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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千十七話 ファリア、その試練(一)

 雷鳴が、遙か頭上より降り注ぎ、荒涼たる大地に打ちつけては天と地の狭間を激しく駆け巡る。

 上天を覆うのは堆く積み重なった分厚い雷雲であり、雲間に青空を覗き見ることすら叶わない。話によれば、今日だけのことではないらしく、空を雷雲が覆い隠すのは極めて日常的なことであり、普通のことであるとのことだった。

 逆に、晴れていることのほうがめずらしい、という。

 つまりは、決して雲が晴れないわけではないということでもあるのだが、だからどう、ということはない。むしろ、晴れないほうが彼女にとって都合がいいのかもしれなかった。

 もし、雷雲がなく、晴れ渡る空の下であれば、試練の開始はそれだけ遅れていたかもしれないのだ。

 試練。

 オーロラストームがファリアに課した試練のひとつが、天を覆う雷雲に関連するものだった。

 地平の果てまで見渡せるような高山の頂に、ファリアはいる。頂より見渡す限りでは、東西南北でその景色に大きな違いはなかった。草木ひとつ見当たらなければ、生物らしい生物も見当たらない荒涼たる大地。まるで死せる大地のようでありながら、しかし、それは確かに生きているのだ。

 荒涼たる大地を彩るのは結晶樹や結晶岩と呼ばれる、この世界独特の存在であり、それらには命が宿るというのだ。

 そして、結晶生物たち。

 オーロラストームもそうだが、彼女を女神の如く尊崇して止まないものたちも、そう類別される存在であり、この世界、この大地においてもっとも多く棲息し、数多の種にわかれているらしい。

 ファリアの世界でいう獣のような結晶生物もいれば、鳥のような結晶生物、蛇のような結晶生物、昆虫のような結晶生物がいて、それらの頂点にオーロラストームは君臨しているのだ。

 雷霆聖母、雷界の君、霹靂獣王、碧き女神――オーロラストームを指す尊称の数々こそ、彼女が結晶生物たちに尊崇されていることの証明だろう。それらの尊称をファリアが知っているのは、彼女をここまで案内してくれたダノルが教えてくれたからだ。

 ダノルは、オーロラストーム第一の僕であり、そのことをなによりも名誉に想い、誇りにしているようだった。そしてそんなダノルだからこそ、ファリアを丁重に扱ってくれているに違いなかった。オーロラストームにとってファリアは重要な客人なのだ。

 そして、オーロラストームが示した第一の試練とは、この奉雷山の頂にて精神を集中させ続けることであり、断続的に降り注ぐ雷鳴の中でいかに集中力を途切れさせないか、精神統一を継続させることができるか、というものだった。

 この試練が提示された当初、ファリアは、想像していたよりも簡単なものだと拍子抜けしたものだった。異世界くんだりまでやってきたのだ。試練が命懸けのものとなるだろうと想定していたのだが、どうやら、それほど厳しいものではないらしい、ということがわかると、脱力するのも当然だろう。

 だが、しかし、当然のことながら、オーロラストームの試練は、それほど甘く、簡単なものではなかった。

 奉雷山は、オーロラストームの住まう聖域より北東に位置する山脈の中でももっとも標高の高い山であり、その峻険さたるや、頂に至るだけでも相当厳しいものがありそうだった。しかし、オーロラストームは、それを試練とはしなかったのだ。ファリアが拍子抜けしたのも、そこに一因があるといっていい。

 奉雷山の頂へは、ダノルの背に乗ってひとっ飛びに飛んでいくことができたのだ。

『イルス・ヴァレ最大の峻険リョフ山に生まれ育ったあなたには、奉雷山を登頂することくらい容易いことでしょう』

 とは、オーロラストームの言だが、ファリアには首を傾げることではあった。確かにリョフ山のほうが標高があり、登頂する厳しさも上だが、ファリアのリョフ山での暮らしというのは、山登りを日課とするようなものではなかった。ほとんどを空中都で生活していたようなものだ。山門街や山間市と無縁だったわけではないし、山の頂たる空中都から山の麓まで行き来することがないではなかった。

 とはいえ、リョフ山の内部には整備された通路が存在し、危険な山道を登ったり降りたりする必要がなかったのだ。

 もっとも、オーロラストームにとっては、そんなことはどうでもいいことなのかもしれない。

 彼女の課す試練にこそ意味があり、それ以外のことは些事なのだ。

 奉雷山の頂は、まるで儀式の行われる祭壇のような設備があり、実際、オーロラストームによって儀式が執り行われることがあるという話だった。その儀式とは、それこそ、雷雲を呼ぶための儀式であり、この空を覆う雷雲は、オーロラストームの力によって呼び寄せられたものであるらしい。

 なぜ、雷雲を呼ぶ必要があるのかといえば、結晶生物が雷を命の源とするからだ。一日二日、空が晴れていても問題はないが、それが何日も続くようなことがあれば、命の危険に関わる大問題となり、そういうときにオーロラストームは奉雷山の頂にて儀式を執り行うのだ。そして、雷雲は世界中から呼び集められ、それから長期間、この大地に生きとし生けるものたちは、オーロラストームへの感謝を抱きながら生を謳歌する。

 まさに女神と呼ぶに相応しい存在であるということは、そういった話からも明らかだ。

 そんな女神の課した試練の中で、ファリアは、瞑目し、精神を集中させ続けていた。祭壇の上に座し、精神統一を計り続ける。

 最初は、大地を震撼させるが如く響き渡る雷鳴によって、その集中を掻き乱されたものだった。少し集中して築き上げた程度の精神の砦は、雷の一撃によって脆くも打ち砕かれてしまうのだ。多少、精神の砦を強固なものにしたところで、断続的に降り注ぐ雷鳴の前では無力だ。

 精神力に関しては、自信があった。

 というのも、武装召喚師としてなるためには、精神的に強靭でなければならず、精神面での修行も何度となく行い、鍛え上げたはずだったからだ。ただリョハンに籠もり、修行し続けていたわけでもない。ガンディアに属し、各地で戦いながら、様々なことを経験したことで、精神力はさらに高まっていたはずなのだ。少なくとも、ただの武装召喚師とは比べものにならないくらいには。

 しかし、そんな彼女の自信は、早々に打ち砕かれた。

 雷鳴の試練は、それほど容易いものではなかったし、生半可なものではなかったのだ。

 轟く雷鳴は、大気を震撼させ、大地に激しく打ちつけた。奉雷山の頂とて、例外ではない。いやそれどころか、雷轟山脈と呼ばれるその山脈においてもっとも標高のある奉雷山の頂は、雷鳴がもっともよく聞こえ、その影響をもっとも強く受ける場所だったのだ。

 雷鳴が鳴り響くたび、強烈な圧力と震動がファリアを襲った。

 ただ、精神を集中し、神経を研ぎ澄ませていると、その圧力と震動の前に為す術もなく崩れ去り、精神の砦を維持することもかなわない。

(こんなもの……!)

 ファリアは、意地になった。

 まるでこれまでの自分の精神的成長がなかったことのようで、それが彼女には悔しくてたまらなかった。

 たかだか雷鳴相手になにを手間取っているのか。

 ファリアは、自分自身への怒りに心を燃やしながら、精神の砦をより強固で堅牢なものへと組み上げていった。

 ただ精神を集中するだけでは駄目なのだ。

 より深く、より強く。

 ファリアは、雷鳴の海の中で、一心不乱になった。



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