表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2874/3726

第二千八百七十三話 ラグナ(二)

 ラグナが咆哮した瞬間、セツナたちは再び耳を塞がなければならなかったし、周囲にいた集落住民の中にはその場に屈み込むものもいた。物凄まじい大音声は、それこそ、天地を震撼させるのではないかと思うほどのものであり、それは即ち、ラグナがそれほどまでの魔力を込めたということにほかならないのではないか。

 では、なにが起こるのかといえば、だ。

「な、なによ?」

「なにをしようというの?」

「魔法だろう」

「なんの?」

「決まってるさ」

 セツナは、疑問もなく、ラグナを見ていた。咆哮とともに発散された竜王の膨大な魔力が翡翠色の光に変じ、蒼空を色鮮やかに染め上げたかと思うと、大気を掻き混ぜるかのようにしてラグナの巨躯に絡みつき、包み込んでいく。鼻先から顔面全体を覆い隠せば、首筋へ至り、胴体から全身へと伝播するようにして翡翠色の光が広がっていった。ラグナが翼を広げ、上体を反らす。そして足の爪先、尾の先端へと光が至ると、今度は映像を逆再生するかのようにして、尾の先から光が剥がれていった。いや、違う。剥がれているのではなく、尾そのものが光の粒子となって散っているのだ。長大な尾が半ばまで光の粒となって発散すると、今度は足の爪先からも同じようにして散っていく。その現象は、そのまま翼、胴体へと至り、頭部をも光の粒子に変えてしまった。

 そして、集落上空を覆い隠していた巨竜は跡形もなく消えて失せた。

「ラグナちゃん、消えちゃった……?」

「いえ、あそこにいます」

 茫然とするエリナに対し、ウルクが真っ青な空を指差した。セツナもそちらを見遣ったが、どれだけ目をこらしてもなにも見つからない。人間の視力では確認できないということは、それだけ小さくなったということだ。そしてそれが一体どういうことなのか、セツナには瞬時に想像がついた。というよりは、最初から想像通りだったというべきかもしれない。

「いないよ?」

「いえ、います。わたくしたちのよく知っている先輩がそこに」

「わたしたちのよく知っている……」

「ラグナ?」

 ファリアたちが茫然とする中、ウルクが指差していた空中の一点に光が走った。かと思うと、それは物凄まじい勢いで飛来し、セツナに迫ってきたものだから、彼は思わず飛び退き、光がそのまま地面に激突する様を見届けることとなる。轟音とともに地面に穴が開き、粉塵が舞い上がった。

 予想外の出来事にセツナたちが顔を見合わせていると、落下地点から物音がした。見遣れば、光となって飛来したそれが地中から姿を現したところだった。

「な、なぜ避けるたのじゃ!?」

 それは、紛れもなくラグナだった。ラグナとしかいいようのない生き物、とでもいうべきか。翡翠色の小飛竜。丸みを帯びた姿はどこか愛嬌を感じさせ、長い首と小さな足、尾と一対の翼のどれもが、かつてセツナたちとともに在ったころの彼女の姿そのものだった。

 そして、その姿を目の当たりにした途端、セツナの周囲が沸き立つのも当然だった。だれもがラグナとの再会を今度こそ実感したのだ。巨大なラグナは、ラグナであってラグナでなかった、というべきなのかもしれない。変わり果てたあの姿をラグナと受け入れるのは、少々、難しい。

「そりゃああれだけの速度で突っ込んでこられたら、なあ?」

 セツナが周囲に同意を求めれば、だれもがうなずく。

「危ないわね」

「うんうん、危険よ、危険」

「そうですよ、ラグナ。御主人様の身にもしものことがあったらどうするのです?」

「先輩、元気なのは構いませんが、セツナを傷つけるような真似はしないでください」

「な、なぜじゃ、なぜわしよりもセツナのことばかりいうのじゃ……!?」

 ラグナがその丸くて小さい体で忙しなく動き回る様は、懐かしい。

「あなただってそうでしょうが」

「むう……」

 図星だったのだろう。ファリアに告げられると、ラグナは、ふよふよと空中を漂いながら黙り込んだ。そしてそのままセツナの眼前に辿り着くと、そのとき、はたと気づいたようだった。

「な、なんじゃ? そこはわしの特等席じゃぞ!?」

 ラグナがこれまでに発したこともない怒声をぶつけたのは、セツナの頭の上に乗っている存在に対してだ。

「知らぬな。汝がなにものであれ、ここはいましばらく我の座所なり」

 とは、龍神ハサカラウ。セツナは特に気にもしていなかったが、そういえば、ハサカラウは、力の大部分を失ってからというもの、ラグナに似て非なる小型龍となり、その上セツナの頭の上をまるで自分の定位置であるかのようにしていることが少なくなかった。なぜかはわかっている。そのほうがシーラと接触できる機会が増えるからであり、少しでもシーラの気を引くための彼なりの作戦なのだ。健気というべきか、執念深いというべきか。

 セツナにとってはどうでもいいことだが、シーラにしてみればいい迷惑この上ない所業、なのは間違いない。そしてそれは、ラグナにとっては死活問題であるかのようだった。

「セツナよ!? どういうことじゃ!?」

「どうもこうもねえよ」

 セツナはラグナの必死の訴えを聞いて、頭の上に手を伸ばした。そして、龍神の体を掴み取り、頭の上から退かせる。

「む……どういうつもりだ?」

「いやそもそも、なんで俺の頭の上を占領しているんですかね」

「寝心地が良かった。ただそれだけのこと……」

 あまつさえあくびを漏らす龍神だったが、それが本心とはとても思えなかった。が、深くは追求せず、一先ず肩の上に乗せると、ハサカラウ神は、それでもいいらしく、セツナの首に尻尾を巻き付けて体を固定すると、肩の上に寝そべるようにした。要するに彼は、シーラとの接点さえ維持できればそれでいいのだろう。ただ、頭の上が一番安定していた、それだけのことに違いない。

「うむうむ。さすがはセツナよな。わしの寝床を確保するとは」

 ラグナが、当然のようにセツナの頭の上に降り立ち、寝そべった。ひんやりとした感触の懐かしさには、思わず目頭が熱くなるほどだったが。

「おまえの寝床でもねえっての」

「みなまでいうな。いわずとも、おぬしの気持ちはよくわかっておる。わしと再びこうしていられることに魂が震えておるのじゃろう。よいよい」

「……はあ」

 ラグナの相も変わらぬ能天気ぶりにセツナが思い切りため息を吐くと、ファリアがくすくすと笑った。

「いや、しかし……かなりの力業だな」

 呆れるようにつぶやいたのは、ラムレシアだ。彼女は、人間と大差ない大きさということもあり、ラグナとは違って集落にまで降りてきていたのだろう。ミリュウが問う。

「力業?」

「ああ。ラグナシアのあの巨躯は、膨大な魔力を蓄えるために作り上げられたものだ。ラグナシア自身の願望も関わっているとはいえ、それだけであれほど巨大な肉体を構築し、維持することは出来るものではないのだ。そして、それだけの魔力を蓄積するには、それ相応の器が必要となり、故にラグナシアはあの巨体を持っていた」

「つまり、普通ならあんなに小さくはなれないってこと?」

「簡単にはいかない、という話だ。わたしも、魔力相応の体を持とうとすれば、ラングウィンほどとはいかなくとも、おまえたちとは比べものにならないくらいの巨体にはなるだろう。故にわたしは魔力の大半を自身から切り離し、管理している」

「魔力を切り離して管理する……? わけがわからないんだけど」

「理屈はともかく、そういうことなのだ。そして、ラグナシアは、それを極めて大規模に行っているということだ。それは簡単なことではないぞ。一歩間違えれば、蓄積した魔力が散逸してしまうのだからな」

「ってことは、巨体のままのほうが魔力は維持しやすかったってこと?」

「そういうことだ」

「だって、ラグナ」

「それくらいわかっておる」

 いわれるまでもない、とでもいいたげに、ラグナがいった。

「じゃがのう、あのままではおぬしらとまともに話し合うこともできぬではないか」

 確かに、それではあまりにも寂しすぎるといえば、そうだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ