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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百十五話 獅神天宮(一)

 獅神天宮ナルンニルノル。

 獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアが、みずからの力によって滅ぼした神都ネア・ガンディオンの代替として創造したネア・ガンディアの本拠地だ。命名したのは獅子神皇であり、ナルンニルノルという言葉の意味を知っているのも、おそらくは獅子神皇だけだろう。

 その響きから連想するのは、神将たちの名だ。ナルガレス、ナルノイア、ナルドラス――。それらの命名も、獅子神皇がみずから行っている。もっとも、声に出して名付けた、ということではない。ヴィシュタルたちがそうであるように、生まれ変わったとき、脳裏に刻みつけられていたのがそれぞれの名前だった。

 獅徒の名も、そうだ。

 獅子神皇が名付け、脳裏に、いや、魂に刻印されている。

 ヴィシュタル、ミズトリス、ウェゼルニル、ファルネリア――。

 聖皇が作り上げた統一規格である大陸共通語でもなければ、聖皇が埋葬した古代言語でも、古代言語の元になった竜言語でもないそれは、獅子神皇の脳内にのみ存在する言語なのかもしれないし、あるいは、異世界の言語なのかもしれない。

 いずれにせよ、その不可思議な言葉には強大な力が込められていて、だからこそ、ヴィシュタルたちはヴィシュタルたちであり、神将たちも神将たちなのだ。

 命名とは、名に命を与えるものだ。

 名を与えられたものと、名を与えたものの間には強い結びつきが生じる。

 武装召喚師が召喚武装に命名するのも、そのためだ。その結びつきによって、武装召喚師は、召喚武装の力をさらに大きく引き出せるようになるのだ。

 それを絆と呼ぶこともある。

 が、ヴィシュタルたちの場合は、そうではないだろう。

(縛鎖……)

 魂を縛り付け、身も心も支配する呪縛。

 振り解こうとすればするほどより強く、より深く絡みつく、連鎖。

 無論、彼は、それをわかった上で獅子神皇の呼びかけに応えたのであり、いまさらそのことに不平不満をいうのは筋違いも甚だしいというものだろう。

 獅子神皇に付き従う獅徒として生まれ変わったのは、そうでもしなければこの世界に舞い戻ることができなかったからだ。あのまま、なにも果たせず、ただ死んでいくわけにはいかなかったからだ。聖皇復活の阻止は、ある意味で成功しながらも、ある意味で失敗に終わった。

 儀式は阻止した。

 聖皇の完全なる復活そのものを阻止することには成功したのだ。

 だが、聖皇の力は、復活してしまった。

 召喚が起き、暴走が始まった。

 そして、命を落とした。

 その直後に聞こえたのは、復活への誘惑だった。獅子神皇と名乗る前の、聖皇の力の器となったレオンガンドからの呼びかけ。堕落への誘い。

 振り切ることもできただろう。強い意志をもって立ち向かえば、あのまま死ぬことだってできたはずだ。

 しかし、彼はそうしなかった。

 なぜならば、なにも果たせていないからだ。

 だからこそ復活し、獅徒に成り果てた。

 だからこそ、いまこうして、恥辱の限りを尽くしてでも、ナルンニルノルの中にいるのだ。

 獅子神皇は、ヴィシュタルたち獅徒がネア・ガンディアに復帰することについて、なにもいわなかった。

 それどころかまるで当然であるかのように受け入れたのだ。そのことには不安や疑問を抱かないではなかったが、ネア・ガンディアにおいては獅子神皇の決定こそが絶対の真理である以上、そんなことを考えても仕方のないことだった。疑問を口にしたところで、答えが返ってくるはずもない。獅子神皇がなにを考えているのかなど、だれにもわからないのだ。

 もしかすると、獅子神皇すら、自分がなにを成そうとしているのか、わからないのではないか。

 ヴィシュタルは、どこか虚ろにも見えた獅子神皇の瞳を思い出すたびに、そんな風に想ってしまうのだ。

 獅子神皇は、かつてのレオンガンド・レイ=ガンディアそのもののように振る舞っている。それもそのはずだ。彼は、レオンガンド・レイ=ガンディアの亡骸に入り込んだ聖皇の力なのだ。その人格、記憶、性質は、レオンガンド・レイ=ガンディアに基づくものとなり、行動原理も彼に由来するのだろう。

 だから、獅子神皇は、腹心たる神将にかつてのガンディアの重臣を配置したのだし、かつてガンディアが領有した国土の制圧を最初の目標とした。

 小国家群だった土地の統一、掌握を夢と語った。

 レオンガンド・レイ=ガンディアの人格に引き摺られていたからだ。

 いまは、どうだ。

 獅子神皇は、変わった。変わり果てた。なにが原因なのかはわからない。とにかく、彼が変貌したということだけしか、ヴィシュタルたちにはわからなかった。

 神都ネア・ガンディオンを破壊し、世界を蹂躙した。

 その身に宿る聖皇の力でもって、だ。

 それはレオンガンド・レイ=ガンディアのやることではないだろう。

 レオンガンド・レイ=ガンディアについて、ヴィシュタルは詳しく知っているわけではない。《白き盾》がガンディアと行動を供にしたのはほんのわずかな期間だったし、ガンディアの躍進に伴って聞こえてくる情報の多くは、レオンガンドのことよりもセツナのことだった。

 ガンディア躍進の立役者たる英雄セツナの雷名こそ、遙か北の大地にも轟いたものだった。

 とはいえ、レオンガンドが小国家群統一を掲げながらも、無益な戦争、無為な殺戮を嫌っているというような話は聞いていたし、実際に逢って話をした際にもそのような人物に見受けられたのだ。

 無論、人間というのは、変化する生き物であり、考え方や行動原理が変わることだって十二分にあり得る。

 レオンガンド・レイ=ガンディアが、獅子神皇としての力の使い方を理解し、目的のための手法を変えた、ということだって考えられる。

 だが、しかし。

(そうは……想えない)

 ヴィシュタルの脳裏には、ナルンニルノル中枢・神皇の座で対面した獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアの愁いを帯びた顔が浮かんでいた。この世のすべてに失望しているかのような表情は、長い眠りから目覚めたばかりのころの彼とは、まったく異なるものだった。

 ネア・ガンディオンの爆心地にて暴走する獅子神皇の前に立ちはだかったヴィシュタルたちに向けた表情とも、違う。

 なにか大切なものを失ったような、そんな顔。

 ヴィシュタルは、それがレオンガンド・レイ=ガンディアの人間性なのではないか、と思えてならないのだ。聖皇の力の器たる獅子神皇を辛くも繋ぎ止めていた人間性という名の楔が、外れてしまったのではないか。

 そうすると、どうなるのか。

 ヴィシュタルが心配するのは、これからのことだ。

 獅子神皇がレオンガンド・レイ=ガンディアではなく、レオンガンド・レイグナス=ガンディア即ち聖皇の力そのものと成り果てるようなことがあれば、この世界は絶望の闇に飲まれるだろう。

「おやおや、こんなところにだれが集まっているのかと想えば、獅徒の皆様方ではありませんか」

 などと、わざとらしく話しかけてきたのは、ディナシアだった。

 ネア・ガンディアに属する神々の中でも一級神に類別される神の一柱であるディナシアは、数々の成果と数多の失敗、違反行為によって、ネア・ガンディアにとってどのような判断をしたものか、よくわからない立ち位置にあった。

 ネア・ガンディアに勝利をもたらしたと思えば、獅子神皇の命令を無視して怒りを買い、裁かれる。そんなことを繰り返しながら、どうにも飄々としているのがディナシアなのだ。

 そして、そんな彼の存在を許している獅子神皇の気分というのも、よくわからない。

 


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