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第三千七十六話 狂乱対神武(一)

 真躯ディヴァインドレッドは、十三体の真躯の中でもワールドガーディアンに次ぐ力を持つ。

 その力というのは、腕力のみをいうわけではない。身体能力、反射神経、五感、救力――戦闘に関連するあらゆる能力を考慮した総合力のことだ。つまり、総合的に見れば、ベインのハイパワードがドレイクのディヴァインドレッドに勝てる可能性は低いといわざるを得ず、その点について、ベインはなんら反証を持たなかったし、圧倒的な現実として認識してもいた。

 実際、ベインは、ディヴァインドレッドの強大な力を全身で感じ取り、その圧力を分厚く高い壁のように想っていた。

(なんつー力だよ、おい)

 相手は、ミヴューラ神の分身であり、ドレイク本人ではない。しかし、ディヴァインドレッドはディヴァインドレッドであり、それ以上でもそれ以下でもないようだった。

 そもそも、真躯は、十三騎士それぞれの個性によって大きく異なる外見、能力を持っているとはいえ、元を正せば、救世神ミヴューラの力といってもいいのだ。ミヴューラ神の分身が用いる真躯が、十三騎士の真躯とまったく同じであっても、なんら不思議ではない。

 だからこそ、ベインは、一切気を抜くことは許されなかったし、ましてや余裕などあるはずもなかった。

 ひりつくような空気は、戦場が緊張の絶頂の中にあるということを示している。

 ディヴァインドレッドは、悠然とした様子で大剣を構えている。幻装大剣をそのまま巨大化したような大剣は、ワールドガーディアンの極大剣に比べれば小さいが、十分に大きく、脅威だ。

 なにせ、ハイパワードは近接戦闘に特化した真躯であり、ディヴァインドレッドに打ち勝つためには、懐に飛び込まなくてはならない。迂闊にディヴァインドレッドの間合いに飛び込めば、大剣が閃き、大きな痛手を負うことだろう。最悪、真躯を真っ二つに切り裂かれない。

 とはいえ、間合いを詰めなくては始まらないのが、ベインの戦いだ。

 ハイパワードを近接戦闘用の真躯としたのは、すべて、ベインの望みなのだ。ベインの願望の具現なのだ。ドレイクがだれよりも強い力を求めた結果、ディヴァインドレッドが具現したように、ベインは、なにものをも打ちのめす力を望み、ハイパワードを得た。

(だったらよ)

 地を蹴るようにして、前に飛ぶ。

 瞬間、甲冑の背部から救力を噴出することで加速し、一気に最高速度に達したハイパワードは、瞬く間にディヴァインドレッドとの間合いを縮めた。当然、大剣の間合いに入った瞬間、ディヴァインドレッドは反応する。大剣が唸りを上げて閃き、凄まじい斬撃が襲いかかってくる。右斜め下から左斜め上への切り上げ。

(わかってる)

 ベインは、透かさず上体を捻り、両手でもって刀身を挟み込んだ。救力が両腕を駆け抜け、激痛が意識を苛んだが、ハイパワードの加速力は斬撃の勢いを完全に殺しきることに成功し、彼はなんとかその場に踏み止まった。そのまま踏ん張り、全力を発揮する。

「おおおおおおおおおっ」

 吼えることで力を解き放ち、ディヴァインドレッドごと大剣を振り回し、投げ飛ばす。さすがのドレイクも想定外の行動だったに違いなく、ディヴァインドレッドの巨躯が空中へ飛んでいく様を見て、ベインはにやりとした。踏み込み、飛びかかる。

 中空の真躯は、態勢を崩したままだ。そのがら空きの腹へ、ベインは全体重を乗せた蹴りを叩き込んで見せると、そのまま加速し、空高く上昇を続けた。足裏から迸る救力は、間違いなくディヴァインドレッドの装甲に打撃となって伝わっているだろう。

「強引だな」

「それが俺の持ち味なんでな!」

「ああ、それはわかっているとも。ならば、わたしの持ち味も知っていよう」

 ディヴァインドレッドは、ハイパワードによって上空へと運ばれていくのを抗いもせず、大剣を頭上に持ち上げた。すると、切っ先から柄頭までを真っ二つに分かつ光が走り、大剣がふたつに分かれ、変形する。二刀一対の双剣へと変形したそれでもって猛然と斬りかかってきたものだから、ベインは、両腕の籠手で受け止め、防御を固めざるを得なくなる。

 切り落とされないように足を引っ込めれば、ディヴァインドレッドは待ってましたとばかりに距離を取った。双剣の柄頭を重ねるようにすると、またしても変形する。今度は、弓だ。両端の切っ先から救力の弦が伸び、具現した救力の矢を番える。ベインは咄嗟に両腕を前方で交差させ、救力の防御障壁を最大限に展開した。つぎの瞬間、凄まじい衝撃がベインを襲った。そして、急転直下。背中から地面に叩きつけられた。

 大地に叩きつけられたことそのものは、痛手にはならない。真躯がその程度の衝撃で破損するようならば、神の力の顕現とはいえないだろう。

 問題は、ディヴァインドレッドの弓が放った矢によって防御障壁が突き破られ、左の籠手が損傷したことだ。腕はまだ動く。だが、損傷は激しく、修復には時間がかかるのは間違いなかったし、そのような時間を与えてくれる相手ではなかった。

 起き上がったときには、ディヴァインドレッドが眼前にいて、槍形態の武器を振り下ろそうとしているところだった。間一髪のところで切っ先を掴み取ったはいいものの、ここからどう打開すればいいものか、ベインは頭を悩ませた。

「なんでもありだな」

「知っていたはずだ。わたしの真躯ディヴァインドレッド、その戦い方のすべて」

「ああ、そうだ。そうだとも」

 肯定し、槍の柄に右の拳を叩き込む。長く伸びた柄は、ベインの全力を受けて、ものの見事に砕け散った。が、そんなことになんの意味もないことくらい、知らないベインではない。ディヴァインドレッドの武器は、いくらでも生えてくる。

(だが、時間稼ぎにはなるはずだ)

 踏み込み、間合いを詰めれば、得物を一時的に失ったディヴァインドレッドは、わずかにたじろいだ。ほんの一瞬。そのわずかばかりの反応こそ、ベインの望んだものだ。その隙を見逃さず、ベインは、左の拳をディヴァインドレッドの顔面に叩き込んだ。

「おらぁっ!」

 全身全霊の一撃は、確かな手応えをベインにもたらす。救力を帯びた拳は、確かにディヴァインドレッドの兜に直撃し、装甲をひしゃげさせた。だが、それだけで終わる相手ではないこともまた、事実だ。ひしゃげた兜の奥で、ディヴァインドレッドの双眸が輝きを増す。

「その程度か」

「ちっ」

 舌打ちとともに飛び退いた瞬間、右足首に激痛が走った。見れば、斬撃が駆け抜けた残光があり、ディヴァインドレッドが新たに具現した剣を振り抜いていた。足が寸断されなかったのは、大剣ではなかったからであり、さすがにあの短時間で大剣を具現することはできなかったらしい。

 着地と同時に傷口からさらなる痛みが襲ってくるが、堪える以外どうしようもない。

 救力の籠もった斬撃は、真躯にも十二分に通用する。こちらの打撃が通用しているのだ。斬撃だけが通用しない、などということはありえない。

 ベインは、足首の痛みを堪えながら、ディヴァインドレッドを睨んだ。

 咄嗟に具現された剣は、いまや大剣へと変化しており、ディヴァインドレッドはいつものように泰然と構えていた。

 兜こそひしゃげているものの、痛痒も感じていなさそうな様子だ。

 ハイパワードの左手を見れば、当然の結果といわざるをえない。左腕を覆う籠手は、ディヴァインドレッドの攻撃を受けて、損傷しているのだ。

 それでは、最大火力の一撃を叩き込むことなどできるわけもない。


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