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第二千九百五話 力を求めて(二)

 百万世界の神々を召喚し、それによって多大な力を得たのが聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーンだ。イルス・ヴァレそのものを改変し、作り替えるほどの力を持ったそれは、世界の管理者である三界の竜王すらも欺き、その力を封じ込めた。

 結果、その力に恐れをなした聖皇六将の裏切りに遭い、討たれることになったのだが、その際、聖皇が六将に敗れたのは、六将が聖皇に特別な待遇を受けていたからだ、という。だからこそ、聖皇は六将に対抗できず、滅ぼされた。そして六将を呪い、世界を呪い、すべてを呪って、将来の復活を約束した。

 その約束は果たされなかったが、違う形で現れてしまった。

 それが獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアだ。

 “大破壊”によって命を落としたレオンガンドは、聖皇の力の器として蘇り、神々の王として君臨している、ネア・ガンディアの王として、絶対者の如く振る舞っている。そして確かにその力は絶対者に等しい。少なくとも、現状、この世界において、いや百万世界においてすら、獅子神皇に並び立つものなどいないのではないか。

 それほどまでの力を持ち、また、組織力、軍事力を備えているのがネア・ガンディアであり、セツナたちが現状持ちうる力を糾合したとして、勝てる見込みは万にひとつもあるかないか。

「万にひとつもあるまい。あれの力を見くびりすぎじゃ」

「見くびっているわけじゃあないんだけどな」

 セツナは、頭の上に鎮座する竜王の冷静極まりない評価に渋い顔をした。獅子神皇の力量について、セツナはその一端を垣間見たに過ぎない。だが、その一端ですら、あのときのセツナには太刀打ちできないものだったし、世界を一瞬にして四つに分かつほどの力を見せられたいまとなっては、現状ですらどうにもならないことは明らかだ。考え込むまでもない。

 ただ、全戦力を糾合すれば、万が一にも勝てるのではないか。そう想いたかったのだ。

「まず、現状ではあれと対峙することも叶わぬやもしれぬぞ。ネア・ガンディアなる軍勢を従えておるということはじゃ、みずから先陣を切って戦うつもりなぞ、ないということじゃろう。余程のことでもない限りは、最前線に姿を見せることなどあるまい」

 それはつまり、圧倒的としかいいようのないネア・ガンディアの軍勢と対峙した上で、敵戦力を切り崩し、敵陣に切り込んだ末、中枢にいるであろう獅子神皇と対峙しなければ話が始まらないということだ。そしてそれは、現有戦力では不可能に近いということだ。

「獅子神皇と直接対決するだけならさ、ゲートオブヴァーミリオンを使うのはどうなんだ?」

「それは俺も考えたよ。けど、無理だとさ」

 シーラの提案を聞いたとき、セツナの脳裏にアズマリアの苦笑を浮かべる様が浮かんだ。

「世界間の隔絶すら無視できるゲートオブヴァーミリオンでさえ、獅子神皇の結界を越えることはできないんだと」

「結界……」

「アズマリア曰く、ネア・ガンディアの本拠地がある小大陸は、獅子神皇の力が生み出した結界に護られているそうだ。もっとも、少し前までは、ある程度自由に行き来できたそうなんだが、いまはそれも不可能なんだと」

 アズマリアは、“大破壊”以降、世界中を飛び回っていた。その最中、何度となくネア・ガンディアの本拠地がある小大陸――ガンディア小大陸に潜り込んだことがあるらしい。もっとも、潜り込むたびにネア・ガンディアの厳重な警戒網に引っかかり、数多の神々を敵に回さざるを得なかったため、ガンディア小大陸の状況を掴むことはできなかったとのことだが。

「ゲートオブヴァーミリオンを以てしても、か。難儀なことじゃな」

「ああ、まったくだ。ネア・ガンディアに挑むためには、まずその結界をどうにかしないといけない」

「結界とやらを打ち破り、その上でネア・ガンディアの軍勢を撃破しないと、獅子神皇の御尊顔を拝謁できないってわけですかい。そりゃまた大変ですな」

「そのためにも戦力の拡充は急務なんだ」

 エスクのうんざりとした表情には大いに同意したいところだが、だからといって、焦ってネア・ガンディア本拠地を急襲しようとしたところで、迎え撃たれ、撃滅されるのが目に見えている。

 故にこその戦力拡充なのだ。

 そのときだ。

「それなのですが、セツナ。わたしからひとつ提案があるのですが」

 などと口を挟んできたのは、ウルクだった。

「なんだ?」

「以前相談したミドガルドの捜索をいまこそ実行するというのは、どうですか?」

「ミドガルドさんの捜索……か」

「ウルクよ、それをして、セツナになんの益がある? この世に残された時間を考えれば、無駄なことに時間を割くわけにはいかんのだぞ」

 ラグナが辛辣に告げたのは、なにも先輩風を吹かせたかったわけではあるまい。ラグナほど、この世界の於かれている状況を理解しているものは、この場にはいないのだ。故に冷酷とさえ取られるような発言も平気で行える。しかし、ウルクは、普段通りの無表情で返す。

「戦力を欲しているのであれば、なおさらです、先輩」

「む?」

「わたしは、現状、全力を発揮することが出来ません。それは、大きな痛手であるはずです。そして、わたしを整備修復することのできる人間は、ミドガルドたちを於いてほかにはいないのです。ミドガルドを探しだし、わたしの躯体を完全な状態へと戻すことができれば――」

「戦力向上に繋がるな」

 ウルクの意見は、至極もっともだ。ウルクが人形遣いの支配を脱却するために首を撃ち抜いて以来、彼女は常に全力を発揮できない状態にあった。首の破損部分をマユリ神の力によってなんとかして接合しているに過ぎず、全力を発揮しようとすると、その接合部分を融解させてしまうからだ。魔晶人形の躯体は特殊な金属でできており、弐號躯体はさらに改良が施されたものであるため、神の御業でもどうしようもないのだろう。

「それに、ミドガルドは、イル、エルら量産型魔晶人形の開発に成功しています。これはつまり、魔晶人形の生産工場があるということ。そして、ミドガルドならば、わたしたちに助力してくれるはずです」

「確かに……大量の魔晶人形が味方になってくれるってんなら、これほど頼もしいことはないぜ」

「そうでございますね。大量のイルやエルと一緒に戦えるだなんて、夢のようでございます」

 至福のときを妄想するレムの恍惚とした表情を横目に見て、イルとエルを見遣る。少女型の魔晶人形は現在、レムと同じような女給服を身に纏っている。ウルクも同じ格好をしているため、セツナ一行を傍目に見た場合、どういう集団なのかわからなくなること請け合いだ。二体とも、言葉こそ発せず、自我こそ存在しないものの、自律的に行動していることは間違いなく、ウルクの発言を受けて小首を傾げていた。

 量産型魔晶人形は、戦力としては弐號躯体のウルク以下とはいえ、並大抵の武装召喚師とは比べものにならないほどに強力だ。もし仮に、大量の量産型魔晶人形が味方に加わるようなことがあれば、セツナが考えているような戦力の増強をする必要もなく、ネア・ガンディアとの決戦に持ち込めるのではないか。

(いや、まだだ。まだ足りない)

 セツナは、自身の焦りを抑え込むようにつぶやくと、ウルクに顔を向けた。

「そうだな。ウルクの躯体を修理してもらうためにも、ミドガルドさんの居場所を探しに行くとするか」

「ありがとうございます、セツナ」

「いや、ちょうどいい機会だったんだ」

 感謝を述べるウルクを制し、セツナはいった。

「ファリアたちは異世界で修行中だし、シーラたちもここで修行することになるからな。元々、俺たちは、別行動を取るつもりだった。そして、ウルク。ミドガルドさんを探すのも、元々の予定だっただろう」

「はい……」

 静かにうなずいたウルクだったが、そのいつもと変わらない美貌がなぜか不安がっているように見え、セツナは励ました。

「ミドガルドさん。きっと元気にしているさ」

 “大破壊”を生き延び、元気に魔性技術の研究を続けているに違いない。

 だからこそ、イルやエルたちがここにいるのだ。

 

 


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