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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百七十八話 魔人は語る(三)

 アズマリアの話によりわかったことでもっとも重要なのは、マリアとアマラが無事であるということにほかならなかった。

 みずからの意思でベノアで別れることになったものの、彼女たちのことが気にならないはずもなかったからだ。故にまずアズマリアから聞きたかったのは、マリアたちの様子であり、現状だった。そして、その願望はすぐさま満たされることになった。

 マリアとアマラは、セツナたちがリョハンを旅立った直後には、ベノアにあって白化症の治療法の研究を続けていたという。ベノアにあっては騎士団の庇護下にあり、騎士団が積極的にマリアの研究を支援してくれていたこともあり、金銭的にもなんの不自由もなかったらしい。

 アズマリアがそんなマリアたちの元に赴いたのは、マリアの研究を後押しするためであり、アズマリアが彼女たちを連れてベノアを離れるとともに赴いたのは、古代の知識が集積された図書館であるという。その古代図書館で得られた知識に基づき、さらにワラルへと飛んだ彼女たちは、ワラルの女王との交渉の末、ワラル人を研究する許可を得た。そのためにアズマリアは戦場を飛び回る羽目になったというが、それもマリアの研究と白化症の治療法の確立という希望のためであれば致し方ない、とのことだった。

 なぜワラル人を研究することになったのかについて詳しくは教えてくれなかったが、おそらくワラル人が白化症に強い耐性を持っていることがわかったからだろう。でなければ、ワラル人を研究対象に選ぶわけがない。

 そして、ワラル人の体質の調査と研究、実験の成果は、アズマリアをしてマリアを天才と言わしめるほどのものであり、白化症の進行を食い止めることに成功したのだという。

 ここからさらに研究を進め、白化症の進行を食い止めるだけでなく、遡って除去できるようにするのがマリアの望みであり、実際に研究を進めようとしていた矢先のことだった。

 ネア・ガンディア軍がワラルを襲ったのだ。

 当初、アズマリアはワラル軍を率いて対抗しようとしたものの、ネア・ガンディア軍が誇る圧倒的戦力の前には魔人も形無しであり、ワラルの戦線はあっという間に崩壊し、抵抗することすらできなくなっていったという。

 このままではワラルを護るどころか、マリアの研究を続行することもままならなければ、マリアたちの命が危険だ。とはいえ、アズマリアにしてみれば、マリアたちを避難させることそのものは、難しくない。ゲートオブヴァーミリオンを用いれば、彼女たちをすぐさま安全な場所に転送することなど容易いことだ。が、それだけでは駄目なのだ。

 治療法は、未だ確立してはいない。

 研究を続ける必要があり、そのためには、ワラル人の協力が必要だった。

「そこで、だ。ワラル人をリョハンに受け入れてもらうというのは、どうかと考えたのだ」

「リョハンに?」

「ワラルはもう駄目だ。ネア・ガンディア軍がワラル制圧に本腰を入れただけでなく、ワラル島そのものが壊滅的な被害を受けた。たとえネア・ガンディア軍を撃退できたとて、ワラルを建て直すのは、簡単なことではないのだ」

「壊滅的な被害……」

「その原因って、獅子神皇の攻撃かしら……」

「それ以外には考えられないな」

「獅子神皇の攻撃か……。だとすれば、なにを考えているのかまったく理解できないな」

 アズマリアが冷ややかにいった。

「ワラル島を切り裂いた光は、ワラル軍のみならず、ネア・ガンディアの軍勢をも飲み込み、多大な被害を出したようだった。それでも圧倒的な戦力を維持してはいたがな」

「ネア・ガンディアの軍勢も、被害を受けたの? 味方なのに?」

「どういうことだ?」

「獅子神皇とやらが聖皇の力を制御できなくなりつつあるのやもしれぬ」

「その可能性は高いな。聖皇の力は、神々をも凌駕するものだ。元々ただの人間に過ぎないものを器にし、制御できるような代物ではなかったのかもしれない」

「それが正しいなら、ますます放って置いたら危ういんじゃねえのか」

「そうじゃな。このまま捨て置けば、世界そのものが聖皇の力に、獅子神皇に滅ぼされるは間違いあるまい」

「まったく、なにをいっているのやら」

「ん?」

「そうさせないためにおまえたちがいるのだろう?」

「……ああ」

 アズマリアの言葉にうなずき、その意思を肯定する。

「ならば、いまはそのことよりも、わたしの話に耳を傾けてくれたまえよ」

「リョハンでワラル人を受け入れるという話よね」

「そうだ。リョハンの支配者がここにおられるのだ。すぐにでも返答を願いたい」

「戦女神は支配者ではないし、わたしの一存ではワラルのひとびとをリョハンに受け入れるかどうかを決めることは出来ないわ。そもそも、人数が不明な時点でどうしようもないでしょう」

「そういえば、言い忘れていたな」

 うっかりしていたとでもいわんばかりに、魔人はいった。

「わたしが確保できているのは、五千人余り。リョフ山ならば余裕で収容できる人数だろう」

「五千人か……」

 それはつまり、その五千人以外は、ネア・ガンディア軍との戦いで命を落としたか、ネア・ガンディア軍に囚われているかのいずれかだということだろう。まさか、五千人がワラルの総人口というわけがあるはずもない。そも、ワラルはアズマリアを酷使したおかげで国土を拡大し、人口も増大したばかりだったのだ。そこへネア・ガンディア軍が攻め寄せてきた。魔人がその混乱の中、五千人だけでも確保できたのは、十分過ぎる成果といってもいいのかもしれない。

「リョフ山なら、ね。でも残念ながら、リョハンはもうリョフ山にはないのよ」

「どういうことだ? いっている意味がわからないが」

「空を飛んでいるんだよ」

「……リョハンに受け入れたくないのはわかったが、だからといって、妄言を吐くのはどうかと想うぞ」

「いやいや、妄言でもなんでもなくてだな。実際にリョハンは空を飛んでいるんだよ」

「空中都市群リオ・フ・イエン……だったっけ。世界が聖皇によって改変される以前、そのさらに昔、天人属が空を支配していた時代の産物らしいわよ、リョハンって」

「……本当なのか?」

「俺たちがあんたの話を信用しているんだ。俺たちの話を信用しないで、どうすんだ?」

「……どうやら本当のことのようだな」

 アズマリアは、想定外の出来事を前に茫然としながら、つぶやいた。

 セツナにとっては、魔人にも理解できないことがあるということがわかったことは、なによりの収穫だった。

 それから、セツナたちは、リョハンの現状について掻い摘まんで説明した。

「ふむ。空中都市リョハンが本当の意味で空中都市となった、か」

「その結果、リョハンに収容可能な人数は、リョハンの総人口よりわずかに多い程度なのよ。そこに五千人も収容するなんて、不可能よ」

「……話を聞く限りでは、ワラル人の受け入れを拒否するための方便ではなさそうだ」

「わたしがそんなことをするとでもいうのかしら」

「おまえはわたしが心底嫌いだろう」

「だからといって、あなたとは直接関係のないワラルのひとたちにまで敵意を向けたりはしないわよ」

「戦女神様は聡明であるな」

「嫌味をいいにきたのかしら」

「しかし、であればどうしたものか。リョハンだけが頼みの綱だったのだが」

「あんた、世界を飛び回っているわりには、伝手がないんだな」

「“大破壊”以前ならば、わたしの要望を聞き入れてくれる国はいくらでもあっただろうがな。現状ではそうもいくまい」

「なるほど」

 セツナは、アズマリアの説明に納得した。“大破壊”以降の混沌とした世界において、アズマリアと旧知の間柄たる国々もまた、リョハン同様、五千人もの人数を受け入れられる状況にはないのがほとんどなのだろう。多くの国は、自分たちのことで精一杯だ。この混乱に乗じて国土を広げんとする国もあるし、新たに国を興すものもいるようだが、ほとんど多くはそうではない。むしろそういったものたちのほうが例外なのだ。

「それならば、“竜の庭”に受け入れてもらえばいい。五千人程度、“竜の庭”にしてみればたいした人数ではないのだからな」

「おお、確かにのう。ラングウィンならば、喜んで迎え入れてくれようぞ」

 ラムレシアの提案にラグナが同調を示す。

「まあ、わたしが勝手に決めていい話ではないが、ラングウィンとの取り次ぎくらいならばしてやってもいい。アズマリア。おまえにはこれから先、役だってもらわねばならないんだからな」

「わたしとしては、ワラル人の受け入れ先が決まり、そこが安全ならばどこでもいいのだ。それが“竜の庭”ならばなおさら、文句もない」

「これで決まりじゃな」

「……ラングウィンが受け入れてくれるかどうかだが、その点では心配はないだろうな」

「うむ」

 それからすぐさまラムレシアはアズマリアをラングウィンの元へと案内し、話し合いが行われた。

 そして、ラングウィンは、即座にワラル人五千人を“竜の庭”に受け入れることを決めると、“竜の庭”の一区画をワラル人五千人のために割り当てた。まさに即断即決、あっという間の出来事であり、その報告を受けたセツナたちは、ラングウィンの決断の早さに唸るほかなかった。

 ラングウィンとしては、“竜の庭”の住民が増えることは喜ばしいことであり、それが避難場所を求めるものたちならば、庇護の手を差し伸べるのは当然とのことだったが。

 だれにでもできることではない。


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