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第三千九十四話 光剣対騎神(三)

(足りない……か)

 そんなことは、わかっている。

 いわれるまでもないことだ。

 ライトブライトの攻撃は、いまのところ、ワールドガーディアンに一切通用していない。ワールドガーディアンの装甲を傷つけるどころか、その前段階であるところの防御障壁の突破すらできていないのだ。

 これでは、足りないといわれるのは当然のことだったし、オズフェルトが満足できるはずもなかった。せめて、防御障壁を突破しなければ話にならない。

 いや、防御障壁を突破しただけでは、だめだ。

 それも、当然の話だった。

 ワールドガーディアンを斃すこと。

 それがオズフェルトに課せられた試練なのだ。

 たかが防御障壁を突破するだけで満足していてはいけない。そこを目標にして戦ってはいけない。

(とはいえ)

 まずは、防御障壁の突破方法を考えなければならなかった。

 ワールドガーディアンの強力無比な防御障壁は、並大抵の攻撃を撥ね除けるだけでなく、オズフェルトの、ライトブライトの力を込めた一撃すらも意味を為さなかった。救力の防壁。ワールドガーディアンの巨躯を包み込む球形の力場。突破するには、それ以上の力を叩き込むか、中和するという方法がある。

 これまで、オズフェルトは前者の方法を試してきた。が、すべてが無駄に終わったいま、後者に賭ける以外に道はなくなってしまった。

 防御障壁を中和するには、相手の救力と同波長の救力を用いる必要がある。

 救力は、ミヴューラ神から与えられた力であり、元を正せば同質、同波長のものだ。しかし、騎士たちは、救力を使うために自分流に手を加えなければならず、性質や波長に変化が生まれる。それが騎士たちの戦闘方法の違いとして如実に表れるのだ。

 オズフェルトの光の剣も、ルヴェリスの色彩を用いた多彩な攻撃手段も、シドの雷光も、ベインの怪力も、ロウファの弓射に特化した能力も、救力の性質の違いを示すものといっていい。

 つまり、ワールドガーディアンの防御障壁を力業で突破するのではなく、中和し、無力化するためには、フェイルリング(ミヴューラ神)の救力の波長に、オズフェルトの救力の波長を合わせなければならないということだが、それは極めて困難なことだった。

 救力の波長を調整するということすら、簡単なことではない。

 救力の性質、波長の変化は、各人が意識して行っていることではなく、救力の使い方を学ぶ内、修練の中で結果的に変化していったものなのだ。

 それを変化させるだけでも困難を極めるというのに、相手の波長を精確に見定め、それとまったく同性質の波長にするなど、至難の業というほかない。

 だから、オズフェルトは、当初から力業による突破を試みてきたのだ。

 その力業による防御障壁の破壊が失敗に終わったいま、中和による無力化に賭ける以外の方法はなくなってしまった。

 ワールドガーディアンは、動かない。

 こちらの出方を窺っているのではなく、相も変わらず、オズフェルトを試しているのだ。オズフェルトがどのようにして防御障壁を突破し、ワールドガーディアンに攻撃を叩き込むことができるようになるのか、待ちわびている。

 期待しているのだ。

(期待……か)

 だからこその試練である、と、彼は、理解していた。

 期待していなければ、可能性を見出していなければ、希望がなければ、このような試練をオズフェルトたちに課すはずもない。

 そして、この試練を越えた先にこそ未来があり、光がある。

 だからこそ、なんとしてでも試練を乗り越えなければならず、そのためにもまずは、ワールドガーディアンという難攻不落の城塞、その鉄壁の護りを突破しなければならなかった。

 剣先を相手に向け、光線を放つ。

 一条の光線は、瞬く間にワールドガーディアンの元へ到達し、防御障壁に激突して飛散した。当然の結果だ。わかりきった、代わり映えのしない結末。だが、オズフェルトは構わず、もう一度光線を放った。再び、同じ結果に終わる。光線が防御障壁に弾かれ、消える。

 その光景を繰り返し、見届ける。

 何度も光線を放ち、何度となく防御障壁に阻まれる。

 刀身そのものが光線となってワールドガーディアンに襲いかかれば、防御障壁が肉眼で確認できるくらいに具現し、光線を弾き返す。

 そんな光景を、これでもかと見せつけられる。

 が、それはオズフェルトの望むところだった。

 オズフェルトは、ただ無意味に光線で攻撃し、救力を浪費しているわけではない。光線を放つたび、救力の性質に変化を加えていた。波長を変えた光線は、いまのところすべて防がれているが、構わない。目的は、ワールドガーディアンの防御障壁と同波長に辿り着くことなのだ。

 そのためにどれだけの救力を消耗し、どれだけの時間を費やすのかわかったものではないが、しかし、これがオズフェルトの考えられる最善手であり、これ以上の最適解はないと見ていた。

 ワールドガーディアンの防御障壁、その波長を遠く離れた状態で知ることは不可能だ。防御障壁に触れ、救力の流れを把握することができれば、多少なりとも手がかりを得ることもできるだろうが、そのためには、ワールドガーディアンに接近しなければならない。

 ワールドガーディアンは、オズフェルトが遠距離にいる限りには反撃も迎撃もしてこないが、接近すれば、痛烈な一撃を叩き込んでくることがわかっている。防御障壁の波長を探るために接近し、痛撃を食らうのは、馬鹿げている。仮に、それによって波長を知ることができたのならばまだしも、なにも得られぬまま瀕死の重傷を負っては、まったくの意味がない。

 それならば、相手が動かない遠距離から、波長を探るのが正しいやり方ではないか。

(もっとも、これでワールドガーディアンが動かないことが前提……だが)

 オズフェルトは、様々な波長の光線を放ちながら、ワールドガーディアンが一切反応を示さないことに疑問を持たざるを得なかった。

 ミヴューラ神のことだ。

 まったく意味を為さない攻撃を淡々と続けるオズフェルトの狙いについて、既に察していてもおかしくはない。

 ワールドガーディアンの防御障壁を突破するための行動であると、理解しているはずだ。ならば、それを止めに行動を起こしても不思議ではないのだが、ワールドガーディアンには、現状、その前兆が一切見えなかった。

 試している、にしても、動かなすぎではないか。

 そう簡単に突破できないと踏んでいるのか、それとも。

(まあ、いい)

 オズフェルトは、光線に意識を集中させることにした。まったく動きの見せないワールドガーディアンを注視したところで、意味がない。

 これは試練であり、真剣勝負ではあるのだが、試練である以上、相手が試すような動きを見せたとして、なんら不思議ではないということを念頭に置かなくてはならない。

 ワールドガーディアンが、ミヴューラ神が、こちらを哀れんで手を抜いているわけでは、断じてあるまい。

 試されている。

 ただ、それだけのことだ。

 だからこそ、応えなければならない。

 オズフェルトは、波長を変えた光線を撃ち続けた。何度も、何度も、数え切れないくらいに光線を放ち、叩き込み、無力化される様を見届けながら、それでも諦めない。

 そして、何百回という挑戦の末、オズフェルトは、彼の剣から放たれた光線が虚空を駆け抜けるようにして、ワールドガーディアンの防御障壁を通過し、装甲表面に直撃するのを目の当たりにした。

 防御障壁の波長に辿り着いたのだ。



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