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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百六十二話 竜騎士(四)


「酷い有り様……」

 ファリアは、ただ、そうつぶやくほかなかった。

 ウルクナクト号の甲板から、東ヴァシュタリア大陸を見渡している。大陸北部を覆う“竜の庭”の地上の楽園が如き光景も、大陸南部の極寒の大地も、先日、世界を引き裂いた光の爪痕によって見事なまでに両断され、西と東に分かれていた。巨大な爪痕は海と繋がり、大陸を流れる大河の如く見えなくもないが、大河などという言葉ですら生やさしいだろう。海そのものなのだから、当然かもしれない。

「これが獅子神皇の力……なのね」

「聖皇の力の器、なんでしょう? だったらこれくらいは出来て当然よ」

 ミリュウが呻くようにいいながら、ファリアにもたれかかってくる。

 ウルクナクト号には現在、ファリアのほか、ミリュウ、ダルクス、ルウファ、エミルとマユリ神のみが乗り込んでいる。それ以外の人員は皆、セツナとともに“竜の庭”に降りており、ひとの住む集落でセツナが目覚めるのを待ちわびていることだろう。

 ファリアたちがなぜウルクナクト号に乗り、別行動を取っているかというと、ラングウィンに大陸の現状を見て回って欲しいと頼まれたからだ。竜王たちは、すぐにでも話し合いを行う必要があり、その間、動けない以上、だれかに目となり、耳となってもらわなければならない。そのために自分の部下である竜騎士たちを用いるのは当然として、ファリアたちにも世界の現状を知ってもらいたい、とのことだった。

 世界の現状とはつまり、先日、ファリアたちが目の当たりにした世界を切り裂く光がもたらした被害とその惨状のことだ。

 ラグナたちにより、それが獅子神皇の力の発現であることが確定された。

 獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアが内包する大いなる力の一部である、と。

 その力がもたらした被害は、第二の“大破壊”といっても遜色のないものであり、東ヴァシュタリア大陸を東西真っ二つに引き裂いて見せた力は、とてつもないとしか言い様がない。

 ファリアは、その力の爪痕を目の当たりにしている。

 東ヴァシュタリア大陸の南端から北端まで繋がる海の青は、以前にはなかったものだ。ファリアたちが初めて東ヴァシュタリア大陸を訪れたとき、大地は繋がっていて、上空からは目立つほどに大きな川も見つけられなかったくらいだった。しかし、いまや大地は引き裂かれ、その巨大な断裂の上に住んでいただろう数多の命が奪われたことは、想像に難くない。

 当然、大陸北部を覆う“竜の庭”も多大な被害を受けており、多くの集落が巻き込まれ、無数の命が消滅したという。

「これくらいは出来て当然……ですか」

「……勝てるんですか?」

 ルウファの囁くような声に続き、エミルが不安そうに問うてきた。

 世界を容易く引き裂くような力を持つ存在を相手に戦おうというのが、ファリアたちなのだ。エミルも覚悟して船に乗り込んだとはいえ、世界を滅ぼすほどの力を目の当たりにすれば、不安視するのも当たり前だった。

 ダルクスは黙して語らないが、彼とて、獅子神皇の力の一端を突きつけられて、なにも感じていないわけではないだろう。

 ファリアは、引き裂かれた大地を見つめながら、口を開いた。

「勝てるかどうかじゃないわ。勝たなきゃ、斃さなきゃいけないのよ」

「ファリアのいう通りよ。獅子神皇を野放しにしていたら、世界はめちゃくちゃになる。めちゃくちゃにされる」

 ミリュウの実感の籠もった言葉は、彼女の脳内に存在する膨大な過去の記憶が影響しているのかもしれない。世界がひとつになる前の記憶を持ち、聖皇ミエンディアが世界をひとつにしたことを知る彼女にしてみれば、その力の受け皿である獅子神皇の力の凄まじさが理解できないわけがない。

「どこに隠れても、どこに逃げても、獅子神皇の前では無意味なのよ。だったら、戦うのが一番よ」

「まあ、隊長がいますしね」

「そういうこと。セツナがいるもの。だいじょうぶよ、エミル」

「いやまあ、セツナ様がいる限り安心なのは間違いないんですが……」

 それでも、不安を完全に掻き消すことができないのは、エミルがセツナの戦いぶりを直接見ていないからというのも大きいのではないか。

 ファリアは、獅子神皇の力の大きさを思い知ったが、不安もなにもセツナの存在が掻き消してくれていた。セツナがともに有る限り、どんな苦境も覆し、かならずや勝利を掴み取れるものと信じられるのだ。これまでがそうだった。もちろん、様々な条件が積み重なったからこその勝利もあるが、それにしたって、セツナがいたからこそ、というのが大きい。

 セツナと黒き矛がある限り、負けることはない。

 そして、負けなければ、いつかは勝てる。

 そう信じ、前に進むしかない。

「これが獅子神皇とやらの力ですか……まったく、恐ろしいものですなあ」

「だが、恐ろしがっているように聞こえないのがおまえの悪いところだな」

「そうかなあ」

「……そうだよ」

 そんな大らかな話し声は、ウルクナクト号とともに空を飛ぶ飛竜たちから聞こえてくるものだった。ラングウィンの眷属たる飛竜の中には人語を解するものが少なくないが、つい今し方会話を交わしていたのは、飛竜たちではない。飛竜に跨がる皇魔たちだ。

 黒く禍々しい異形の肉体を持つ皇魔ウィレドが白き鱗の飛竜に跨がる光景は奇異としか言い様がないが、それ以上に彼らが味方として行動をともにしていることのほうが不思議かもしれない。とはいえ、“竜の庭”において、人間と皇魔が手を取り合う光景自体はめずらしいものではなく、むしろ、五百年の長きに渡る“竜の庭”の歴史は、竜と人間と皇魔が共存共栄してきた歴史そのものであり、“大破壊”以降の領域拡大によって増加した新参者以外の人間も皇魔も、対立することのほうがありえないことらしかった。

 人間と皇魔が敵対視するようになったのは、悲劇的な邂逅と、それ以降の五百年間、相争い、血で血を洗う戦いを繰り返してきたからだ。積み重ねられた血の記憶は、両者の和解を極めて困難なものとしてしまっている。血を流しすぎ、命を奪い合い過ぎた。

 しかし、“竜の庭”における人間と皇魔の邂逅は、極めて穏やかなものであったという。“竜の庭”には竜属という上位者が存在し、彼らの監視下にあったというのも大きいのだろう。人間は皇魔を迎え入れ、故に皇魔もまた、人間を受け入れた。そして、互いに手を取り合い、“竜の庭”での生活を送っていた、という。

 もちろん、“竜の庭”の拡大以降に入ってきた人間や皇魔は、そういうわけにもいかなかった。五百年の積み重ねは、“竜の庭”出身の人間と皇魔の関係性にも、“竜の庭”外部出身の人間と皇魔の関係性にも、強く結びついている。

「多くの命が奪われたのは間違いなさそうだ。ラングウィン様が悲観なされるのも無理はない」

「やはり、獅子神皇を早急に討つ以外に道はないというわけかあ」

 飛竜を駆る二名のウィレドは、いずれも竜騎士と呼ばれるラングウィン直属の騎士だ。竜騎士とは、ラングウィンが“竜の庭”を拡大する際に考え出した制度であり、平時においてはラングウィンの代官として、戦時においてはラングウィンの爪や牙として戦うもののことだ。竜騎士に選ばれるのは、当然、ラングウィンが信頼する存在だが、それはなにも人間に限った話ではない。皇魔の中からも何名か選ばれている。ウィレドたちのようにだ。

 大らかなウィレドはヴィジヌといい、もう一名はマノンという。

 二名とも立派なウィレドだが、人間に対し一切の害意を持たないどころか極めて友好的であり、アガタラのウィレド以上に親しみ安くはあった。

 そして彼らは、ラングウィンの代官として、ファリアたちとともに大陸を見て回っているのだ。

 


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