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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千九百二十八話 魔晶の響宴(二)

 最重要施設の自動扉、その中へ足を踏み入れた瞬間、目が眩むような光が沸き上がった。なにかと思えば、

それまで点いていなかった魔晶灯の数々が一斉に点灯し、その常ならぬ強い輝きが視覚を刺激したようだった。思わず立ち止まっていると、案内役の魔晶人形とウルクがどんどん先に進んでいく。しかし、イルもエルも、セツナが動くまで微動だにしない。

「どうしたのじゃ?」

「いや、ちょっと眩しくてな」

「ふむ。確かにのう」

 ラグナが頭の上で考え込むような素振りをしたようだった。

 セツナは、いまやかなり離れてしまったウルクたちに追いつくべく早足になりながら、施設内の光景を目に細めた。堅牢にして威圧感たっぷりの外観からは想像もつかないほどすっきりとした印象を受ける。ただし、魔晶灯は、天井や壁、床のそこら中に取り付けられており、その光量たるや物凄まじいものであり、セツナは一瞬でも目が眩んだのは当然と思えた。

 出入り口を入ってすぐにあるのは、広い空間だった。天井は高く、がらんとしている。施設の外にたっぷりと設置された兵器の類はどこにも見当たらず、どうにも圧倒的な清潔感があった。まるで研究施設に足を踏み入れたかのような錯覚を覚える。磨き上げられた床も、白い壁も、天井も、なにもかもが城塞の印象とは異なるものだ。

「研究所の雰囲気に近いですが、造りは大きく異なります」

 ウルクに追いつくと、彼女は、そのような感想を述べた。ウルクが生まれ育った――といっていいだろう――魔晶技術研究所は、このように清潔感に満ち溢れた建物だったのだろう。

 魔晶人形たちの硬質な足音に混じる不協和音は、セツナの靴音だ。それ以外に音はなく、静まりかえっている。その静寂には不気味さはなく、むしろ、心を落ち着ける効果があるようだった。

 やがて、案内役が足を止めたのは、広い空間の突き当たりだった。そこには扉がひとつあり、上部には電光掲示板のようなものがあった。それが電光ではなく、魔晶石の光だということは、考えるまでもなくわかる。ここは元魔晶技術研究所なのだ。魔晶技術とは、魔晶石の光の力を転用した技術であり、元研究所たる城塞の各所にはその結晶とも呼べる代物ばかりあった。

 この昇降機も、そうなのだろう。

 セツナは、その波光掲示板に表示される数字を読み取って、その扉の先にあるものが昇降機であると推察し、案内役が扉の横に設置された電鍵(この場合は波光鍵、魔晶鍵というべきだろうか)を押した直後、扉が開いたのを見て確信した。

 扉の内側は、箱形になっており、案内役がウルクに乗り込むよう促した。ウルクは、まずセツナたちが先に乗り込むべきであるといい、セツナはそれに従った。ウルクが先に乗り込むと、案内役は、ウルクだけを連れて行ってしまう可能性があるからだろう。案内役がセツナたちまで認識してくれているかどうかは、不明だ。

 とはいえ、いまのところ、セツナたちが魔晶人形や兵器群に攻撃されていないことを考える限りでは、敵視されていないと考えていいだろう。

(油断するべきじゃないが……)

 昇降機の中に乗り込むと、扉の脇にいくつもの電鍵が並んでいることを確認できた。昇降機の中は、決して狭くはない。セツナと魔晶人形たちが乗り込んでも、まだまだ余裕があるのだ。それは、この施設を使っているものにとって、それだけの広さが必要だからだろう。

 案内役の操作によって、昇降機が動いた。

 地上一階から、地下へ、降りていく。

「地下か」

「地下になにがあるのでしょう?」

「おまえにもわからないのか」

「はい。研究所は地上にありましたし、開発施設も、地上にありました」

「ということは、地下施設は元々なかった、ということか」

「はい。それに関しては断言できます」

 ウルクが確信を以て、いった。

 ウルクは、魔晶技術研究所で生まれ育った。魔晶技術研究所のことで知らないことはない、とでもいうのだろうし、実際にそうなのだろう。だからこそ、彼女も困惑を覚えている。魔晶技術研究所が、城塞としか思えないような作りに変わっていることもそうだが、地下になんらかの施設が新造されていることも。

 昇降機はただただ地下へと降りていく。

 やがて、扉の上部に設置された波光掲示板が地下二十階を示すと、昇降機が停まった。

「地下二十階……」

「よくわからんぞ」

「確かにな」

 地下二十階といわれたところで、どれほどの深さなのかは不明だった。一階辺りの間隔次第では想像より浅くもなるし、深くもなるのだ。とはいえ、かなり地下深くまで連れてこられたことは間違いなく、セツナは気を引き締め直した。もしかすると、マユリ神が生命反応を感知できなかったのは、ミドガルドがあまりにも地下深くに潜り込んでいたからかもしれない。

 昇降機の扉が開くと、真っ先にセツナが降りた。イル、エルに続き、ウルクが出る。すると、昇降機の扉が閉じてしまった。

「あれ?」

 セツナは思わずそんな言葉を発して、波光掲示板を見上げた。地下二十階を示していた数字がどんどん小さくなっていく。地下十九階、地下十八階、地下十七階……。案内役の魔晶人形を乗せたまま、だ。つまり、置いて行かれたのだ。

 ラグナが呆れ果てたようにいった。

「あやつ、わしらを置いてけぼりにしよったな」

「ここから先は、わたしたちで行け、ということでしょうか」

「だろうな」

 進路に向き直れば、広めの通路が真っ直ぐに伸びていた。暗くはない。むしろ、眩しすぎるくらいだった。魔晶灯は、高い天井に設置されているだけでなく、壁や床にも埋め込まれていて、そこかしこから冷ややかにもまばゆい光が発せられている。それらが波光の乱れを生み、神の力をも正確に把握しきれない空間を作り出しているのかもしれない。

「警戒を怠らず、進もう」

 とはいえ、先頭を進むのはウルクだった。

 ウルク、セツナとラグナ、イルとエルという隊列に変更はなく、それぞれ細心の注意を払いながら前進した。

 昇降機の降りた場所からひたすらに真っ直ぐ進む。床も壁も天井も、磨き抜かれた白さを誇り、光量の強い魔晶灯に照らされていることで余計に白く輝いているように見えた。そのせいで目に痛いくらいであり、生身の人間には辛いとしかいいようのない通路だった。ウルクたち魔晶人形にとってはなんの問題もないようだったし、ラグナにしても、多少眩しい程度のようなのだが、セツナにとっては目に痛いにもほどがあった。

 途中、何度も分かれ道があった。

 が、そのたびに波光掲示板があり、矢印で順路を示してくれていた。そこで、案内役の魔晶人形がこの地上に戻った理由がわかった。案内板があるから、案内役はいらない、ということだろう。

 そうして矢印に従って進んでいく。

 まっすぐではなかった。何度も分かれ道を曲がっていった。道中、通路の脇には様々な部屋があるようだったが、中を覗いている暇はなかったし、そもそも扉を開けることができたのかどうかもわからない。きっと、厳重に管理されているに違いないのだ。

 やがて、迷宮のように入り組んだ通路の最終地点に辿り着いた。というのも、そこは行き止まりとなっていて、突き当たりに扉があったのだ。

 金属製の扉は、ウルクが前に立つことであっさりと開いた。ウルクを認証したのか、それとも、室内のなにものかが遠隔操作で開いたのか。いずれにせよ、ウルクは、こちらを振り返り、セツナがうなずくのを待って、室内に足を踏み入れた。すると、

「随分と……遅かったじゃないか」

 聞き知った声にセツナははっとなった。

 ウルクが駆け出すのを止めなかったし、セツナも室内に飛び込むようにして足を踏み入れ、その部屋がどんな様子なのかも確認せずに、声の主を探した。

 男は、ひとり、そこにいた。

 真っ白な部屋の奥まった場所に立っていた。

 白衣を身に纏う男。

 ミドガルド=ウェハラム。


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