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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千九百四十五話 窮極にして虚ろなるもの(七)


「逃げる必要などどこにもない。勝利は確定した。わたしの、人間の勝利がな」

「なにを言い出すかと思えば、また愚かなことを」

 ミドガルドの発言は、確かに状況に即したものではなく、妄言としか受け取れなかった。エベルのうんざりしたような反応も当然といえば当然だったし、セツナ自身、ミドガルドの気が狂ったのではないかと思わずにはいられなかった。

「勝利が確定した? この状況を見て、どう判断すればそのような結論に至るというのだね。ミドガルド=ウェハラム。聖王国の叡智たる君がそのような有り様なのは、あまりにも残念だぞ!」

「そうだ。叡智。わたしは、聖王国の叡智と呼ばれた。人間にして人知未踏の領域に踏み込んだ天才魔晶技師と謳われた。そこに驕りや思い上がりがなかったかといえば、否定は出来ぬ。故にわたしは見誤り、見失ったのだろう。わたしが進むべき道を、忘れてしまったのだ」

「急な自分語りも脚本の内かね。時間稼ぎにしては露骨すぎるのではないか?」

 エベルが嘲笑いながら両腕を振り翳す。手の先に炎が集まり、右手に黒い炎の剣、左手に黒い炎の槍を具現した。それぞれ高密度の神威であり、その破壊力たるや想像するまでもない。

「時間稼ぎなど、もはや不要だ。エベル。おまえは負けたのだ。このわたしに。人間、ミドガルド=ウェハラムにな」

「先程から、君のいっていることがまったく理解できないのだがな」

「いま、わかる」

 ミドガルドが断言した直後だった。刹那の後、といってもいい。一秒にも満たないうちにそれは起きた。閃光がエベルの頭蓋を撃ち抜き、頭部を吹き飛ばしたのだ。木っ端微塵という言葉がこれほど似合う光景はない、と、思ってしまうくらいだった。頭蓋が砕け散り、脳髄が飛び散り、なにもかもが消し飛ばされる。エベル自身、なにが起こったのかわからなかったに違いないし、セツナたちの目でも、なにが起こったのかさっぱり理解できなかった。ただ、光が見えただけだ。

 一条の光がエベルの頭部を貫き、粉砕した。

 だが、つぎの瞬間には、エベルは頭部を復元させており、彼は、なにごともなかったかのように振る舞って見せた。実際、依り代の頭部を粉砕される程度、神にとっては痛痒すら感じないことなのかもしれない。

「これが?」

「そう、それが力だ。おまえを斃すための力だよ、エベル」

 ミドガルドがいうが早いか、またしても光がエベルを襲った。エベルは、対処しようとしたのだろう。体を捌き、かわそうとした。が、光のほうが数段疾い。今度はエベルの右腕を根こそぎ吹き飛ばし、立て続けに左手を切断した。エベルは透かさず両腕を再生すると、黒炎の輪を膨張させた。漆黒の炎が翼となってエベルを包み込む。神威による防御障壁を展開することで、光の接近を阻んだのだ。確かに全方位を神威の壁で覆えば、なにもの近づくことも敵わないだろう。

 エベルに迫る光が一瞬、躊躇を見せた。その躊躇いをエベルは見逃さない。黒き炎の翼を膨張させると、無数の炎の羽を飛ばしたのだ。炎の羽は、エベルに迫らんとする光を包囲し、爆発。物凄まじい爆炎の連鎖はさながら狂い裂く花のようであり、余波だけでセツナたちは吹き飛ばされた。しかし、光はその爆発の乱舞の中を駆け抜けると、炎の翼に包まれたエベルの直上に絢爛たる姿を見せた。

「あれは……」

「後輩のようじゃの」

 ラグナが怪訝な声を上げるのも無理のない話だった。

 ウルクの姿態が大きく変化していたからだ。全身を覆う装甲が展開し、肩や胸部、腰や膝に魔晶石が輝いていた。飛行翼にもいくつもの魔晶石がその絢爛と輝く姿を見せており、全身がいままで以上に強烈な光に包まれていた。灰色の髪は、光を帯び、銀色に輝いているようにさえ見える。神々しいとさえ思えるほどの光を全身から放ち、完全武装状態のセツナの動体視力を上回るほどの速度で移動しているのだから、その姿形を捉えきれず、ただの光と認識するのも致し方のないことだろう。

 セツナは、茫然とするほかなかった。

 ウルクのそれは、先程までの彼女からは考えられない速度と力であり、現在の完全武装状態を遙かに凌駕するものだったからだ。

「じゃが、なんじゃ、あの力は……あれが、あのようなものを人間の手で生み出せるというのか」

「古代にも超技術はあったんだろう? 魔法使いがいたとも聞くぜ。そういった力や技術が世界の滅亡を招きかねないから、創世回帰を繰り返してきた。そうじゃないのか?」

「それはそうじゃが……」

「おまえのいいたいこともわかるよ、ラグナ。確かにあれは……」

 セツナは、光り輝くウルクの姿に圧倒さえされながら、つぶやいた。常軌を逸した力というほかない。エベルは、分霊を取り込み、本来の力に極めて近い状態に戻っている。その力は、当然ながら現状のセツナたちが力を合わせても、余裕で凌駕するものだ。正面からぶつかり合って勝ち目はない。それほどの力を持ったエベルを圧倒するウルクの姿は、頼もしさよりも異様さを感じずにはいられないのだ。

 全身から放たれる波光は、先程までよりも遙かに烈しく、破壊的だ。

「どうしたエベル。圧倒的な力を持つおまえが、なぜ、護りに徹している? おまえは大いなる神なのだろう。異世界の闇を遍く照らす黒き太陽なのだろう。その力は数多の神々をも畏れさせるほどのものなのだろう。なのになぜ、たかが人間の作り出した人形風情に手間取っている。大いなる神ならば大いなる神らしく、我々を圧倒して欲しいものだな」

「いい気なものだな、ミドガルド。この程度でわたしを上回ったなどと、片腹痛い!」

 エベルが、ミドガルドの挑発に苛立ちを覚えたかのように翼を広げた。自分が健在であり、余裕が残っているところを見せつけようとしたのだろうが、それが裏目に出た。翼を広げた瞬間、ウルクの飛行翼が爆発的な光を噴出し、ウルク自身が一条の光となってエベルの胴体を貫いたのだ。直後、黒い炎の翼がエベルの上方を覆うように広がる。

 反応が、遅れている。

 エベルはすぐさま粉砕された上半身を復元して見せると、その場から姿を掻き消した。空間転移。虚空が歪み、波紋が広がる。その波紋を光が貫き、空間の歪みが激しくなった。波紋の中に神威が爆ぜる。エベルがなんらかの罠を空中に仕掛けていたのだろう。しかし、光そのものの如きウルクは、そのような仕掛けなどものともせずに突き破ってしまうと、上空で急停止した。そこへ黒い炎の渦が殺到する。炎の渦がウルクを飲み込んだかに見えた直後、巨大な光の帯が炎を切り裂き、霧散させた。

 ウルクは、波光の防壁の中に浮かんでいる。

「エベルは……」

 ミドガルドの声が聞こえたかと思うと、いつの間にかセツナの近くに彼の姿があった。

「エベルは、偉大なる神だ。その知も力も並外れたものであることは、神々の多くが認めるところだ。神々が束になっても敵わぬから、ナリアを除くすべての神々が力を結集し、至高神ヴァシュタラとなった。そうすることでようやく、エベル、ナリアとの間に均衡を築くことができたのだ。それほどの神だ。並大抵の方法では敵わないことはわかりきっていた。ましてや魔晶人形は、奴の入れ知恵によって完成を見たもの。どれだけ改良を加えようと、造り替えようと、奴の掌の上で踊っているだけのこと。勝ち目はない」

 ミドガルドの目は、ウルクを追っているようでいて、追い切れていなかった。セツナですら光としてしか認識できない彼女の機動を彼が追えるとは考えにくい。もちろん、並の魔晶人形よりは高性能なのだろうが、それにしたって限界はあるだろう。ミドガルドの躯体がウルク並ならば、彼が戦うべきだ。だが、彼は戦わず、ウルクに任せっきりだった。その時点で、彼に戦闘力そのものがないことが想像できる。

「わたしは散々考えたよ。どうすれば奴を斃せるのか。どうすれば、神をも凌駕することができるのか。考えに考え抜いた。だが、わたしは所詮人間だ。人間の頭脳には限界がある。癪だが、奴の言は道理であり、真理なのだ。人間の脳髄はあまりに小さく、その能力のすべてを限界まで駆使するということも、できない。そんなことをすれば、人間は生命力を使い果たし、死んでしまうだろう」

 上空、エベルはウルクに拮抗しているかに見えなくはなかった。だが、圧倒しているのはウルクであり、一条の光が空を走るたび、エベルはその肉体に致命的な損傷を負った。そのたびにエベルが肉体を復元するものだから、痛撃とは言い切れないのも事実だ。

「だが、わたしには同志がいた。同志たちは、わたしに様々な知恵を授けてくれた。エベルの正体を知ることができたもの、彼ら同志のおかげだ。エベルが異世界の神であり、皇神の中でも頭抜けた力を持つ大いなる神であることも知った。そして、神は本来不老不滅の存在であり、神同士の戦いでさえ決着のつかない不毛なものだということもな」

 エベルが神威の炎を操れば、ウルクは波光砲で対抗する。炎と光が激突し、魔晶城を覆う結界に亀裂が走った。

「それでもわたしは、奴を斃したかった。斃さなければならなかった。わたしがこの手で、この手にある知恵と知識、技術の限りを尽くして、斃し、滅ぼさなければならないと」

「どうして……そこまで……」

「奴がわたしの誇りを踏みにじった。ただそれだけのことだよ」

 ミドガルドの魔晶石の目には、確かに感情が宿っていた。

「それだけで十分だった」

 限りなく深い怒りが、彼を突き動かしている。


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