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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百十三話 最終試練(一)

 試練は、佳境を迎えている。

 最初の試練を突破してからというもの、適宜休憩を挟みながらも、厳しい試練が続いていた。

 それらがいずれも雷に関連する試練なのは、オーロラストームの性質が深く関係しているからだろう。

 雷に撃たれ、死にそうになりながらも、なんとか突破してきたファリアだったが、一方で、終わらない試練に対する焦燥とは無縁の境地にあった。

 なにものにも揺るがず、動じることのない鉄の意思は、試練の中で培われてきたものだ。

 元々、ファリアの冷静さは頭抜けたものである、という自負はあったが、試練のおかげでより一層、強固なものになったという確信があった。

 上天を覆う雷雲と煌めく稲光、響き渡る雷鳴の大合唱すら、いまや日常の一部として感じれるほどになっていた。もちろん、これには慣れが影響しているのだろうが、しかし、突如として響く雷の大音声に慣れることなど、そうあるものではないだろう。

 試練のおかげだ。

 数々の試練のおかげで、ファリアは、自分というものを冷静に見つめられるようになっていた。

 鏡のような湖面に映る自分自身の姿を通して、己について考えている。

 自分がいま、なぜ、この異世界で試練を受けているのか。

 なぜ、そこまでしなければならないのか。

 そこまでするのか。

 イルス・ヴァレのためか。

 リョハンのためか。

 仲間のためか。

 もっと、単純な理由だ。

 単純で簡潔で、ありふれた理由。

 ただひとり、愛するひとのため。

 そのひとのためだけに、彼女はいま、ここにいる。

 本当にそれがすべてで、だからこそ、どのような試練にだって耐えられたし、泣き言ひとつ、弱音ひとつ吐かなかった。

 試練の先に未来があり、その未来に彼がいるからだ。

「ファリア、よくここまで到達しましたね」

 オーロラストームの声が響くと、湖面に映るファリアの姿が歪んだ。オーロラストームの声が波紋を生んだのだ。顔を上げると、波紋の中心、その直上に彼女が浮かんでいる。オーロラストーム。この異世界においてもっとも影響力を持つ存在は、神と言い換えてもいいのではないか、と思える。

 しかし、ひとの信仰が生み出す神と彼女は、大きく乖離した存在だった。

「わたしが認めただけのことはあります」

 雷光を纏う結晶体がひとの形を成したそれは、柔らかで、それでいて威厳に満ちた声でいった。

「つぎが、最終最後の試練です」

 オーロラストームの全身が莫大な雷光を放ったかと思うと、八体の化身が顕現し、ファリアを取り囲んだ。

「最終試練は単純。我が化身を斃し、わたしに到達しなさい」

 それだけをいうと、オーロラストームの姿が消えた。

 ファリアは、拳を固めつつも、苦い顔にならざるを得なかった。

 これまでの試練で直接の戦闘はなかったし、オーロラストームの試練とは、そういうものだとばかり思っていた。だが、そればかりではなかったらしい。

 それどころか、オーロラストームの化身と思しき八体との戦闘となれば、これまでの試練とは比べものにならないほどに困難なものになるのは、明白だ。

 とはいえ。

(やるしかないのよ)

 自分自身に言い聞かせて、彼女は、口を開いた。

 呪文を紡ぐ。


 ルウファは、既に数多くの試練を通過してきている。

 大気を司り、風を操るシルフィードフェザーの試練だけあって、大気や風に関連する試練が多く、ほとんどが困難を極めるものだったが、知恵と勇気を振り絞り、数々の難関を突破してきたのだ。

 もちろん、試練と試練の間には十分な休憩時間が用意されていて、それには感謝していた。

『試練は、君を試すためのもの。君を殺すためのものじゃあないからね』

 とは、シルフィードフェザーの言葉だが、そこに嘘はないようだった。

 もっとも、だ。

 ルウファに心安まる時間というものはほとんどなかった。

 なぜならば、休憩時間も気を緩めている暇がなかったからだ。気を緩めていると、どこからともなく飛来した猛禽に足蹴にされたり、引っかかれたり、噛みつかれたりするのだ。

 七彩の森に住む鳥たちはいずれもがシルフィードフェザーを拠り所としており、そんなシルフィードフェザーみずからが試練を与えるルウファに対し、物凄まじい嫉妬をしている、というのがシルフィードフェザー直々の分析だった。

 故に、ルウファを排除したがっているのであり、七彩の森から追放したがっているのだ。

 無論、シルフィードフェザーがそんなことを望むはずもなければ許すはずもないのだが、シルフィードフェザーがどれだけ厳命しても、森の鳥たちはそんなことお構いなしにルウファを襲うのだった。こればかりはどうしようもない、と、シルフィードフェザーはいった。

『愛されすぎるのも困りものだね』

 軽く笑うシルフィードフェザーに対し、笑い事ではない、などと語気を強めようものなら、無数の羽ばたきがルウファの耳に届いた。

 そんなわけで、ルウファは、シルフィードフェザーに強く出られなかったのだ。

 そうした中、七彩の森の一角に寝転んでいると、影が頭上を覆った。

「さあ、ルウファ。たっぷり休んだかい。試練の時間だよ」

「ああ、休んだとも」

 瞼を開ければ、遙か視線の先、上空を覆う翼を目の当たりにする。

「これが最終最後の試練さ」

 そんなシルフィードフェサーの発言とともに暴風が巻き起こり、気がつくと、黒いシルフィードフェザーとでもいうべきものが、ルウファの目の前にいた。

 

 これまで突破してきた試練の数々について、考えている。

 ミリュウがラヴァーソウルに提示された試練は、やはり磁力に関連するものが多かった。

 召喚武装としてのラヴァーソウルの能力は、磁力を操るものだった。召喚武装の能力は、召喚武装の本来の姿、本来の能力に関連している。

 では、ラヴァーソウルのどこが磁力と関連しているのか、といえば、それはよくわからない。

 ミリュウの前に現れたラヴァーソウルという存在は、実像ではない。ラヴァーソウルとは、この異世界のひとつの大陸を管理運営する機構のことなのだ。機構に芽生えた自我であり、自我が生み出した幻像こそ、ミリュウの前に現れたラヴァーソウルであり、夢現の狭間に見た彼女なのだ。

 機構としてのラヴァーソウルが磁力を操る能力を持っている、というのはまず間違いない。が、それがすべてではないようだった。能力の一部に過ぎないようなのだ。

 つまり、ミリュウは、ラヴァーソウルの一部だけを召喚武装として呼び出している、ということにほかならない。

 もし、ラヴァーソウルのすべてを召喚武装として呼び出すことができたならば、ミリュウの戦闘能力は大きく向上するのだろうか。

 それとも。

「ミリュウ」

 声に顔を上げれば、ラヴァーソウルが立っていた。ラヴァーソウルの幻像。紅く美しい女性の姿は、ミリュウにとって馴染みのある彼女の姿そのものだ。

「つぎが最終最後の試練としましょう」

 ラヴァーソウルはいった。

 耳に馴染んだ柔らかな声は、ミリュウの意識を戦闘状態に持って行くには少し、物足りない。あまりにも優しすぎるからだ。

「それが?」

 もっとも、ラヴァーソウルの背後に控えている人影に気づいたときには、ミリュウは、床の上に飛び起きていた。

「最終試練……ねえ」

 ミリュウは、ラヴァーソウルの背後から現れた自分自身を睨み付けて、苦笑した。

 磁力とまったく関係のない試練が最後の最後にやってくるとは、想像もしていなかったからだ。



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