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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百七十七話 魔人は語る(二)


「本来、百万世界と総称される無数の世界は、それぞれが独立した次空に存在するものだった。イルス・ヴァレもそうして独立し、他の世界とは相互不干渉だった。世界と世界の間には絶対的な境界が存在し、その境界が世界を隔絶していたからだ」

 アズマリアは、淡々と、言葉を紡ぐ。その声音は極めて魅力的で、その場にいるだれもが魅了されかねないほどの魔力があった。実際、エトセアの騎士のうちの何割かは、アズマリアの声が持つ魔力に飲み込まれている節がある。

 かつて――そう、セツナが最初に召喚された直後、そのような感覚に襲われたことがある。

 そのとき、アズマリアの絶世の美女というほかない姿は、いまも脳裏に思い浮かべることができる。が、いまはそんなことをしている場合ではない。アズマリアの話は、セツナも聞いたことがないものだったのだ。

「だが、百万世界の絶対的な隔絶は、イルス・ヴァレにおいては不完全なものとなった。聖皇が現れ、彼のものが召喚魔法によって百万世界の神々を呼び出したからだ。百万世界の数多の神々をこの世界に召喚した結果、イルス・ヴァレと異世界の境界に歪みが生じ、世界間隔壁とでもいうべき代物に穴が生じた。その穴を塞ぐことはもはや不可能に近く、それはおそらく、創世回帰でも元には戻せまい」

「なんじゃと」

「どういうことだ」

 竜王たちが反応すると、アズマリアは、冷ややかなまなざしを向ける。

「創世回帰は、この世界にのみ作用するものだ。この天地にのみな。世界間隔壁は、この世界の外側に存在する。である以上、創世回帰では修復できまい」

「……それのなにが問題なんだ?」

「わからないか? 世界の壁に穴が開いているといことは、異世界からの来訪者が現れる可能性があるということだ。そしてそれら来訪者が、この世界にとって友好的である可能性は高いとは言い切れない」

「つまり、異世界からの侵攻の可能性がある、ということか」

「そうだ。故にこそ、創世回帰は防がなければならなかった」

「なぜじゃ?」

 ラグナが小首を傾げると、アズマリアが彼女に視線を向けた。

「創世回帰を行えば、わたしが思い出したこの情報も消え去り、世界間隔壁に開いた穴の存在をだれも認識しないまま、異世界からの来訪者によって蹂躙された可能性があるのだ。竜王よ。おまえたちでは、世界の壁を認識することはできまい?」

「……ふむ」

「そうだな。そして、おまえのその話が本当かどうか確認することもできない。本当に世界間隔壁なるものが存在し、そこに穴が開いているということもだ」

 ラグナが静かにうなずけば、ラムレシアが疑念を以てアズマリアを睨み付ける。確かに彼女のいうことももっともだった。確認できないものの存在を信じることは、難しい。アズマリアがセツナたちを騙すために作り出した話かもしれないのだ。

 もっとも、アズマリアがそのようなことをするとは思っていないのが、セツナだ。

 少なくともアズマリアは、嘘を吐いたことはなかったはずなのだ。

「世界間隔壁は、在るわ」

「そうね」

「ですね」

 ファリアが断言すると、ミリュウとルウファが同調した。

「なぜ、そうと言い切れる? ファリア」

「だって、武装召喚術はこの世界と異世界の間の壁に穴を開けているのよ」

「それも毎回毎回ね」

「まあ、武装召喚術を学んでいない方には、理解の出来ないことでしょうが」

「……そういや、そうか」

 セツナは、生粋の武装召喚師たちの説明を受けて、ようやく納得した。武装召喚術を真面目に学んでいない彼にしてみれば、想像しにくいところがある。しかし、考えてみれば、その通りだった。武装召喚術は、異世界の武器防具をこの世界に呼び出す技術であり、術式は、異世界の門を開くものだということは教わっていた。それこそ、アズマリアのいう世界間隔壁だった、ということなのだろう。

「ふむ……つまり、ファリアは奴の言を信用するということか」

「少なくとも、世界間隔壁のようなものが存在することは確かよ。それに穴が開いているかどうかについては、確証は持てないけれど」

「わたしはファリアを信用するだけのことだ」

「ありがとう、ユフィ」

 ファリアが感謝を述べると、ラムレシアは照れくさそうに微笑んだ。

 そんな様子を見守っていたラグナがこちらを見て、翼で肩を竦めるような仕草をした。ラグナの仕草がいちいち人間臭いものになったのも、セツナたちとの日々が影響しているに違いない。

「わたしを信用するかどうかはおまえたち次第だが、そんなことはどうでもいい。創世回帰は回避され、おまえたちはこの世界を救うべく行動を起こそうとしている。その事実だけで十分なのだからな」

「つまり、あんたも協力してくれるんだよな?」

「ああ。当然だ。わたしはそのためにここにいる」

「信用できるのかしら」

「その点に関しては、な」

「ふうううん」

「なんだよ?」

「セツナ、あいつとなにがあったのよ?」

「なにも。ただ、アズマリアは俺をこの世界に召喚してくれたんだ。そのことに感謝しているだけのことさ」

「そっか、そうなのよね。つまり、あたしたちも感謝しないといけないわけだ」

「そういう見方もあるわね」

「なるほど、御主人様と巡り会えたという意味では、感謝しなければならないのは確かでございます」

「……まあ、感謝されるようなことではないがな」

「そう照れるなよ」

「だれが照れている、だれが」

「あんたが」

 セツナが断言すると、アズマリアは黙し、肩を竦めた。

 

「ところで、あんたはなんで俺たちを隠れて見ていたんだ? まさか、この話をするための機会を窺っていた、というわけじゃあないんだろう?」

 だとすれば、セツナたちにとってあまりにも都合が良すぎたからこそ、彼は疑問を持ち、尋ねたのは、話が一区切りしたからだ。まだまだ聞きたいことはたくさんあったし、聞かなければならないこともあるのだが、アズマリアが気配を隠し、こちらの様子を窺っていた事実は不思議としかいえない。

 アズマリアの動向について知っていることといえば、セツナたちがウルクナクト号でもってリョハンを離れる際、ファリアの前に現れ、彼女を船まで転送してくれたということだけだ。それ以降のことは、なにも知らなかった。なにせ、その後、ミリアたちの前からもなにもいわず姿を消したというのだ。知りようがない。

「わたしにも事情があるのだ。問題が発生してな。おまえを探していた」

「俺を?」

 とはいったものの、想像のつく範囲内のことだった。もっとも、つぎの言葉は、さすがに想定していなかったが。

「おまえはリョハンの戦女神と懇意だろう」

「……なんだそれ」

「リョハンに協力して欲しいことがあるのだ」

「リョハンに協力……?」

 ファリアが首を突っ込んできたのは道理というほかない。アズマリアがいったリョハンの戦女神とは、まさにファリアのことなのだ。リョハンのこととなれば黙ってはいられまい。

「ああ。わたしは現在、おまえたちもよく知るマリア=スコールの従者に身を窶しているわけだが」

「マリア先生のことか!?」

「マリア先生がどうかされたのですか!?」

「センセ、いまも無事なのね!?」

「ああ、良かった……!」

「……少しは落ち着いたらどうだ」

 押し寄せるセツナたちに対し、アズマリアが呆れたような顔をした。

「これが落ち着いていられるかってんだ。で、どういうことなんだ? なんであんたがマリア先生と一緒なんだ? 従者に身を窶す? 意味がわからんぞ」

「一から説明するのも面倒だから詳細は省くからよく聞け」

「おう」

 セツナは腕組みしてうなずくと、皆とともに、アズマリアの話に耳を傾けた。

 


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