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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百四十六話 三界の竜王


 頭上には、満天の星空が広がっていた。

 広大無尽の宇宙を飾る数多の星々と月が、この地上に膨大な光を降り注がせ、静寂の夜を彩っている。

「酷いわね……」

 心底痛ましそうにつぶやいたのは、ファリアだ。

 ラグナの前方、大海に浮かぶように存在する大地――東ヴァシュタリア大陸というらしい――に起きたという激変について述べたものだろう。その大陸の元々の形を知らないラグナにはなにが酷いのかまったくわからないし、酷いといえば、世界そのものが惨憺たる有り様としかいえなかった。

 ラグナが眠っている間になにがあったのかについては、つぶさに聞いて、知っている。が、聞いて知ったからといって、納得できる類の話ではなかった。少なくとも、喜ばしいことではないのは間違いない。セツナやファリアたちが心を痛めている以上に、ラグナの心痛というのは大きい。

 ラグナは、三界の竜王の一翼だ。

 緑衣の女皇などという呼び名はどうでもいいが、この世界の管理者の一員であることには、誇りを持ち、自負もあった。その管理者の知らない間に世界が破壊され尽くし、変わり果てたのだ。数多の命が失われ、いまもなお死が蔓延している。精霊たちの悲鳴が聞こえる。世界が壊れ、終わりゆくのが実感として理解できる。このままでは、イルス・ヴァレは持たないだろう。

 そういうことが過去に三度、在った。

 そのたびにすべてを洗い流し、なかったことにした。

 それが創世回帰。

 そうすることで世界が直面した破滅の運命を遠ざけ、延命し続けてきた。

 もっとも、三度目の創世回帰は行われず、別の方法でもって世界の延命は計られたのだが。

「本当……酷い有り様」

「わしには全部が全部、酷く見えるがのう」

「それはとっくに見飽きてんの」

「むう」

 ミリュウのいうとおりには違いない。

 ファリアやミリュウたちは、世界の現状に見慣れ、故にこそ、東ヴァシュタリア大陸の惨状を目の当たりにして衝撃を受け、悲痛な声を上げているのだ。その点、ラグナはつい先程目覚めたばかりといってよく、故に彼女たちと感情を共有できなかった。それが少しばかり寂しく、けれども、彼女たちが現実として息づいていることを理解して、嬉しくもなる。夢の中の彼女たちは、ラグナの思い描いたままの存在に過ぎず、なにもかもが彼女の想うままだった。現実のミリュウたちは、そうはいかない。ときには辛辣な言葉を浴びせてくることだってあったし、喧嘩に発展することも少なくなかった。

 それでいいのだ。

 それこそ、ラグナが待ち望み、夢に見続けた日常だった。

 セツナと邂逅し、セツナとともに在った日々。懐かしくもあざやかで、暖かな日常。孤高を定めとし、他者と触れ合うことすら拒否して飛び回った日々は遠い過去のものとなり、いまや彼らなくして生きることなどできないくらい、ラグナにとって彼らは必要不可欠な存在となっていた。

 生きる糧といっていい。

 もはやセツナから力を吸う必要こそなくなったが、セツナの側を離れたいとは想わなかった。むしろ、以前よりももっとずっと側にいたいと想うようになっている。頭部にセツナの体温を感じるが、それだけでは満足できなかった。だから彼女は急ぐ。一刻も早くセツナたちを目的地に連れて行って、下ろし、自由の身になりたかった。でなければ、変身することもままならない。

 なぜならば、変身しなければセツナと戯れることもできないのだ。

 いまのままでは、セツナを押し潰してしまう。

「大陸を縦断する大きな川があるのはわかるわよね」

「うむ」

 ファリアが言及したのは、東ヴァシュタリア大陸と呼ばれる大地の最北端から南西に縦断する巨大な大河のことだろう。いや、大河といっていいのか、どうか。川というよりは、海の一部に見えるのだ。

「あんなものは元々なくて、地続きだったのよ」

 つまり、聖皇の力と思しき光の柱が四つに分かれ、倒れた先が、東ヴァシュタリア大陸であり、光の柱によって大陸が東西に分断されたということなのだろう。セツナたちが“大破壊”と呼ぶ破滅的な災害によって大陸がばらばらに引き裂かれたことで、東ヴァシュタリア大陸が生まれ、さらに光の柱によって真っ二つに断ち切られたのだ。そこに住んでいた多くの命も奪われ、失われたことだろう。

 聖皇の力は、やはり捨て置くことは出来ない。

 それこそ、この世界に破滅をもたらすものとしかいえなかった。

「“竜の庭”も含まれているわよね……」

「ええ。間違いなく」

「ラングウィンは無事だろうが……心配だな」

「無事じゃのに心配とはどういうことじゃ?」

「彼女は、あなたとは違って愛情深く、慈悲に満ちている。彼女の庇護下には、眷属のみならず、人間や皇魔、数多の動植物が集まり、共同体を形成しているのだ」

「わしと違ってとは、余計なお世話じゃ」

 ラグナは多少の憤慨を込めていった。ラムレシアのいいたいことはわかる。確かにラングウィンは、三界の竜王たちがその本来の役割を忘れ、世界に干渉するようになってからというもの、以前と見違えるようになったように想える。

「が……確かにこの五百年来、あやつは変わったのう」

「あなたもだろう」

「おぬしが一番変わったじゃろうが」

「……まあ、そうだが」

 ラムレシアが苦笑でもって会話を終わらせたのは、目的地が近づいてきたからだろう。

 東ヴァシュタリア大陸北部一帯が、“竜の庭”と呼ばれるラングウィンの領域であり、そこにラムレシアがいったように竜属のみならず、人間や皇魔を含む多種多様な生物が住んでいるという。その中でもラングウィンの居場所は、すぐにわかった。

 白銀の山脈の如き竜王の巨躯が、ラグナの目にははっきりと見て取れたからだ。ラングウィンの巨体は、ラグナの現在の姿と比較すれば、小さく見えてしまうだろうが、ラグナ以外の生物とは比較しようもなく巨大であり、圧倒的なのは間違いない。この場合は、ラグナが超絶的に大きくなりすぎた、というべきだ。ラグナ自身、想定外のことではあった。ここまで大きくなるつもりは毛頭なかったのだ。ただ、転生するための、新たな肉体を作るための力を集めたに過ぎない。その結果、だれよりも大きくなってしまったのは、苦笑せざるを得ないことだ。

 ラグナが近づけば、山脈が動き、大地が鳴動した。銀鱗の巨竜がその丸みを帯びた頭部を持ち上げ、こちらを迎える。口を開けば、ラムレシアが慈悲深いと評するに値するだけの優しげな声音が響いた。

「お久しぶりですね、ラグナシア」

「うむ、久方ぶりじゃのう、ラングウィンよ。随分、心配をかけたようじゃな」

 ラグナは、ラムレシアに続き、同胞との再会に心が弾むのを認めた。かつての孤高を気取った自分ならばありえなかったことだろう。いまや孤独の寂しさを知り、仲間がいることの喜びを知ったラグナには、それもまた良いものと受け止められるのだ。

「心配は……していませんが、無事に目覚めたようでなによりです」

「そこは嘘でも心配していたというものじゃぞ」

「ふふ……そうですね。もちろん、心配していましたよ、ラグナシア」

「そうかそうか。それならばよいのじゃ」

 ラグナは上機嫌でうなずくと、ゆっくりと地上に降下した。ただし、着地はしない。そんなことをすれば、“竜の庭”を押し潰し、数多の命を奪ってしまうだろう。ラングウィンが一所に留まり、あまり大きく動かないのも周囲への影響を鑑みてのことに違いなかった。

「ところで……あなたを夢から呼び覚ましたのは、セツナなのでしょう?」

「うむ!」

「そのセツナはなにをしているのです?」

「寝ておる。いまごろわしの夢でも見ていることじゃろう」

 ラグナが断言すると、頭の上でファリアやミリュウがなにか文句をいってきたが、黙殺した。セツナは、ラグナの頭の上で眠りこけているのだ。ラグナの夢を見ずに、どのような夢を見るというのか。

「そうですか……。セツナに礼をいいたかったのですが」

「それはあとでも良いじゃろう。それよりもじゃ」

 ラグナは、ラングウィンの心遣いを感じながらも、静かにいった。

「わしをここに呼び集めた理由を述べよ、ラングウィン」

「あなただけではありませんよ、ラグナシア。ラムレシアも、ここへ」

「わたしもか」

「それぞれに様々なことがありましたが……」

 ラングウィンは、ラムレシアとラグナを見比べるようにして、穏やかに告げてきた。

「これで……三界の竜王が揃いました」

 その言葉には重々しい響きがあり、ラグナは、目を細めた。


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