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第三千九十五話 光剣対騎神(四)

 オズフェルトは、思わず歓喜の声を上げそうになって、慌てて抑え込んだ。

 喜ぶのは、まだ早い。

 たかが防御障壁を突破する方法を見つけただけだ。

 先の攻撃では、ワールドガーディアンの装甲には傷ひとつついていないのだ。

 本番は、ここからだ。

 本来、救力の波長を変えるというのは簡単なことではない。修練の末に身につけた技術そのものだからだ。が、長年、救力の使い方を探求してきたオズフェルトにとっては造作もないことなのだ。だからこそ、一瞬で波長を変えた光線を撃ち分けることができたのであり、何百回という挑戦の末にワールドガーディアンの防御障壁と同じ波長に到達することができたのだ。

 そして、彼は、ライトブライトの全身にワールドガーディアンの防御障壁を通過した光線と同じ波長を纏わせた。

 ワールドガーディアンは、未だ、不動の構えを解かない。

(あれしきでは、まだ足りませんか)

 それはそうだろう、と、彼も想う。

 壁を擦り抜け、届いただけだ。ただのそれだけ。結果、ワールドガーディアンに痛撃どころか、掠り傷ひとつ与えていない。

 当たり前だ。

 オズフェルトは、ワールドガーディアンの防御障壁、その波長を調べるための光線は、威力を最小に押さえていたのだ。検証のために高威力の攻撃を行うなどというのは、愚の骨頂以外のなにものでもあるまい。せっかく防御障壁を突破する方法が見つかったのに、力を消耗し尽くし、動けなくなっては意味がないのだ。

 余力は、十分に残してある。

 地を蹴るようにして、飛ぶ。光となって直線を描き、急角度で左上方へ移動し、さらに進路を変えるものの、そんなことに対した意味はないことはオズフェルト自身、百も承知だ。そんなものでは、ワールドガーディアンを惑わせることなどできるわけもない。

 それでも、なにもせず、馬鹿正直に真っ正面から突っ込むよりは増しだろう。

 それでは、ただ迎撃をもらいにいくだけのことだ。

(そう)

 オズフェルトは、視界の端にワールドガーディアンを捉えると、急角度で地上に落着し、土煙を上げながら目標へと突進した。

(近づけば、迎撃が来る……!)

 オズフェルトの目は、ワールドガーディアンの背中を捉えている。またしても背後を取ったわけだが、これで隙を突くことができないのは、とっくにわかりきったことだ。

 一瞬にして、ひとっ飛びにワールドガーディアンの間合いに入れば、人型の城塞が動いた。上半身を捻り、右腕を振り回す。それだけで膨大な救力が生み出す凄まじい衝撃波が大地を抉り、土砂を吹き飛ばした。オズフェルトは、その光景をワールドガーディアンの頭上から見届けている。

 急降下すれば、眼前に防御障壁が立ちはだかったが、ライトブライトの巨躯は、なんの問題もなくその障壁を通過して見せた。

 同波長の救力による防御障壁の中和が成功したのだ。

 そして、オズフェルトは、ワールドガーディアンがこちらを仰ぎ見たことに気づいた。眼前。兜の奥、双眸が瞬き、極大剣が閃く。

 オズフェルトは、ライトブライトの巨躯を無数の光に変え、極大剣の軌道から外れるようにしてワールドガーディアンの懐に飛び込み、瞬時に元の姿に戻った。左腕だけが元に戻らないのは、光の粒子となりながらも極大剣に巻き込まれ、消し飛ばされたからだ。

 見上げれば、ライトブライトの数倍以上の巨大さを誇るワールドガーディアンの威容が目の前にあった。が、彼はたじろがなかったし、躊躇もしなかった。右手に握った剣を振り上げ、ワールドガーディアンを斬りつける。

 全身全霊の力を込めた一撃は、確かに手応えがあった。斬撃はワールドガーディアンに届き、難攻不落の城塞に傷をつけることができたのだ。

 だが、つぎの瞬間、オズフェルトは、意識が消し飛ぶほどの衝撃を受けて、視界が激しく流転する様を目の当たりにした。

 なにが起こったのか、わからない。

 しかし、混乱はなかった。

 そうなるだろうことは、想定済みだったからだ。

 ありうることだ。

 油断したわけではないし、余裕があったわけでもない。ましてや、注意を怠ったわけでも、警戒していなかったわけでもない。

 単純な実力差。

 圧倒的な力の差が、オズフェルトのライトブライトとワールドガーディアンの間にあり、それ故に手応えのある攻撃もまったく意味を為さなかった、ということなのだ。そして反撃を食らい、吹き飛ばされた。

 背中から地面に叩きつけられたものの、その痛みよりも、反撃を食らった痛みのほうが余程強烈であり、しばらく起き上がれそうにないのもそのためだった。

「まだだ」

(ええ……)

「まだ、足りぬ」

(そうでしょうとも)

 オズフェルトは、地に倒れたまま、胸中でつぶやいていた。意識が判然とせず、全身の感覚という感覚がどうにも朧気だ。すべての力を使い切ったわけでもなければ、消耗し尽くしたわけでもないというのに、瀕死同然の状態に追い込まれているというのは、どういうことか。

 それだけ、ワールドガーディアンの一撃の威力が物凄まじいということにほかならない。

 救力を込めた拳で殴りつけられたライトブライトの頭部は半壊しているのだが、その修復にも時間がかかっている。というのも、ワールドガーディアンの救力がライトブライトの修復を阻害しているからであり、それはいままでなかったことだ。

 どうやら、ワールドガーディアンがそろそろ本当の力を発揮し始めたようだ。

(これまではほんの小手調べ、といったところですか)

 オズフェルトは、強引に起き上がったものの、そのせいで体がふらついた。まだ、完全に回復してはいない。先程受けた攻撃の後遺症が、いまも猛威を振るっている。

 それでも、オズフェルトは立たなければならなかったし、立ち向かわなければならなかった。

 なぜならば、相手が動いたからだ。

 ワールドガーディアンが、不動の構えを解いていたのだ。

「我が防御障壁を打開した手腕、見事」

 ワールドガーディアンは、極大剣を両手に握り、掲げていた。ワールドガーディアンの巨躯よりも巨大な剣だ。その重量たるや想像を絶するもののはずだが、ワールドガーディアンは、重量を感じさせないくらいに軽々と扱う。その時点で、ワールドガーディアンの力がライトブライト含む他の真躯と大違いであることは、明白だ。

 ライトブライトならば、極大剣を振り回すこともかなわないのではないか。

「だが、それだけで満足してもらっては困る」

「あの程度のことで満足するようでは、騎士団長は務められませんよ」

 オズフェルトは、ようやく安定してきた視界に安堵するとともに、右腕だけで剣を構えた。左腕の修復には時間がかかりすぎる。もはや、そのような時間は与えてくれないだろう。

 ワールドガーディアンは、臨戦態勢に入っている。迎撃態勢である不動の構えは、解かれてしまったのだ。

(そうだ。わたしは、ベノアガルド騎士団長オズフェルト・ザン=ウォード)

 彼は、みずからに言い聞かせるように胸中でつぶやき、柄を握る手に力を込めた。救力を束ね、光の刃をより長く、より分厚いものにしていく。

 攻撃は、届いた。

 ワールドガーディアンの装甲に傷をつけることができている。

 つまり、一撃の威力を高められるだけ高めれば、こちらにも勝ち目があるということではないか。

「その意気やよし」

 声は、背後から聞こえた。

(な――?)

 オズフェルトは、視界の中心に聳えていたはずのワールドガーディアンの姿が消失していることをいまさらのように知り、同時に、全身が砕け散る音を聞いた。


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