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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千百十一話 闘神乱舞

 闘神との闘技は、次第に熱を帯びていく。

 セツナは、早々に四種同時併用のみでの勝利を諦めると、残る三種の召喚武装、アックスオブアンビション、エッジオブサースト、ランスオブデザイアを召喚し、それぞれマスクオブディスペアの闇の手に握らせた。

 というのも、闘神が本気を出してきたからだ。

 自身の炎を当然のように吸い込んで見せたラジャム神は、全身から熱風を噴き出すとともにその姿を変えた。ウォーレン=ルーンの数倍はあろうかという巨躯、六本の腕と六種の武器、燃え盛る炎の如き光背、そして鬼神のような面相は、かつて、闘神練武祭においてセツナの前に見せた姿そのものだった。

 闘神が真の力を発揮すると、戦局は一変した。

 召喚武装四種同時併用のセツナでは押し負けるだけの力を持っており、セツナは、仕方なく残りの三つを続け様に召喚したのだ。

 ただし、それでも深化融合は用いないという条件をみずからに課している。

 これは腕試しだ。

 自分の力が神属にどれだけ通用するのかを試すための戦いなのだ。

 完全武装の上、深化融合を起こせば、神々にも食らいつくどころか、斃せることは証明済みだ。

 深化融合を用いずにどこまで戦えるのかを知っておくべきだと、セツナは考えていた。深化融合は強力だが、同時に消耗が激しいという難点がある。その消耗の激しさに見合うだけの力を持っているのは確かだが、だからといってそればかりを頼りにするのは、ネア・ガンディアとの決戦において問題になるのではないか、と、彼は思っていた。

 そんなおり、ちょうどいい相手が現れた。

 闘神ラジャムは、ヴァシュタラの神々の中でもとりわけ強いわけでも弱いわけでもなさそうだった。平均よりは少し上くらい、だろうか。

 ネア・ガンディアに属するヴァシュタラの神々との戦いを想定する上で、これほど適した相手はいないだろう。

 故にセツナは、闘神が本気を出してくれたことに感謝しながら、闘技場を飛び回った。

 神としての姿を取った闘神ラジャムは、その六本の腕に持つ六種の武器を自在に操るだけでなく、神威の炎を絡めた多彩な攻撃手段でもってセツナに猛攻を仕掛けてきた。対するセツナは、メイルオブドーターの闇の翅による防御や、ロッドオブエンヴィーの“闇撫”などを駆使して攻撃を捌きつつ、ランスオブデザイアやアックスオブアンビションでの攻撃を試みたり、エッジオブサーストの能力を駆使した。

 様々な攻撃を試し、あらゆる戦術を用いる。

 そうすることで神との闘争に新たな道が開かれないものかと考えてのことであり、闘技場の広い空間すべてを戦場とする両者の戦闘は、わずかばかりの観客を見入らせたに違いない。特に闘士たちは、感嘆の声さえ上げることを忘れ、茫然と立ち尽くしている様がセツナの視界にちらりと映り込んだりした。

「やはりこうでなくてはな!」

 興奮気味に叫んだ闘神は、高揚感に満ちている様子だった。闘技にこそ喜びを見出すのがラジャム神だ。セツナと激闘を繰り広げるということが彼にとってなによりの供物なのかもしれない。

 セツナはといえば、ラジャム神を相手に様々な攻撃を試せることに喜んでいた。相手は神だ。並大抵の攻撃では死ぬことはない。というより、黒き矛で滅ぼそうとしない限りは、どのような攻撃をしようとも構わないのだ。そんな相手が練習相手になってくれるのだから、これほどありがたいことはない。

 シーラやエスクでは、召喚武装を用いた全力攻撃を叩き込むことなどできるわけがないのだ。

 常々感じていた鍛錬における不足分を補えているような気分になって、セツナも段々と楽しくなってきている事実を認識する。

 得も言われぬ昂揚感に全身が反応しているようだった。

 そうして闘神との激闘が続いていたそのときだった。

 ランスオブデザイアの螺旋回転が生み出す黒い竜巻によってラジャム神を後退させたその瞬間、狂暴な殺気が背後から迫ってくるのを認めて、セツナは、咄嗟に振り返りながら“闇撫”を展開した。ロッドオブエンヴィーから伸びる闇色の腕を伸ばし、巨大な手のひらを広げて、殺気を受け止める。

「なにかと思えばおまえ!」

 セツナは、“闇撫”が受け止めた衝撃の強さを実感しながら、その手のひらの向こう側で飛び蹴りの態勢をしたままの竜王を確認し、愕然とした。いつの間にか人間態になったラグナが、殺気全開で飛びかかってきたのだ。

 ラグナは、足を引っ込めると、空中で態勢を整えながらにやりとした。

「いつまで経っても終わらぬからのう。わしも参加させてもらうことにしたぞ」

 翡翠色の髪があざやかな美女は、竜の鱗で編んだような装束を纏い、背中には一対の翼を生やし、長い尾を持っていた。ラムレシアの姿に似たそれは、もはや人間態というよりは、竜人態といったほうがいいのかもしれない。

「勝手なことを」

「あやつは、一対一の対決でなければならん、などというてはおらんかったはずじゃが」

「そりゃあそうだが……」

 セツナは、なにやら勝ち誇るラグナからラジャム神に視線を向けた。竜巻を凌ぎきった闘神は、こちらの様子を見て、満面の笑みを浮かべている。

「竜王よ」

「なんじゃ?」

「セツナに与するわけではあるまいな?」

「それではつまらんじゃろう」

「なにがだよ」

「わしとセツナが組めば、一方的に過ぎるからのう」

 ラグナは当然のようにいうと、両手に翡翠色の光を集めた。

 確かに彼女のいうとおりではある。セツナとラグナが組めば、ラジャム神など相手にならないだろう。ラジャム神が弱い、というわけではない。ラグナが強く、また、セツナとの協力による相乗効果が見込めるからだ。ラグナの竜語魔法は、攻撃にも防御にも使えるだけでなく、支援にも優秀だった。彼女がセツナを強化するだけで、戦況が一変しかねない。

「それに、この溜まりに溜まった鬱憤を晴らすには、本人にぶつけるのが一番じゃ」

 などといってきたラグナに対し、セツナは素っ頓狂な声を上げた。

「はあっ!? なんだよそれ!?」

「長年待たせた罰じゃ!」

「それをいまさらいうのかよ!」

「いまさらじゃと!」

 ラグナが声を裏返らせながら、叫んできた。

「わしがどれだけ、どれだけ待ち焦がれていたのか、おぬしにはわからぬというのか!?」

「え、あ、いや、そういうわけじゃなくて、だな」

「言い訳無用!」

 ラグナが両腕を振り抜くと、手の先に収束した光が弾丸の如くセツナの元へ飛来した。一瞬にして、だ。しかし、セツナが防御態勢を取るまでもなかった。ふたつの翡翠光弾は、セツナの眼前で見えざる壁に激突し、爆散したからだ。轟音と光が散乱する中、セツナの目の前には見知った後ろ姿があった。長い灰色の髪が爆風に激しく揺れる様は、美しい。

「なにをしているのですか、先輩」

 ウルクだ。

「後輩こそ、なにをしておる。先輩の邪魔をするのは、許さんぞ」

「セツナを、我らが主を攻撃するものは、たとえ先輩であっても許しません」

「ウルク……」

「後輩よ。おぬしは少々頭が硬いのう」

「魔晶人形ですから、頭が硬いのは当然です」

(そういう意味じゃないと思うが……)

 セツナは、ラグナとウルクが対峙しながら言い合うのを見て、視線を闘神に移した。

 ウルクが参戦し、しかもこちら側についたことで、戦況はまたしても一変した。

 一対一から一対二、そして二対二へ。

 闘神ラジャムは、このような状況になっても喜びを隠さなかった。


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