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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千三十八話 王国の後先(七)

 謁見は、聖王宮神宜の間で行われることとなり、セツナたちは、近衛騎士団長ヴェンデル・ザン=アズトラムに先導されて、神殿のようで迷宮のような聖王宮の中を移動した。

 神宜の間に至るまでの間、ヴェンデルは無言だったし、セツナたちも沈黙を貫いた。ヴェンデルとしてはミナ=カンジュことミドガルドに聞きたいことは山ほどあったのだろうが、ミドガルドは、王妃と王子以外には話すことはないといわんばかりの態度を取っていたため、聞き出すのを諦めざるを得なかったのだ。

 重苦しい沈黙が長々と続く中、セツナは、これから待ち受ける出来事が想像できず、なんともいえない心持ちだった。

 おそらく、ミドガルドは、王妃と王子に対し、嘘の報告をするに違いない。まさか、ディールの守護神エベルを討ち滅ぼした、などとは伝えられまい。たとえディールがエベルによって実質的に支配され続けてきたという事実をだれも知らなかったのだとしても、だ。

 エベル討滅は、ルベレスの死を内包する。

 ルベレスが死んだのは、エベルがみずからの依り代たるルベレスの肉体を破却したからではあるが、仮にエベル討滅の事実を報告した場合、ルベレスの死の原因をセツナたちに求められたとしても、致し方のないことだろう。

 真実を報告するということは、ルベレスがエベルの依り代となっていたという事実を伝えることとなり、その事実は、セツナたちが結局はルベレスと敵対し、死に至らしめたことになるのだ。

 とはいえ、そんな荒唐無稽な話をしたところで、受け入れられるとも考えにくい。

 ミドガルドは、どのような報告をするつもりなのか。

 セツナは、多少の不安と多量の疑問を抱きながら、彼の後ろ姿を見つめていた。

 ミドガルドの自信に満ちた様子を見れば、そういった不安すら解消されてしまうのだが。


 やがて神宜の間に辿り着いた。

 神宜の間は、謁見を行うための広間であり、室内は大きく上段と下段にわかれていた。聖王宮の象徴色とでもいうべき白と金に彩られた室内は、儀式的な飾り付けが施されていて、上段はどこか祭壇めいている。

 その祭壇めいた上段には、王妃と王子が待ち受けていて、何名もの騎士たちがふたりの前に控えていた。

 王妃アナスタシア・レア=ディールは、五十代半ばという年齢からは想像もつかないほどに若々しい女性であり、その全身から気品と高貴さは、絢爛たる服装のせいなどではあるまい。生まれ持った性質や、王妃として長年培ってきたものが彼女の身を包み込んでいるのだろう。黒髪に碧い瞳の持ち主で、穏やかな表情を浮かべる顔には、皺の数が少ない。

 王子アレグラス・レウス=ディールは、そんな王妃の外見的特徴をよく受け継いでいるように見えた。二十代半ばという年齢相応の外見ではあるが、若々しく、全身に活力が漲っているとでもいわんばかりに精気があった。黒髪と碧い瞳、顔の造作に至るまで、アナスタシアによく似ている。若い頃の王妃は、彼に似ていたに違いないと思わせるほどだ。普段から運動や鍛錬を怠っていないのだろう。立派な体格は、その派手な服装にも引けを取らなかった。

 セツナたちは、ヴェンデルに導かれるまま、神宜の間下段の最前面まで移動し、足を止めた。

 ヴェンデルが王子と王妃に傅くと、セツナたちもそれに倣う。

 すると、王子が真っ先に口を開いた。

「その方が、魔晶技師ミナ=カンジュか」

 どこか警戒しているような口調に聞こえたが、気のせいではあるまい。

「魔晶技師が生き残っていたことはディールにとって幸いである。魔晶技術こそ我がディールの生命線となっているいま、魔晶技師の力が必要不可欠であり、崩壊の日以来、魔晶技術研究所と連絡が取れなくなっていたがため、ディライアでは魔晶技師の育成を急務としていた。魔晶技師がいなくては、このディライアになにかしらの問題が起きたとき、対応できるものがいないからな」

「アレグラス」

「わかっています、母上。まずは、彼の報告を聞けと仰るのでしょう」

 アレグラスは、多少の苛立ちを込めて、王妃を見遣った。王妃は、そんな王子の態度を表情で咎めたようだが、王子は気にも留めていないようだった。こちらに向き直り、ミドガルドに目線を向ける。険しいまなざしは、魔晶技師への不満の現れに違いない。

「そういうことだ、ミナ=カンジュ。そなたが父上より受けていた密命とはどのようなものなのか、説明してもらえるのだろうな?」

「はい。もちろんです」

 ミドガルドの態度は、ヴェンデルと対峙したときとはまるで異なるものとなっていた。彼は、王子の威に打たれたかのように畏まっており、その態度の急変ぶりには、ヴェンデルが面を食らっているくらいだった。

「それで、密命とはなんなのだ? 父上がわたしや母上にも隠し立てするようなことがあるとは信じがたいが……」

「陛下は、ディールの危機と戦っておられたのです」

「ディールの危機……だと?」

「そういえば、国難、ということでしたね? それと関係があるのですか?」

「はい。ディールはいままさに存亡の危機に曝されており、陛下は、我々魔晶技術研究所の人間を総動員し、事に当たられておられました」

 ミドガルドは、おそるおそる様子で虚偽と欺瞞に満ちた報告をしていた。その口調には澱みがなく、真実を知らない人間には、彼が嘘を言っていることなどわかるはずもない。

 王子と王妃、騎士たちの反応を見るからに、“大破壊”によって魔晶技術研究所が全滅し、ミドガルドと神々が魔晶城として建て直したことは、だれも知らなかったようだ。

 おそらく、エベルは、その事実をひた隠しにし、魔晶技術研究所方面に兵を出すことすら禁じていたのではないか。だからこそ、ヴェンデルもアレグラスも、魔晶技師に対して不満や疑念をぶつけてきたのだ。魔晶技術研究所が無事ならば、早急に王都に連絡を寄越すべきであり、連携を維持するべきだ、という彼らの考えは至極真っ当だった。

 実際には連絡は寄越さず、連携さえ取っていなかったのだが、ミドガルドは、その事実を利用した。

 魔晶技術研究所がディライアに連絡を寄越さなかったのは、ルベレスの密命を受けていたからである、ということにしたのだ。元々、魔晶技術研究所とルベレスの縁は深く、ルベレスは、魔晶技術研究所の力を総動員して、最終戦争の戦力を捻出している。その事実だけは、王子や王妃も知っていることだろう。

 ルベレスがその際、研究所の魔晶技師たちになんらかの任務を命じていたとしても、なんら不思議ではないのだ。

 疑問も大いに残るところだろうがい、一応、筋は通っている。

「……ディール存亡の危機を、なぜ、父上は、わたしや母上に黙っておられたのだ?」

「殿下は、陛下より魔晶兵器の量産計画を聞かされましたか? 国是を破ることとなる、小国家群への侵攻について、事前に詳細を窺っておいででしたか?」

 問い返されて、アレグラスは、眉間に皺を刻みつけた。苦虫をかみつぶしたような表情になると、ミドガルドに話を進めるように促す。

「それで、その存亡の危機とやらはなんだ? それになぜ、父上みずからではなく、そなたが報告に現れた? そういう大事なことは、父上が直接いうべきことではないか」

「陛下も、そうしたかったはずでしょうが」

 ミドガルドは、慎むようにして、いった。

 その不穏な口振りには、アレグラスもアナスタシアもなにかを察したようだった。

「陛下は、ディールの危機を取り除くため、その犠牲となられたのでございます」

 



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