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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千九百八十三話 呪われしもの(二)

 セツナは、いま、調整器の中にいる。

 魔晶人形の躯体の状態を確認し、検査し、調整するための機材は、人体の健康状態を把握するために利用することもできるからだ。

 通常、躯体の検査を行う場合は、躯体自体に保存された記録や躯体から採取された情報を元にするのだが、人体の健康状態を調査する場合には、別の方法を用いる。調整器内部で波光を照射し、その反射によって肉体のみならず各種臓器の健康状態まで把握することができるという。

「そんなものを用いずともよかろうに」

「もちろん、皆様方のお力は十分に理解しておりますが、とはいえ、セツナ殿の現在の状態を記録として保存しておくには、調整器を使うのが一番でしてね」

 ミドガルドが調整器の端末を操作しながら、ラグナに返答する。

 セツナの肉体がいまどのような状態にあるのかについては、既にマユリ神によって調べられていた。それにより、セツナの肉体にはなんの異常も見受けられず、健康そのものであり、しかも覚醒状態であるということまでもわかっている。

 つまり、意識を失ったわけでもなければ、眠っているわけでもないというのだ。

 しかし、セツナは、ウルクたちの声にも行動にもなんの反応を示さなかった。体中の筋肉が弛緩しているようであり、ウルクが抱えた際、だらりと垂れ下がった腕は、死者のそれを思い出させた。

 それでも、マユリ神の調査では、起きている状態である、というのだ。

 ウルクには信じられないことだが、マユリ神が嘘をつくわけもない以上、それが事実と受け止めるしかない。

 つまりは、それが呪いというものなのだ。

「まさか呪詛の元凶たる魔王の使いが呪われていようとはな。皮肉なものだ」

「勘違いしているようだが、呪いは魔王を起源とするものではないぞ。呪いの集合体といっても過言ではないが……」 

「だとしても同じことだろう。忌み嫌われ、呪われし魔王の下僕が呪われ、窮地に陥るなど、皮肉以外のなにものでもあるまい」

 フォロウ神とマユリ神が言い合っていると、そこにほかの神々も割り込んでいった。

「そういう言い方はよくないな!」

「その通りです。セツナ様がいらっしゃればこその大勝利なのですよ」

「それもわかっている。だからこそなのだよ」

「なにがです?」

「神が神を滅ぼすために魔王の使徒と手を組むなど、そんな愚かな話があっていいものか」

 フォロウ神の表情は、自嘲と呼ぶべきものなのだろうが、しかし、ウルクは、神を睨みつけざるを得なかった。セツナのことを貶されて、気分がいいはずもない。ただでさえ、セツナはいま重篤な状態にあり、ウルクも気が気でないというのにだ。

 魔王だとか、魔王の使いとか下僕とか、そういったことはどうでもいいことだ。

 ウルクにとって大切なのはセツナであり、セツナのことを馬鹿にするものを許容することはできない。

「確かに、愚かで、どうしようもないことじゃな」

 と、ラグナが、ウルクの頭の上でふんぞり返ったようだった。

「異世界の神々とあろうものが、力欲しさに人間の娘の召喚に応じ、契約に囚われ、在るべき世界に帰ることもままならぬまま五百年以上のときを無駄に過ごしたのじゃからな」

 ラグナの発言に対し、フォロウ神はなにも言い返さなかった。言い返せなかった、というべきなのかもしれない。フォロウ神は、こちらを見据えていた。ラグナを凝視しているようだった。

「挙げ句の果てには神々同士で争い合い、滅ぼし合う始末。神とは、いったいなんなのじゃろうな」

「わたしには、迷惑極まりない存在のように思えます」

「正解じゃ、後輩」

「正解、ですか」

「うむ。あやつらがミエンダの召喚に応じなければ、ミエンダに力を与えなければ、こうはならなんだ。まったく、余計なことばかりしよって」

「それは不正解だろう、ラグナシア=エルム・ドラース」

 フォロウ神が苦々しい顔で告げてくる。

「我々がミエンディアの召喚に応じたからこそ、あなたがたは創世回帰を起こさなかった。だからこそのこの世界であり、現状に繋がっている。それは、あなただって理解しているはずだ。まあ、我々がこの世界にとって迷惑千万な存在であることもまた、認めるほかあるまいが」

「わかっておるのなら、とっとと帰ってほしいものじゃ」

「帰ることができるのであれば、そうさせて頂く」

「ないから、困っているのです」

「竜王よ、あんたがいったとおりだ。聖皇との契約が我らをこの天地に縛り付けている。在るべき世界に帰るには、聖皇に送還してもらうか、この世界を滅ぼすことで契約そのものをなかったことにするしかない」

 ラダナスがいった神々の帰還方法については、既知の情報だった。召喚の契約は絶対的なものであり、契約を破ることは神々にすら不可能らしく、故に神々は五百年前の契約を律儀にも守り続けている。そうするしかないからだ。

 そして、その契約に従い、聖皇による送還をなすために起こしたのが、先の最終戦争だ。それは聖皇復活の儀式だったのだが、失敗に終わり、そのために神々は途方に暮れているというわけだ。

 エベルは、ラダナスが提示したふたつの方法の内の後者を実行することで、在るべき世界に帰ろうとしていた。そのために力を求めていたのであり、その目論見をミドガルドたちは大いに利用し、エベル討滅を成し遂げている。

 窮虚躯体の絶大な力は、エベルを誘き寄せる餌には十分過ぎる効力を発揮したということだ。

「やはり、それしかないんじゃな」

 ラグナが落胆したのは、ほかに可能性が在って欲しかったからに違いない。

「ああ、それしかない」

「だとすれば、おぬしらはこの世界に留まり続けるしかあるまいな」

「なぜそうなる」

「世界を滅ぼすなど、以ての外じゃ。わしが許さぬし、セツナも許さぬぞ」

「聖皇の復活は?」

「それも、認められん」

 ラグナが口調も厳しく告げた。

「あやつは、復活の暁にこの世界を滅ぼすつもりなのじゃ。そんなものの復活を許すわけにはいかぬ。おぬしらがこの世界がどうなろうと知ったことではないというのであれば、我が主がおぬしらに引導を渡してくれるぞ」

「肝心の魔王の使いは身動きひとつ取れぬ状態のようだが?」

「ふ、ふん、すぐに目を覚まし、おぬしらの度肝を抜いてくれるわ! のう、後輩よ!」

「は、はい、おそらく……いえ、きっと」

 ラグナに同意したものの、調整器の中で眠るセツナの様子に変化は見受けられなかった。

 調整器は、ウルクが肆號躯体の調整のために使用したものとは大きく異なる外観をしている。最新鋭の躯体である肆號躯体の調整には、より複雑で高性能な機材が必要であり、そのために調整器そのものが大型化しているのだ。あれに比べると、セツナの入っている調整器のなんと小さいことか。

 しかも、蓋の一部が半透明になっていて、セツナの顔を見ることができるのだ。

 ミドガルドがわざわざこの調整器のある部屋まで移動することにしたのは、検査中のセツナの顔を見せることで、ウルクたちを少しでも安心させるためかもしれない。

 だが、目を開けたままの虚ろなまなざしを見ていると、安心するどころか余計に不安に駆られてしまい、ウルクは、なんともいえない気持ちになった。

 セツナは生きている。肉体的にはなんの問題もなく、健康状態も良好だ、という。しかし、ウルクたちの声もなにも届かず、反応も示さない彼の状態を正常であるとはとてもいえないはずだった。

 不安が募る。

 これほどまでに心が揺さぶられることなど、いままでにあっただろうか。

 きっとそれは、心が安定していないまま、このような状況に遭遇してしまったことも影響しているのだろうが、それ以上に、セツナへの想いが溢れているからだ。

(セツナ……)

 ウルクは、調整器の窓から覗くセツナの顔をじっと見つめながら、彼が一秒でも早く元に戻るよう祈った。

 そして、それだけしかできない自分の無力さを噛みしめた。


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