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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百六十四話 三界の竜王(二)


「わたくしたち三界の竜王がこうして顔を揃えるのは、およそ五百年ぶりのことです」

 銀衣の霊帝ラングウィン=シルフェ・ドラースが、世界を包む大気のように柔らかくも静かな、しかし決然たる意思をもって語り出した。法と秩序を司り、三界の竜王の中でも議論の主導を担うことの多い彼女は、さながら地母神の如く、“竜の庭”の広大な大地と寄り添うように佇んでいる。

 蒼衣の狂王ラムレス=サイファ・ドラースは、蒼白衣の狂女王ラムレシア=ユーファ・ドラースへと生まれ変わった。が、だからといって三界の竜王としての役割が失われたわけでもなんでもない。彼女はすべてを受け継いだのだ。破壊と混沌を司る彼女は、荒ぶる神の如くであり、渦巻く大気が彼女の気迫を恐れるようにして避けていく。

 緑衣の女皇ラグナシア=エルム・ドラースことラグナはといえば、平衡と維持を司りながらも自由意志の化身であり、その矛盾を孕んだ在り様故に異端の竜王と呼ばれることもなくはなかった。その自由気ままぶりにラングウィンが呆れ果て、ラムレスが怒り狂うことがままあったのは、遠い過去のことではあるが、懐かしくもあった。

 そんなことを思い出したのは、ラングウィンが五百年前の話を持ち出してきたからだ。そして、五百年前の話を持ち出さなければならない状況に追い込まれているからにほかならない。

 危機に瀕している。

 それこそ、三界の竜王が一堂に会さなければならないほどの危機的状況。

 破滅が目前に迫っている。

「五百年前……イルス・ヴァレは三度目の、滅亡の危機に瀕していました。人間、天人、地人、鬼人――諸族の戦いが世界全土を席巻し、生きとし生けるものの未来が闇に沈んでいく。わたくしたちは絶望の未来を視、故に話し合うべく、顔を揃えましたね。覚えていますか?」

「ああ、覚えている。覚えているとも」

「うむ。長い間、思い出すことすらできなかったがのう」

 ラムレシアが深々とうなずき、ラグナも肯定しつつ、苦い顔をする。世界が聖皇の呪縛に覆われていた五百年、彼女が思い出せたのは偽りの記憶がほとんどだった。転生竜であるという事実こそ思い出せたが、自分の役割までは思い出せなかったのだ。故に三界の竜王は、本来の役割を見失い、それぞれが思うままに生きた。その生き様がいまを作り出している。

「しかし、五百年前、わたくしたちはある人間との出逢いによって、考えを改めることとしました。ミエンダという娘の切なる願いは、わたくしたちにとっての希望の光明となり得た。ひとが、みずからの手で破滅的な騒乱を収め、暗澹たる将来に光明を取り戻すというのであれば、それに越したことはなかった。故にわたくしたちは、協議の末、彼女に機会を与えました」

 ミエンダという人間属の娘と、六名の賢人たち。のちの聖皇ミエンディアとその六将は、まずラグナと出逢い、ラグナを説得している。人間を忌み嫌うラムレスではなく、鉄の秩序の執行者であるラングウィンでもなく、自由なる放浪者であったラグナにこそ希望を見出したのは、ある意味では必然だったのかもしれない。無論、ミエンダたちにとっては必死のことであり、彼女たちは、ラグナの説得さえ命懸けの行いだったし、ラグナを心変わりさせることすら不可能だと思っていた節がある。それでもやり遂げなければならないからこそ、ミエンダは六名の賢人とともにラグナを探しだし、出逢い、話し合おうとした。

 ラグナは自由を愛し、孤高たらんとした。故にミエンダたちとの交渉の席に着こうとはしなかったが、どこへ行こうとも追いかけてくる彼女たちを追い払い続けるのも面倒になり、ついに話し合うことにしたのだ。要は根負けしたのであり、そのときには、ラグナはミエンダの話を聞く気になっていたということだ。そして、ミエンダの必死の願いは、ラグナを動かし、ラグナは、残る三界の竜王とミエンダを引き合わせた。

 ミエンダを交えた竜王会議は、天地を揺るがすほどに激しいものとなり、ラグナとラムレスが取っ組み合いの激論を交わすこととなったが、結果をいえば、ミエンダの主張を受け入れ、彼女たちに時間を与えることとした。ただし、その時間を過ぎても成果が現れなければ、世界を洗い流すと定めた上でだ。

 滅亡が、目前に迫っていた。

 いくらミエンダの主張に、その魂に絆されたとはいえ、許される時間はわずかばかりしかなかった。

 それでもやり遂げたのが、ミエンダたちだ。

 そう、ミエンダは、見事に成し遂げ、世界から騒乱の火種を消し去り、破滅の可能性すら奪い去ったのだ。

「彼女は、異世界の神々の力を駆使し、世界を改変しました。すべてを存続させながらも世界を破滅から救うには、それ以外に方法がなかったのでしょうし、許容できる範囲ではありました。しかしながら、ミエンダは力に酔い、我を忘れてしまったのです」

「……そうじゃな」

 ミエンダは、聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーンと名乗った。

 ワーグラーンとは、彼女が世界改変によって作り上げたひとつの大地のことだ。およそ五百年前の世界は、いまのようにいくつもの大陸と無数の島々、そして広大な海によって成り立っていた。“大破壊”以前のひとつの大陸は、ミエンディアの世界改変によって海上の陸地が一カ所に圧縮されたがために生まれたものであり、それもこれもミエンディアがこの世から争いという争いをなくすための第一歩だったという。

 ミエンディアは、破滅的な騒乱が生まれる原因を諸族に見出した。種族が分かれ、異なる主義主張、分化文明が生まれるからこそ、闘争が生じ、その戦いが破滅的なものになってしまったのではないか、と考えたのだ。それを回避するには、人型の種族をひとつに限定し、隔絶する壁をなくすことが肝要だ。そのためにはどうすればいいか。

 ミエンディアは考えに考え抜いた末、諸族を人間に作り替えると、大陸をひとつとし、言語をひとつとした。そうしてワーグラーン大陸が誕生し、大陸共通言語が生まれた。諸族は消え去り、諸族が生み出した数多くの文明は埋葬された。ひとびとが掘り起こし、誤って破滅的な災厄を引き起こさないよう深く厳重に。

 その上でミエンディアは、ひとびとから闘争心をも奪い去ろうとしていたようだった。

 五百年前、世界が滅亡の危機に瀕したのは、諸族の戦いが原因だが、ただ諸族が相争っただけではそうはならなかっただろう。諸族の闘争が加熱し、激化の一途を辿ったことで、破滅が見え始めた。諸族が生まれ持つ闘争心こそ、破滅の源だったのではないか。ミエンディアはそこまで考えた末に、人間属のみとなった大陸から闘争心さえも奪い去り、平穏と静寂の世界を作り上げようとした。

 が。

 聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーンは、討たれた。

 ミエンディアが我を忘れ、聖皇としてその絶大な力を振るい始めたことに危惧を抱いた聖皇六将たちによって討ち滅ぼされのだ。

 ミエンディアは、聖皇六将を呪いながら、世界と約束を結び、消滅した。

 その約束こそ、復活の儀式であり、世界を包み込む呪縛だったのだが、その事実を知るものは神々を除いていなかった。ラグナたち三界の竜王は、ミエンディアの世界改変によって竜王としての役割を忘れさせられていたのだから、そのときにはもはやどうしようもなかったといえる。もしその事実を知っていれば、聖皇復活に関して、なにがしか手を打てたかもしれない。

「そうして築き上げられたこの五百年は、仮初めの……いえ、偽りの平穏であり、欺瞞に満ちた静寂でした」

「……そうさな」

 ラングウィンの言い様を、否定はできない。

 確かに、この五百年の静寂は、偽りと欺瞞に満ちたものだった。


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