表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2885/3726

第二千八百八十四話 領空侵犯(二)

 セツナたちを乗せたウルクナクト号が全速力で現地に向かうと、空中都市リョハンは、東ヴァシュタリア大陸西部上空を移動していた。

 その周囲を竜騎士に率いられた無数の飛竜が包囲しているのだが、竜騎士の命令によるものなのか、いまのところ攻撃されている様子もなかった。未確認飛行物体たるリョハンだが、その存在についてはセツナたちからラングウィンへ伝えたことで、竜騎士たちにも伝わっている可能性が高く、そのことから、竜騎士たちも手を出しあぐねているのだろう。

 でなければ、“竜の庭”の領空を平然と突き進もうとする物体に対し、なんの手も打たずに見守るなど、“竜の庭”の守護者にして、銀衣の霊帝の代行者たる竜騎士の面目も立たない。

 もし、この地域を担当する竜騎士が直情的な性格の持ち主ならば、いまごろリョハンは猛攻を受けている最中だったに違いない。リョハンは、マリク神による守護結界に護られているとはいえ、苛烈な攻撃を受け続ければ、突破される可能性だってありうるのだ。守護結界は、絶対無敵の盾ではない。

 竜騎士が理性的であり、その指揮下の飛竜たちが命令に従順であることにセツナたちは感謝しなければならなかった。

 竜騎士も飛竜たちもウルクナクト号の接近を認識すると、なにかを察したのか、一斉に飛び離れた。そして、竜騎士のみが守護竜とともにウルクナクト号に近づいてきて、飛行物体についての質問をしてきた。その竜騎士が皇魔リュウフブスだったことには驚いたものの、皇魔が持つ人間に対する敵意を片鱗も感じさせない彼との接触にはなんの問題もなかった。竜騎士は人間だけではなく、皇魔からも選ばれているという話を聞いていたことも大きい。

 リュウフブスの竜騎士はベルエルと名乗った。鋭角的な二本角の飛竜を守護竜とする彼は、セツナたちに飛行物体が空中都市リョハンであることを伝えられると、大いに納得するとともに周囲の飛竜たちを持ち場に戻らせ、自分自身も持ち場に戻るとした。ただし、今後再びこちらの警告を無視し、勝手に“竜の庭”を出入りするようなことがあれば、攻撃も辞さない、と告げて。

 セツナたちは、竜騎士の理性的な対応に感謝するとともにリョハンに急いだ。リョハンが竜騎士の警告を無視し、“竜の庭”上空を移動しているのには、なにかしらの理由があるはずだ。リョハンが普通の状態ならば、マリク神や戦女神代行、御山会議によって理性的に運営されているはずであり、もしなにがしかの用事があって“竜の庭”を訪れたとしても、竜騎士が警告を発すれば、それに応じたことだろう。しかし、リョハンはどうやら竜騎士の警告さえ聞き入れず、“竜の庭”上空を爆走しているようなのだ。これでは、“竜の庭”からの攻撃を受けたとしても致し方がないといえる。

「なにがあったのかしら」

「よっぽどよね」

「ああ……」

 セツナは、ファリアたちの疑問にうなずくしかなかった。

 リョハンは、ようやく移動を停止した。ウルクナクト号を認識し、その接近を把握したからだろう。やはり、ウルクナクト号、引いてはセツナたちを探し求めていたようだ。リョハンが“竜の庭”を訪れる理由などほかに考えられないのだから明白ではあったが。

 ウルクナクト号は、あっさりとリョハンに横付けすると、その側面から甲板と陸地を繋ぐ橋を伸長させた。分厚く幅の広いの橋の両端にはちゃんと欄干があり、万が一にも落ちないように配慮されている。ウルクナクト号に元々備わっていた機能であるそれは、マユリ神が船の構造をより深く把握したことで解放されたものであるとのことであり、そのおかげでわざわざリョハンに着地する必要もなければ、マユリ神に空間転移の御業を使ってもらう必要もなかった。

 橋を渡り、リョハンの土を踏むと、その周囲には護峰侍団の隊士たちが待ち構えていた。彼らは、ファリアの姿を見るなり最敬礼でもって迎え入れると、その中からひとりの女性だファリアの前に進み出てきた。温厚そうな女性は、一般隊士とは異なる格好からもわかるとおり隊長だった。九番隊長オルファ=サンディー。護峰侍団が戦女神派と反対派に別れていたとき、戦女神派を公言していた人物であり、そのことからファリアとも親しい間柄だという話は、セツナも知っている。

「ファリア様、セツナ殿、それに皆様、御無事でなによりです」

「ええ、あなたたちも無事なようね?」

「はい。わたくしたちも、リョハンの住民も、だれひとり欠けることなく平穏無事な日々を送ることが出来ています」

「だったらなんでまた、ここに? あたしたちを追いかけてきたみたいだけど……」

「それについては、代行様にお聞きください。わたくしたちも、詳しいことはわかっていないのです」

 困ったようなオルファの表情を見る限り、本当になにも知らないようだった。

「……わかったわ。お母様は、戦宮に?」

「はい。ここのところ、戦宮を出られることがなく、皆、心配しているのです。なにも心配するようなことはない、と仰られておいでのようなのですが」

「お母様が姿を見せない……?」

 ファリアが、訝しんだ。彼女の母ミリア=アスラリアは、ファリアが不在の間、戦女神代行を務めている。それにより、リョハンの秩序を維持し、人心を安定させる狙いがあるのだが、そうである以上、人前に姿を見せなくなることなどあってはならないはずだった。ファリア自身、戦女神としてひとびとの前に姿を見せることもまた、公務のひとつだったのだ。ファリアが不安に思うのも当然だった。

「確かに心配だな。急ごう」

「え、ええ。いろいろ教えてくれてありがとう、オルファ」

「いえ。護峰侍団として、当然のことをしたまでです」

 オルファ=サンディーは、最敬礼でもってファリアに応え、ファリアはそんな彼女にうなずいた。

 

 戦宮は、リョハンの中心からやや北側に位置する。

 とはいえ、空中都市リョハンがその名の通り、空中を自在に飛べるようになると、方位はあやふやなものとなり、ほかの建物や都市の構造から位置を割り出さなければならなくなった。リョハンは、常に一定の方角を向いて移動しているわけではないからだ。

 もっとも、それはたいした問題ではなかった。リョハンに生まれ育ったファリアにとってしてみれば、どこから出発しようとも迷うことなく戦宮まで向かうことができたのだ。

 ファリアを先頭にセツナたちが戦宮に辿り着いたのは、日が中天よりやや下がり始めた頃合いだった。正午過ぎ。“竜の庭”の暖かな気候は、リョハンにおいても有効であり、上陸地点から戦宮に至るまでほとんど休むことなく走り続けた結果、セツナたちは大汗をかいていた。が、そんなことは問題ではない。

 戦宮の門前には、いつものように護峰侍団の隊士たちが警護に当たっており、彼らはファリアの姿を目の当たりにするなり、緊張感に満ちた表情を見せた。

「これは……戦女神様!」

「入るわよ、いいわね」

「は、はい! もちろんです!」

 門番たちの間を通り抜けるようにして戦宮の敷地内に足を踏み入れれば、リョハンの聖域と呼ぶに相応しい空間の広がりを感じる。戦女神は神ならぬひとの子であり、故にリョハンのひとびととの間に壁を作りたくはないという初代戦女神の意思は、戦宮全体に反映されている。扉や窓がなく、開放感にあふれた作りは、忍び込もうと思えばいくらでも忍び込めるだろうし、冬場などは寒くてかなわないはずだ。それでも、ひとびととの垣根を少しでも減らしたいという先代戦女神の意思は強く、最期まで、戦宮の構造に手を加えることはなかった。

 その後を継いだファリアも、先代の遺志を尊重し、戦宮をそのままにしている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ