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第三千八十二話 極彩対双戟(三)

 空を裂いたフルカラーズの刀身は、赤く輝いていた。当然、剣閃も赤く、そして燃え上がった。赤い剣閃が生み出す火炎の波が崩落した箇所に向かって流れ込んでいく。瞬間、土砂が舞い上がる。でたらめに切り裂かれ、吹き飛ばされる岩盤の狭間、デュアルブレイドの双眸がこちらを正確に捉えていた。高速で回転する双戟が救力の竜巻を生み、土砂を巻き上げ、迫り来る熱波さえも吹き飛ばす。

 そのころには、ルヴェリスは、二度、剣を振っている。白い剣閃と無色の剣閃。複数の氷塊を突風が運び、飛び出してきたデュアルブレイドに叩きつける。氷塊はデュアルブレイドの装甲に直撃すると、膨張し、その周囲を氷漬けにしようとした。だが、デュアルブレイドの強引な体捌きが氷塊を引き剥がしてしまうと、ルヴェリスの一手は無駄となった。

 デュアルブレイドは、無傷の姿で白日の下に立っていた。双戟をぶら下げるように構えるその様に感じるのは、圧倒的な力だ。

「こんなものか」

「まさか」

 告げて、さらなる一手を打つ。

 ルヴェリスが突剣でもって虚空を突くと、切っ先から突風が生まれた。透明なる風の一撃は、しかし、デュアルブレイドに軽くかわされる。重量感たっぷりの真躯は、その見た目に似合わない身軽さを持ち合わせているのだが、そんなことは百も承知だ。

 飛んで避けながら間合いを詰めてくる相手に対し、ルヴェリスは、もはや距離を取ろうとはしなかった。代わりといってはなんだが、狙いを定め、剣を振り回す。虚空に走る剣閃は、そのたびに色を変えた。色鮮やかに輝き、様々な現象を引き起こす。

 赤い剣閃は火球となり、黄色い剣閃は電撃となる。黒い剣閃が大地を揺り動かせば、白い剣閃が冷気の渦を生み出し、緑の剣閃が周囲の雑草を膨張させる。

 それらルヴェリスの攻撃に、デュアルブレイドは律儀なほどの対応を見せた。二本の戟を振り回し、火球や電撃を打ち砕けば、地震を黙殺し、冷気の渦を吹き飛ばし、真躯の巨躯に並ぶほどの大きさに成長した雑草を切り裂いた。

 そして、突っ込んでいく。物凄まじい、それこそ突風といっていいような勢いだった。

「つまらんな」

(そうでしょうとも)

 それは、フィエンネルの本音に違いなかった。フィエンネルならば、この戦いでそう評価するに違いないという確信を抱く。彼の価値観ならば、そうだ。そうならざるを得ない。闘技場の闘士として一流であり、誇りさえ持っていたフィエンネルにしてみれば、華やかともいえる攻撃の数々はまだしも、ルヴェリスの逃げの一手は褒められたものではないのだ。

 そういうフィエンネルの精神性、人格までも完全に再現しているのだから、さすがはルヴェリスたちの神、というべきなのか、どうか。

 デュアルブレイドは、立ち尽くすフルカラーズに猛然と突っ込み、その勢いのまま双戟を振り上げた。交差する二本一対の双戟は、フルカラーズの装甲を一度切り裂いただけでなく、そのまま回転し、でたらめに切り刻んでいく。双戟は、両端に刃を持つ。デュアルブレイドは、その特性を最大限に発揮して見せたのだ。そして、フルカラーズの華奢ともいえる甲冑はばらばらになった。

 が、ルヴェリスは、無事だ。

 無傷で、デュアルブレイドの猛攻を見届けている。

 デュアルブレイドが、フルカラーズの実体を持つ幻影を切り裂いたという事実に気づいたときには、その背後に肉薄していた。

「これは……ケイルーン卿の――」

「そう、それはミラージュプリズムの能力」

 告げるより先に、ルヴェリスは、突剣の切っ先をデュアルブレイドのうなじに突き入れていた。電光が走り、電流がデュアルブレイドの全身を駆け抜ける。しかし、デュアルブレイドは、その電流の痛みを黙殺したかのようにこちらを振り返り、戟を振り回してきたものだから、ルヴェリスは瞬時に飛び離れた。痛み。左脇腹が抉られたようだ。

「そして、それが卿のフルカラーズの能力、というわけだ」

「そうよ。これがわたしの真躯、フルカラーズの真価ってわけ」

 突剣を構え直しながら、ルヴェリスは、デュアルブレイドを見据えた。

 先程デュアルブレイドが切り刻んだのは、彼が推察した通り、テリウス・ザン=ケイルーンの真躯ミラージュプリズムの能力を再現して作り上げた幻像だ。デュアルブレイドに攻撃を畳みかけたとき、ついでに幻像を作り、また、光の屈折によって自分自身を隠したのだ。

 正体を現したのは、隠れたままでは攻撃できないためだが、もし姿を隠したまま攻撃できるのであれば、一方的な展開になったかもしれない。

(どうでしょうね)

 そこには、疑問の残るところだ。

 デュアルブレイドならば、透明化したルヴェリスくらいならば、対応可能なのではないか。

 現に、装甲内部に電撃を受けても、デュアルブレイドはびくともしてないのだ。彼を叩きのめすには、あの程度の攻撃では無理だということだ。

 もっと、強力で凶悪な一撃を叩き込まなければならない。

「先程、つまらないといったことを撤回し、訂正しよう」

 デュアルブレイドは、双戟を構えると、律儀にもそんなことをいってきた。

「面白い。もっと、見せてくれ」

「お望み通り」

 元よりそのつもりだ、と、ルヴェリスは、地を蹴った。突剣を振り、虚空に溶けて消える。残るのは、幻像。ミラージュプリズムの能力を応用して編み出した、ルヴェリスの技。ミラージュプリズムの能力と異なるのは、幻像がただの幻像に過ぎない、という点だ。

 ミラージュプリズムの場合は、生み出した幻像を自在に操り、攻撃にも防御にも使えるのだ。“幻惑”のテリウスの名に恥じない能力といっていいだろう。

「それはもう見たぞ、フィンライト卿!」

 怒号とともに双戟が閃き、幻像が一瞬にして吹き飛ぶ。すると、デュアルブレイドは、進路をこちらに向けた。風景に溶け込んでいるはずのフルカラーズの位置を正確に把握し、捕捉している。

(さすがね)

 内心舌を巻く想いで、ルヴェリスは目を細めた。突剣を振り回し、透明化を解除するとともに異なる真躯の能力を再現する。輪を描く刀身が生み出すのは、逆巻く暴風。ただの旋風ではない。天変地異の化身のような、巨大な竜巻だ。

「つぎはエクステンペストか!」

 喜びに満ちた声は、デュアルブレイドの、フィエンネルの闘争心に火が点いた証なのだろう。

 暴風の渦は、フルカラーズとデュアルブレイドの間に分厚い障壁となって聳えている。渦の中心にルヴェリスはいて、それでも安心などしていなかった。デュアルブレイドならば、力業で突破してくるに違いないからだ。

 デュアルブレイド自身が暴風となって突貫してくる様を見遣りながら、ルヴェリスはつぎの手を打つ。突剣を振り上げて、剣閃を上空に飛ばす。光り輝く剣閃は、巨大竜巻の真ん中で弾けるように膨張した。直後、轟然と、暴風の渦の中へと突入してきたデュアルブレイドだったが、その瞬間、ルヴェリスが上空に設置した光塊が反応する。まばゆい光芒が降り注ぎ、デュアルブレイドの巨躯を飲み込んだのだ。

 大地すら破壊する光の奔流の中で、それでも、デュアルブレイドは動きを止めない。

 歓喜に満ちた咆哮を上げながら、突進してくる。光芒は、そんな猛獣を追い続けるのだが、ついに途切れた。

「ヘブンズアイのつぎはなんだ? なにを見せてくれる?」

 完全にルヴェリスとの戦いを愉しみ出したデュアルブレイドに対し、彼は、むしろ冷ややかなまなざしを向けていた。

 これは、試練だ。


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