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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千九百五十話 窮極にして虚ろなるもの(十二)

 極大の光となったウルクは、一瞬にしてエベルの元へ到達し、エベルが迎え撃つべく伸ばした両腕を容易く突き破り、胸元へと至る。エベルの全身からどす黒い炎が噴き出した。

「人形など、我が敵ではないのだ!」

 エベルの叫びは、負け惜しみにしか聞こえなかった。だが、エベルにはエベルなりの確信があったのは間違いない。その瞬間、ウルクの動きが止まったのだ。いや、静止したのはウルクだけではなかった。極大の光そのものたるウルクを包み込むように渦巻く黒い炎も、エベル自身も、なにもかもが動きを止めた。音も聞こえなければ、なんの反応もない。

 それはエッジオブサーストの時間静止能力を発動している最中と同じだった。

 つまり、

(時間静止だと!?)

 セツナは、なぜか自分が時間が静止したことを認識できていることに驚きつつも、身動きひとつ取れないことに愕然とした。体が動かない以上、周囲の状況を確認することもできないし、時間静止を免れたものがいるかどうかもわからない。

 ただひとつわかっていることは、決して喜ばしい状況ではないということだ。

 なぜならば、身動きひとつ取らないエベルの肉体から遊離する炎を目の当たりにしているからだ。その黒く燃え盛る炎こそ、エベルの本体であることは疑いようもない。そして、この時間静止中に自由自在に動けるらしいことから、エベルの本体が時を止めたのは間違いなかった。

(エベル!)

 セツナは叫んだが、声が出るはずもなかった。口ひとつ、喉ひとつ動かないのだ。指一本、髪の毛ひとつ動かない。なにもできない。

 ただ、エベルの肉体から漆黒の炎が遊離していく様を見届けるしかなかった。

 そしてその炎が、依り代の眼前に迫った光へと向かっていくのを見つめるだけだ。エベルの全身から噴き出す炎よりも黒く、昏い輝きを発する炎は、それ自身が意思を持っているように蠢き、肉体を離れた。ウルクが発する波光をものともせず躯体に絡みつき、浸透していく。

(止めろ!)

 叫ぶが、やはり、声は出ない。焦りや恐れが全身を突き抜けるが、体はまったくもって反応せず、黒き矛も眷属たちも、まるでなにも感じていないかのようだった。エベルの時間静止能力は、魔王の杖の時をも止めてしまっている。焦燥感に駆られるもなにもできないことの無力感が突き上げてきて、セツナは何度となく叫んだ。だが、暗黒の炎は止まらない。ウルクの躯体、そのまばゆく輝く装甲に取り付くと、染みこむようにして内側に入り込んでいく。

(ウルク!)

 悲痛な叫びは、脳内に反響するだけであり、世界にはなんの影響も及ぼさない。時の止まった世界は、エベル以外、なにひとつ動かず、エベルの本体たる黒き炎だけが悠然と闊歩し、世界の支配者の如く振る舞うのだ。そして、どす黒い炎が窮虚躯体に完全に溶け込むと、目に見える範囲から消失する。それと同時に時間静止が終わったのだろう。セツナは、気がつくと全身全霊の力を込めて飛び立っていた。エッジオブサーストの翼が虚空を叩き、セツナを空に飛ばす。一瞬の超加速。セツナは瞬く間にウルクへと接近したが、そのとき、黒い炎に包まれたまま自由落下していくエベルの依り代、ルベレスの肉体に波光の奔流が突き刺さる様を目の当たりにした。無論、ウルクの躯体が撃ち放ったものであり、強烈な光の奔流はルベレスの胸を貫き、そのまま全身を飲み込んでいった。ルベレスの全身を包み込んでいた黒い炎の衣も、翼も、冠も、なにもかもを消し飛ばす波光の奔流。弐號躯体でいう波光大砲だが、威力は段違いだ。段違いどころではない。次元が違う、といったほうが正しいだろう。

 ルベレスの肉体が断末魔の叫びを上げたような気がしたが、その肉体は、塵も残さず波光の中に消え失せてしまった。消滅したのだ。余韻も残さず、なんの感慨もなく、一瞬にして消し炭となった。ただし、それはルベレス・レイグナス=ディールの肉体であって、ルベレスの肉体を依り代としていた大神エベルが消え去ったわけではないことは、いうまでもない。

 ウルクの躯体が、ルベレスに向かって伸ばしていた右腕を軽く掲げ、じっくりと確認するような素振りを見せる。その不可解な仕草を見ずとも、セツナにはわかっている。ウルク自身ならば、そのような仕草をするわけがないのだ。たとえ窮虚躯体が弐號躯体とは次元の違うほどの出力を発揮するとはいえ、いままでの戦闘で身に染みて理解しているはずだった。いまのウルクの挙措動作は、初めてその力に触れるものの仕草としか考えられないものだった。

 銀色に輝いていた頭髪が黒く燃え上がり、魔晶石の目が金色に輝いたことで、セツナの推測は確定事項となる。

 つまり、エベルがウルクの躯体を新たな依り代として乗っ取ったということだ。ルベレスの肉体を消滅させたのは、窮虚躯体の性能を確認するのとともに、ルベレスの肉体を処分するためだったのだろう。

「てめえ……」

 セツナは、ふつふつと沸き上がる怒りのままに、ウルクの躯体を見据えた。波光の輝きに神威が混じり、その背後に炎の輪が出現した。黒く燃え盛る炎の輪は、黒き太陽たるエベルの象徴なのだろうが。

「なるほど……これが君の、いや、君とわたしに楯突く神々の叡智と技術の結晶か」

 ウルクの口から聞こえてきたのは、ウルクの声そのものだった。ただし、ウルクとは違い、抑揚があり、感情の起伏があった。窮極の躯体たる窮虚躯体でもってしても実現不可能だった感情表現が、神の力によって可能になった、ということだろう。皮肉というべきか、なんというべきか。だが、しかし、その声音に秘められた感情は、セツナがウルク本人から感じるものとはまったく異なるものであり、故に彼は、矛の柄を握る手に力が籠もった。骨が軋むほどに握り締め、力を込める。エベルがウルクの躯体を乗っ取ったことへの怒りが、煉獄の炎の如く燃え盛り、心の内を灼き焦がす。

「素晴らしい」

 エベルがこちらを一瞥した。ウルクの美貌は、忌々しい邪神に乗っ取られたことで変化したりはしない。だが、セツナの目には、確かに違うものとして映ったのだ。髪と目以外まったく同じだというのに、なにもかもが違う心証。それこそ、ウルクという人格が存在し、精神が存在する証なのではないか。そう想った瞬間、セツナは、閃く光を見た。そして、反射的にすべての力で胸元を庇ったのは正解だったということをすぐさま思い知った。

「ぐあっ!?」

 なにが起こったのか、わからなかった。

 ただ光が目の前に閃いたつぎの瞬間、全身を凄まじい痛みが襲ってきたのだ。両腕と両足、それぞれが寸断され、血を噴き出しながら体から離れていくのを理解したときには、セツナは地上に向かって吹き飛ばされている最中だった。エベルが攻撃してきたのだ。それは、予知もできなければ、察知もできなかった。深化融合を果たした完全武装状態であるにも関わらず、だ。胸元への攻撃だけは逸らすことができたのは、幸運以外の何物でもあるまい。一瞬でも反応が遅れていれば、セツナは四肢を切断された上、心臓を貫かれて即死していことだろう。

(いまにも死にそうなんだがな……!)

 普通ならば、死んでいてもおかしくはない。なぜならば両腕両足を切り裂かれたのだ。その衝撃で死んだとしてもなんら不思議ではないし、たとえ即死しなくとも、出血死するのは時間の問題だった。普通ならば、だが。

 


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