がどれほどセツナを愛しているのか、知らないエスクではない。が、それはなにもシーラに限った話ではないのだ。真っ先に飛び出したレムだってそうだし、彼女の隣に立つエリルアルムだって、そうだろう。

「こういうときは素直が一番だぞ、シーラ」

 そういったのは、エリルアルムだった。

「え……?」

「わたしは、正直、羨ましい」

「そ、そうか……」

 シーラは、エリルアルムの予期せぬ反応にどう対処していいものか困り果てたように黙り込んだ。

 シーラにしても、エリルアルムにしても、セツナへの好意を表現することに躊躇わないレムやミリュウが羨ましいというのは本音に違いない。だれだって、そうかもしれない。愛するひとに恥ずかしげもなく本音を告げることができれば、これほど楽なことはないはずだ。

 だが、だれもがそのように振る舞えるはずもない。

 だから、レムやミリュウのように自分の感情に素直で、野放図なまでに曝け出すことができる人間は、羨ましがられるとともに反感を買いやすくもある。

 もっとも、だ。

 レムとミリュウのふたりがシーラたちに嫌われているかというと、そうではない。

 そういうところにセツナの人徳があるのかもしれない。



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