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第三千九十七話 光剣対騎神(六)

 それでも、意地と意気だけで立ち上がり、真躯を顕現する。

 真躯ライトブライトの大きさすら維持することも出来なくなっていたが、そればかりは、どうしようもない。何度となく顕現し、何度となく破壊されてきたのだ。救力を消耗し続けている。真躯を最高の状態で顕現するだけの力も残っていない。

 残る力を振り絞り、彼は、立ち上がったのだ。

「それがわからぬ卿には、我がみずから手を下すまでもない」

 などと、フェイルリングはいうと、ワールドガーディアンは、不動の構えへと移行した。極大剣を目の前の地面に突き立て、両手を柄の上に置く、臨戦態勢とは言い難い状態へ。

 立っていることがやっとといっていいオズフェルトなど、もはや相手にもならない、とでもいうのだろうし、実際その通りだと思わざるを得なかった。

 既に、何度となく打ちのめされている。

 それも一瞬で、だ。

 反撃の糸口すら掴めないまま、ずたずたに切り裂かれ、破壊され尽くした。

 力を使い切り、ほんのわずかばかり残った救力と、意地だけで、彼は、立っている。

 精も根も尽き果てようとしていて、剣を握る手に込められる力も少ない。

(こんなところで終われるものか)

 みずからを鼓舞するように胸中で吼え、彼は、剣を掲げた。剣先をワールドガーディアンに向け、光線を放つ。相手の防御障壁と同波長の光線は、しかし、ワールドガーディアンに触れることすらなかった。それどころか、防御障壁を通過することもできなかったのだ。

(なんだ……!?)

 オズフェルトは、ライトブライトの光線がワールドガーディアンに到達する直前、光が走るの見た。

 どこからともなく現れた光は、ライトブライトの光線を弾き飛ばし、ワールドガーディアンとライトブライトの間に降り立ち、オズフェルトと対峙する。

「そんな……!?」

 オズフェルトが思わず驚愕の声を上げるのも当然だった。

 光となって現れたのは、真躯ライトブライトそのものであり、オズフェルトは、自分自身と対峙することになったからだ。

 それも、万全の状態のライトブライトだった。ワールドガーディアンの目の前で光剣を構えるその様は、かつてのオズフェルトそのもののようであり、彼は、なんともいえない気持ちになった。

 みずからの過去を第三者視点で見ているような、そんな感覚。

 だが、彼の目の前にライトブライトが立ちはだかったのは、紛れもない現実であり、失われた過去でもなんでもない。

 そして、フェイルリングの発言を思い出す。

(なるほど……そういうことか)

 フェイルリングは、みずから手を下すまでもない、といった。オズフェルトは、その言葉を、彼自身が自滅するのを見届けるつもりなのだろう、と、受け取った。故に不動の構えに戻ったのだ、と。しかし、真実は違った。

 フェイルリングは、どうやってか再現したライトブライトによって、オズフェルトに止めを刺そうというのだろう。

 彼が、そのように考えていたときだった。

 敵のライトブライトの周囲に変化が起きた。

 突如火柱が立ち上ったかと思えば、真躯フレイムコーラーが具現し、衝撃とともに真躯デュアルブレイドが出現した。大地が割れて真躯ディヴァインドレッドが登場し、突風を帯びて真躯ランスフォースが現れる。

 ルヴェリスたちが試練の果てに撃破した真躯たち。それらが万全の状態で出現したものだから、オズフェルトは、唖然とするほかなかった。

 しかも、それだけでは終わらないのだ。

 空間が不可思議な光に包まれると、真躯ミラージュプリズムが顕現し、巻き起こった竜巻が真躯エクステンペストの形を成す。真躯クラウンクラウンはどこからともなく現れ、稲妻が降り注いで真躯オールラウンドが降り立つ。真躯フルカラーズは虹色の花吹雪とともに出現し、閃光の中から真躯ヘブンズアイズが、轟音とともに真躯ハイパワードが登場した。

 ワールドガーディアンの前に、十二体の真躯が勢揃いした形だ。

 オズフェルトは、絶句するほかなかった。

 確かに、これならばワールドガーディアンがみずから手を下す必要はないだろう。なにせ、十二体の真躯が万全の状態で現れ、オズフェルトの前に立ちはだかったのだ。それらがただの張りぼてなどではなく、強大な力を持っている真躯であることは、いまや不完全な状態のオズフェルトでもはっきりとわかる。

 試練の四体よりは劣るようだが、それでも十二体だ。

 ワールドガーディアンを含めれば、十三体。

 十三騎士。

 ワールドガーディアンと十二体の真躯が勢揃いした光景は、まさに圧巻であり、壮観としか言い様がなかった。

 感動すら、覚える。

 オズフェルトが言葉を失ったのには、そういう理由もあった。

 オズフェルトにとってそれは、心が震える光景でもあったのだ。

 もはや二度とかなわず、二度と目にすることのできない光景。まさに夢のようだ。それも悪い夢ではない。良い、夢。

(そんなことを考えている場合じゃあないぞ)

 自分自身を叱咤して、彼は、剣を構えた。

 これは試練だ。

 ワールドガーディアンを打倒するという試練は、苦戦の挙げ句、振り出しに戻るどころか、開始地点よりずっと前の段階にまで遡ってしまった。

 ワールドガーディアンに挑むには、まず、十二体の真躯を打倒しなければならない。

 そんな力が自分に残っているとは思えないが、しかし、だからといって諦めている場合でもない。

(わたしは――)

 オズフェルトは、先手必勝とばかりに光線を無数に放ち、弾幕を形成した。それと同時に後方に飛び退いて距離を取り、弾幕の中を突っ切ってきたハイパワードとディヴァインドレッドの同時攻撃を回避する。猛然たる二体の攻撃は、丘に大穴を空け、大量の土砂を舞い上がらせた。

 大量の土砂を貫くように飛来するのは光の槍であり、光の矢だ。ランスフォースとヘブンズアイの同時攻撃。オズフェルトは、ライトブライトを光化させて高速移動することでそれらをかわすと、立て続けに迫ってきたデュアルブレイドの連撃を剣で捌こうとして、止めた。即座に上空へ移動することで、デュアルブレイドとフルカラーズの連係攻撃から逃れる。

 すると、待ってましたとばかりに降ってきた雷光がオズフェルトに直撃し、紅蓮の猛火が襲いかかってきた。オールラウンドとフレイムコーラーによる連続攻撃。さらに暴風がオズフェルトを包み込むと、身動きを取れなくしたところに、何体ものミラージュプリズムと何体もの騎士が彼を取り囲んだ。

 暴風による拘束はエクステンペストの、無数の騎士はクラウンクラウンの能力だ。

(こんなもの……!)

 オズフェルトは、ライトブライトの力を振り絞り、拘束から脱すると、ミラージュプリズムの分身と騎士の軍勢を打ち破り、そのまま上空へ逃れた。

 地上を見下ろせば、迫り来る十二体の真躯の姿がはっきりとわかる。

 十二体。

 いずれも、現状のオズフェルト以上の力を内包していることは明らかであり、正面からぶつかり合えば力負けするのは間違いない。

 しかも、数が数だ。

 多勢に無勢としか言い様がなく、まともに戦うことなどできるわけもない。

 たとえライトブライトが万全の状態であったとしても、だ。

(だとしても)

 オズフェルトは、立ち向かわなければならない。

 試練を終えた騎士たちが、オズフェルトを見守っているのだ。

 彼らに示さなければならない。

 騎士団長とは、どうあるべきか。


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