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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五十一話 ミドガルドのこと(十)

「迷っている?」

 ミドガルドの言葉を反芻して、セツナは、彼を見た。ミドガルドの表情からは、無論、感情を読み取ることができない。文字通りの鉄面皮。壱號躯体のウルクのようだが、ウルクの場合は、なぜか、感情を読み取るのは難しくなかった記憶がある。感覚的に

 セツナたちは、魔晶船の第一機関室に集まっている。

 セツナ、ラグナ、ウルク、イル、エル、ミドガルド、そして操縦席のマユリ神を含めた七名だ。

 マユリ神は、セツナたちが船に戻ってくるなり、待ちくたびれたといわんばかりの態度を見せたが、それがセツナには不思議だった。ミドガルドと長時間会議に参加していたのではないのか、と、思ったからだ。だがどうやらそれは、セツナの勘違いであり、ミドガルドがマユリ神とともに参加した会議は、セツナたちと合流するより随分前に修了していたらしい。

 つまり、ミドガルドは、個人的な用事で時間を食っていたということだが、そのことについてあげつらう必要はなかった。

 ミドガルドは、元々、聖王国の人間なのだ。ミナ・カンジュとして振る舞っていたとはいえ、聖王宮内でなにかしらの用事があったのだとしても、不思議ではない。

 それから、ミドガルドの話になった。

「ええ、とても」

「めずらしいこともあるものですね、ミドガルド」

 ウルクが少しばかり訝しげな顔をした。肆號躯体に変わってからというもの、ウルクの表情はいままでの無表情ぶりを取り戻そうとするかのように変化を見せている。もっとも、感情が素直に表面に出ているだけのことなのだろうし、いずれは、感情を隠すことにも慣れていくのだろう。

 ウルクは、まだまだ幼く、成長途中なのだ。そんな彼女にいきなり完璧にこなせ、というのは、無理難題にもほどがあるだろう。

「あなたは、迷わないひとだとばかり思っていましたが」

「そう。そうなのだよ、ウルク」

 ミドガルドが大いにうなずく。

「わたしは、本来、迷わない人間だった。それが正しいかどうか考えることはあっても、導き出される結論について、あれこれ悩むことはなかった。一度これと決まってしまえば、いつだって一直線に突き進んだ。君を作り上げたのだってそうだし、目覚めた君を特定波光の発生源に連れて行ったのだって、そうだ」

「そのことについては、感謝しかありません、ミドガルド」

 ウルクは、満面の笑みを浮かべた。

「おかげで、セツナや先輩たちと逢うことができました」

「……わたし自身にとっても、いい判断であり、いい選択だったのだよ。セツナ殿のあれこれを調べることができたから、窮虚躯体も肆號躯体も完成したのだからね」

「俺の身体検査は無駄ではなかった、ということか」

「ええ、もちろん。セツナ殿の体から直接計測した特定波光の数値は、心核や躯体の改良に大いに役立っていますとも」

「それはよかった」

 セツナは、心の底からそう思っていた。

 ミドガルドとウルクとの邂逅以来、セツナは、幾度となく調整器に入り、全身をくまなく調べ尽くされた。もう調べることもないだろう、と、思っていても、調整器の蓋が開いていて、ミドガルドが待ち受けている。そんな日々がしばらく続いたものだった。

 そうやって計測された情報がなにかしらの役に立っているというのであれば、あの時間も無駄ではなかったと胸を張っていえる。

 ミドガルドが、言葉を選ぶようにして語り出した。

「……わたしは当初、この船に乗り、皆さんの戦いを支援しようと考えていました。無論、魔晶城の再建がなり、態勢が整ってから、ではありましたが……。わたしは、戦えません。この躯体は戦闘用ではありませんからね。しかし、わたしには知識があり、技術がある。そしてこの船には、魔晶技術の粋を集めている。魔晶技師としての力を振るうには、これ以上の場所はないといっても過言ではありません」

「では、なにを迷うことがあるのですか」

 ウルクには、皆目見当がつかないとでもいうのだろう。彼女は、小首を傾げた。イルとエルがその仕草の真似をする。

「王都がこの有り様なのは、聖王国が今日に至るまで、エベルに依存した国だったからです。無論、この国を影から支配していた神の存在など、だれも知る由はなく、無意識のうちに依存していたのですが、しかし、その無意識の依存こそが厄介極まりないものなのです」

「無意識の依存……」

「聖王国は、かつて、大陸の四分の一ほどを領土としていました。その広大な領土の統治運営がなんの問題もなく、滞りなく行われてきたことこそ、エベルの力そのものといってもいいのでしょう」

 それは、なにもディールだけの話ではない。同程度の版図を誇っていたザイオン帝国も、ヴァシュタリア共同体も、それぞれに強大な力を誇る神の支配下にあったのだ。神々の力によって、広大な領土は数百年に及ぶ歴史を積み重ね、秩序を維持することができていた。

 人間だけの国ならば、大陸暦五百年を待たずして瓦解していたとしても、なんら不思議ではない。

 いやそもそも、三大勢力が築き上げられることすらなかったのではないだろうか。

 たとえ、同様の勢力ができあがったとして、暗黙の了解で均衡を維持し続けることなど、あろうはずもない。

 三大勢力の均衡は、いずれの神にとっても必要不可欠なものだったからこそ、維持され続けたのだ。

 不要となった途端、三者が小国家群に攻め込んだことからも、それは明らかだ。

「エベルとは、聖王国という天地を支える柱であり、秩序そのものといっても過言ではなかった。国も民も、エベルの力あってこそ、生き長らえてこられたのです。ですが、わたしたちがエベルを討ち滅ぼしたことで、聖王国は、寄りかかる大樹を失ってしまった。そのことがこれから先、この国にどれだけの苦難をもたらすのか」

 そして彼は、自分に言い聞かせるようにして、いった。

「もちろん、エベルを討たない道などはなかった。わたし個人の問題ではなく、聖王国の将来を考えた場合であったとしても、エベルは討たねばならなかった。討ち滅ぼさなければならなかった」

「その通りだな。エベルにしてみれば、この国のことなどどうだってよいのだ。自分の目的を果たすための手駒としてしか見ていない」

「そこがおぬしと違うところじゃな」

「そうかな? わたしがおまえたちを手駒と見ていない保証はないぞ」

「ありますよ」

 セツナが告げると、マユリ神は困ったように苦笑した。

「そうまで言い切られると、どうしようもないではないか」

「ふふん、つまらぬ冗談をいうからじゃ」

「まったくです」

 ラグナとウルクにまで心底信用されているのは、マユリ神の徳の高さというものだろう。特に付き合いの短いラグナがこうまで信頼しているのは、彼女が竜王であり、竜王から見てもマユリ神が信じるに足る性質の持ち主であるからに違いない。

「そう、エベルは違うのです。マユリ様のように、この世界のことを考えてなどはいない。自分が在るべき世界に還ることこそが第一義であり、それ以外はすべて些末な問題に過ぎなかった」

 故にエベルは、聖皇復活を果たそうとしたのであり、それが失敗に終われば、つぎの機会を待ちつつ、別の方法を考えていたのだろう。

 そして、窮虚躯体に飛びついたのだ。


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