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第三千二十七話 新たなる翼(二)

 魔晶船の設計から完成に要した日数は、わずか十日ばかりに過ぎない。

 エベルとの激戦の翌日には、設計を開始したミドガルドは、その溢れる才能と莫大な知識、そして類い希な想像力によって、あっという間に設計図をかき上げている。

 その設計図を元にして必要な部材、部品を魔晶城各所の工場にて製造するとともに、廃墟と化した魔晶城の地上を復元するのではなく、魔晶船を組み立てるための工場として作り直すよう、神々に協力を仰いだ。

 ミドガルドの同志たる三柱の神もまた、魔晶船完成のために必要不可欠な存在だった。神々の協力がなければ、十日ばかりで完成するわけもなかったのだ。

 神々の叡智と御業があればこそ、複雑で精密な機械を容易く作り上げ、巨大な船を瞬く間に組み立てていくことができたのだ。

 設計図が書き上がった直後から始まった部品製造が終わると、それら部品は、船体を組み立てるための工場へと運ばれた。工場には山のように積み上げられた部品の数々があり、それら様々な部品が神々の御業によって精確無比に組み上げられていく様を、セツナたちは、ただ見守ったものだ。

 そこにセツナたちの入り込む余地などあろうはずもない。

 神の御業によっていくつもの部品が空中に運ばれ、船の骨組みの中に見事に嵌め込まれていくのだ。人間の手作業よりも余程効率的かつ精確であり、微塵の間違いや誤差が生じることもないのは、さすがは神々というべきなのだろう。

 そして、そんな神々の助力によって、魔晶船は完成したのだ。

 

 魔晶船は、ウルクナクト号の、飛翔船を元にして、ミドガルド独自の設計思想によって作り上げられたものだ。

 それはそうだろう。ミドガルドは、壊滅状態の飛翔船内部をくまなく見て回っているが、それでわかることなどたかが知れている。その上で、マユリ神が空中都市リョハンで得た情報を知識として獲得し、それによって船を空に浮かせる方法が思いついたということだった。

 つまり、飛翔船をそのまま再現したのではない、ということであり、やはりミドガルドの天才的な発想力がなければ、こうも容易く完成することなどなかったのだ。

 全体として、黒い船だった。

 鋭角的で、遠目にみれば巨大な漆黒の鏃のように見えなくもない。一見すると甲板が見当たらないが、それは甲板上部を天蓋状の防壁が覆っているからであり、船内からの操作によって開放することができるという話だった。しかも、特殊な素材を使っているため、外部からは甲板の様子は見えないが、甲板からは防壁の外の様子を見ることができるという。

 船首には、飛翔船でいうところの神威砲に類する兵器が格納されており、任意に開放し、展開することが可能とのことだった。その大砲の名称は、神光砲という。神威砲として使うことも、波光砲として使うことも可能であり、また、神威と波光を融合させた大出力の砲撃を行うこともできるらしい。その場合、船体出力の低下を招きかねず、多用できるものではない、という話だが。

 兵器が格納されているのは、なにも船首だけではない。船体各所に砲台が格納されており、任意に展開し、砲撃することができるという。ウルクナクト号よりも余程攻撃的な船となっているが、今後の決戦を考えれば、これくらい攻撃的であるべきなのだろう。

 ネア・ガンディアに乗り込むことになるのだ。激戦が予想され、数多の敵が待ち受けている。それら敵といちいち戦ってなどいられないのだ。であらば、船からの砲撃で多少なりとも敵戦力を削ることは重要だった。こちらの戦力を少しでも温存しておかなければならない。

 波光砲と神威砲が多数備え付けられており、波光砲に関しては、人間が操作することもできる。つまり、飛行中、わざわざ船の外に飛び出して戦う必要はない、ということだ。が、もちろん、状況がそれを許さない場合もあるだろう。

 船体後部には、巨大な輪があり、それがウルクナクト号と大きく異なる部分だった。輪は、回転できるようになっているようだが、それがなにを意味するのかはセツナにはわからない。

「あれはなんです?」

「魔翔輪と名付けております。この船の推力発生装置、ですな」

「ましょうりん……」

 ミドガルドが示した名称を反芻するようにつぶやいて、じっくりと見つめる。推力発生装置ということは、プロペラの役割を果たす、ということだろう。

「あれが回転することで船を前進させる力が発生するわけですが、回転速度を上げることでいくらでも加速可能です。船体が持つ限りは、ですが」

「限界を超えたら?」

「空中分解しますな」

 ミドガルドのしれっとした一言にセツナは愕然とした。

「そんな危険な」

「もちろん、そうならないよう限度は設けてありますので、御安心を」

「そもそもだな。わたしがそのようなへまをするわけがないだろう」

 マユリ神が呆れたようにいってくると、セツナの頭の上でラグナがふんぞり返った。

「船をぶっ壊しておいてよくいうわ」

「む……」

「おぬしのせいなのじゃぞ、少しは反省せよ」

「むう……」

 返す言葉もなく、呻く女神の様子に、セツナは同情するほかなかった。

「まあまあ、マユリ様だってあんなことになるとは思ってなかったんだから」

「そうはいうがのう」

「そうだ。セツナ。わたしの不注意だ。わたしの不注意が、ウルクナクト号をあのような目に遭わせてしまったのだ。こればかりは認めるしかない」

「魔晶船はウルクナクト号以上の性能を持つ船ですし、これからのことを考えると、敵の船に乗り続けるよりはよかったと思いますよ」

「でしょうな」

 ミドガルドが静かにうなずく。

「あの船は、ネア・ガンディアが作り上げた船です。マユリ様の手が加わっているとはいえ、ネア・ガンディアの技師がなにを仕組んでいるのかわかったものではありません。いままではなんともなかった、とのことですが、ネア・ガンディアとの決戦ともなれば、その仕掛けが作動した可能性も否定できないでしょう」

「それもそうかのう」

「ウルクナクト号に不備はなかったが……確かに、わたしの目でも見つからぬ仕掛けがあった可能性は否定出来んな」

 マユリ神が渋い顔をした。

 ウルクナクト号は、何度となく、マユリ神の手によって改修が加えられている。最初に船室などを造り替えただけでなく、それ以降も度々手を加え、リョハンにて知識を得てからは本格的な改造が加えられた。それによってウルクナクト号は、さらなる力を発揮できるようになったのだが、しかし、女神が案じるのも当然の代物でもあったのだ。

 ミドガルドのいうように、ウルクナクト号は、ネア・ガンディアの飛翔船なのだ。ネア・ガンディアがウルクナクト号から情報を得たり、なんらかの操作を加えることが今後あるかもしれなかった。

 そう考えれば考えるほど、あのときウルクナクト号が爆散したのは、結果的に良かったのだ、と想えるようになった。新造された船は、飛翔船よりも高性能かつ小型であり、小回りが効く上に速度も上だ。それに火力もあり、戦闘能力もある。

 すべてにおいて、ウルクナクト号を上回っているのだ。

 魔晶船に乗り換えることによる利点は大きい。むしろ、利点しかない、といっていい。

 ウルクナクト号に存在していた設備もほとんど再現されていて、食堂や大浴場もあれば、訓練場もしっかりと用意されているとのことだ。ゲインの農場もちゃんと再現されているところにミドガルドの優しさを感じずにはいられない。

 船を乗り換えるに当たって、問題などなにひとつなかった。


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