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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百五十八話 飽くことなき(十二)



「本当は、君がニーウェと同じだってこと、知ってたんだ」

 そういうと、セツナを掴んでいた超巨大ニーウェの手が緩み、セツナを手のひらの上に立たせるようにした。手のひらは巨大で、安定している。地上は遙か彼方の高高度だが、落ちる心配はなさそうだ。

「でも、認めたくなかった。認められなかった」

「そりゃあそうだ」

 セツナは、自嘲するほかなかった。

「俺とあいつじゃなにもかもが違う」

 生まれも育ちも環境もなにもかも、違いすぎる。それなのに同じような姿形なのが、同一存在の不思議さといえば、不思議さだろう。もっとも、顔立ちは同じでも、目つきは違いすぎるくらいに違い、セツナのほうが遙かに凶悪な顔つきだという事実は認めざるを得ないが、。

「でも、同じだよ」

「ん?」

「君の心も、暖かい」

 エッジオブサーストの声からは、完全に刺々しさがなくなっていた。

「君も、ニーウェと同じだ。同じなんだ」

 不意に目の前が真っ暗になったかと想うと、重力を感じ、倒れそうになった。見ると、地上に降ろされている。それも先程までいた使者の森近郊ではなく、暴飲暴食大会の会場であり、舞台の上だった。当然、超巨大ニーウェの姿も消え失せていて、代わりといってはなんだが、目の前にエッジオブサーストがいた。

 黒髪赤目の少女。かつて夢現の狭間で見たときとは、印象が異なるのは、彼女がセツナを認めてくれるようになったからに違いない。柔らかで優しげな表情は、彼女がニーウェに向けていた表情なのかもしれない。

「はい、鍵」

 そんな言葉とともに差し出した彼女の手のひらの上に、鍵が浮かんでいた。セツナは一瞬、なにがなんだかわからなかった。

「え?」

「ぼくの試練はこれで終わり。君は試練を通過したんだよ」

「ええ!?」

 セツナは、驚きのあまり素っ頓狂なまでの声を上げ、エッジオブサーストを苦笑させた。

「なにを驚いているの? 試練の内容も結果も、ぼくたちが好きにしていいんだから、こんな終わりがあってもなんの問題もないんだよ」

「本当かよ……」

 エッジオブサーストのいうことはもっともなのだろうが、セツナは、にわかには信じられなかった。結局のところ、セツナは、彼女が主催した試練を突破できなかったという想いしかない。ニーウェの幻影たちに言い様にやられた挙げ句、超巨大ニーウェの前には手も足も出なかった。無論、あのまま同じことを繰り返しても、どうにもならないことはわかっている。

 たとえ巨人への打開策が見つかり、なんとか撃破できたとしてもだ。

 エッジオブサーストが敗北を認めない限り、ニーウェの幻影との戦いは続いただろう。

「それとも、鍵、いらないの?」

「いるいる! いるに決まってるだろ!」

「じゃあ、受け取りなよ」

「あ、ああ……」

 セツナはエッジオブサーストの手のひらの上で輝く鍵を手に取るも、未だ熱に浮かされたような気分だった。エッジオブサーストが尋ねてくる。

「納得できない?」

「いや……まあ、あんたが納得したんなら、それでいいけどさ」

「そうだよ、ぼくが納得したんだ。それがすべて」

 エッジオブサーストの微笑は、一連の試練が眷属たちの気分次第であることを思い出させた。ランスオブデザイアとアックスオブアンビションは死闘の上の勝利というわかりやすいものだったが、ロッドオブエンヴィにせよ、メイルオブドーターにせよ、エッジオブサーストと同じように試練の主を納得させることができるかどうかが問題だった気がする。

 つまり、これはこれでいいということではないか。

「でも、ニーウェを蔑ろにするようなことがあったら、許さないからね」

「あ、ああ……」

 エッジオブサーストに凄まれて、セツナは、なんと返していいものか困惑した。まったく怖くないからというのもあるが、ここに来てもニーウェのことが大切なのか、という想いもあった。

 エッジオブサーストにとって、それほどまでにニーウェの存在は特別なのだろう。

「約束しよう。現世に戻って、ニーウェにもしものことがあれば、必ず助けるって」

「本当に!?」

「ああ」

「ありがとう……セツナ。ありがとう……!」

 感極まって涙さえ浮かべるエッジオブサーストの様子に、セツナこそ、感動を覚えた。

 召喚武装がここまで召喚者を想い、深い愛情を抱くことがあるなど、考えたこともなかったからだ。青天の霹靂といってもいい。エッジオブサーストのそれは、武装召喚師と召喚武装の絆の深さを示すものであり、セツナは、これまで以上に召喚武装を大切に扱わなければならないと思い直しもした。召喚武装が意思を持ち、自我を持つことは、最初から知っていたことだし、理解していたことだ。だが、それにも増して、もっと深く考え、丁重に扱うべきだという想いを抱くようになったのだ。

 それもこれも、エッジオブサーストが、もはやなんの関係性もなくなったはずなのにも関わらず、ニーウェのことを想い、いまもなお大切にしているということが明らかになったからだ。

 召喚武装との絆は、一時的なものではない、ということだ。

 命がある限り、続き、繋がっていく。

 ニーウェとの絆が、いままさにセツナとエッジオブサーストの絆として結びついたように――。


(絆……か)

 ぼんやりと脳裏に考えが浮かぶのとともに瞼を開けて、見知らぬ天井が視界に入り込んでくるのを認める。石造りの天井は、意識が落ちる寸前までいた場所とはまったく無縁のものであり、自分がさらなる夢を見ているのではないか、と想わずにはいられなかった。夢から夢へ。そんな夢を見た記憶もないではない。が、なにやら聞き知った話し声が耳朶を掠めて、彼はこれが現実である可能性のほうが高いのではないかと想った。だとすれば、ここはどこなのか。ラグナの頭の上でもなければ、ウルクナクト号の船室でもない。リョハンの御陵屋敷でもない。

 では、いったい。

 上体を起こせば、大人ひとりが眠るには十分過ぎるほどの寝台の上に寝かされていたことを知る。掛け布団は軽く厚みもない。寝間着そのものも薄手であり、決して気温の低くない地域にいるらしいことがわかる。

 寝台の側にはエリナとミレーヌがいて、その視線の先でレムとウルクがイルとエルを見て、なにやら話し込んでいる様子だった。

「あ、お兄ちゃん起きたよ!」

 エリナが真っ先に叫ぶと、室内にいた全員が一斉に寝台に駆け寄ってきた。

「おはようございます、御主人様。ご気分はいかがでございます?」

「おはようございます、セツナ。皆を心配させすぎです」

「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

「セツナ様、体調のほうは……」

 イルとエルこそ無言だったものの、四人一斉に話しかけられて、セツナは、軽く頭痛を覚えた。目覚めたばかりで意識が判然としていないのだ。

「あー……おはよう、でいいのか? まあ、気分は悪くない。心配させたのは悪くないと想っている。だいじょうぶ。体調も悪くはないと想う」

 そこまでいってから、大きく息を吐く。この場にいるだれもがセツナの身を案じてくれていることは、いわずともわかっている。だからこそ、セツナが目覚めるときをいまかいまかと待ってくれていたのだ。

「……つまり、俺は意識を失って寝込んでたんだな? それで、このどことも知れぬ場所に移された、と」

「御名答でございます!」

「さすがはセツナです」

「いや褒めなくていいから。それで、ここはどこなんだ?」

「それでは問題です、ここはどこでしょう?」

「それを聞いてるんだよ」

「ですから問題にしているのですが?」

「おまえは……」

 セツナは、レムの屈託のない返事に言葉を失った。すると、ミレーヌが割り込んでくる。

「“竜の庭”の中にある、人里ですよ」

「“竜の庭”……か」

 納得のいく答えに、安堵する。ラグナとともに“竜の庭”に向かっていたのだ。その道中で意識を失ったセツナが、“竜の庭”の人家に運ばれたのだとすれば、極めて自然な成り行きだった。セツナを休ませるだけならばウルクナクト号の中でも十分なはずだが、もしかすると、ウルクナクト号は空を飛び回っているのかもしれない。その場合、ゆっくり休めないかもしれず、そういう懸念から船を降ろされた可能性が高い。

 レムが悲痛な声を上げる。

「ああん、ミレーヌさん、意地悪です。せっかく御主人様をからかい尽くそうと想いましたのに」

「あら、ごめんなさいね」

「謝らないでください、ミレーヌさん。こいつを調子づかせるとろくなことがない」

「そんないいかた酷くないですか!?」

「そうです、先輩に謝ってください」

 レムとウルク、それにイルとエルの無言の圧力に、セツナは憮然とした。

「先輩と主人、どっちが偉いんだよ……」

「それはセツナですが」

「だったら」

「しかし、先輩も大切です」

「そりゃそうだろうが……」

 ウルクのまっすぐなまなざしを受けて、セツナは、返す言葉もなかった。




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