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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百四十五話 世界を揺らすもの


「いったいなにが起きた?」

 ヴィシュタルは、空を仰いだまま、しばし呆然とした。

 それは、突如として、なんの前触れもなく起きたのだ。

 光が天を貫いたかと想うと、四つに裂け、四方に倒れ込んでいくという現象。ただそれだけならば、怪現象に過ぎず、疑問や解明の必要性こそあれど、たいした問題もなかっただろう。しかし、現実に起きたことは、そのような楽観論が通用するような出来事ではなかった。

 少なくとも、疑問の余地もなく非常事態だった。

 まず、天を突き破るように聳え立った光の柱そのものが長大であり、莫大な熱量を感じ取ることができていた。世界に満ちた神威が震え、精霊たちの悲鳴がこだまするほどの熱量。光の柱の出現とともに世界そのものが揺れ始めていたのだ。その上、光の柱の方向や距離から、発生地点が割り出せたことも大きい。光の柱は、神都ネア・ガンディオンより聳え立っていた。それがなにを意味するのか、想像できなくはない。

 獅子神皇の力の発露。

 それ以外考えられない。

 ネア・ガンディアに属する神々が力を合わせれば、あれくらいの力を持った光の柱を生み出すことが出来るかもしれない。が、獅子神皇に頭を垂れ、平伏す神々が、そのような真似を勝手に行うわけもなければ、理由もなく、ましてやレオンガンドが神々に命じるはずもない。レオンガンドは、みずからが積極的に動くことを好まなかった。

 支配者たるもの、組織を統率し、手駒を動かしてこそである、というのが、ガンディアの軍師ナーレス=ラグナホルンからの薫陶であり、レオンガンドが持論としていることなのだ。

 みずから陣頭指揮を執ったザルワーン島侵攻は、例外中の例外だった。なぜならば、龍府にはレオンガンドの家族がいたからだ。しかも、一度ザルワーン島制圧に失敗しているということもあり、つぎは本腰を入れる必要があった。だからといって、マルウェールに対してミズトリスたちが行ったような真似を龍府にされては困るため、レオンガンド御自ら出馬し、指揮を執ったのだ。

 それ以外では、レオンガンドは、玉座に在ってあれこれと指示こそすれ、みずから手を下すつもりはなかった。

 つまり、レオンガンドが神々に指示し、あのような現象を起こしたわけではないということだ。

 となれば、やはり、レオンガンドが秘めたる力を発現したということにほかならないのだろう。

 だが、その結果起こった出来事を鑑みれば、レオンガンドがなにを考え、なにを狙い、あのようなことを起こしたのか、まったく想像できないし、理解できなかった。

 光の柱は、ただ四つに裂けただけではない。四つに裂けた上で、まるで重力に従うかのように横倒しになり、地上に降り注いだ。神々が力を結集してようやく生み出せるほどの熱量だ。それがどれほどの破壊力を持っているのか、想像するのも簡単ではないだろう。人間など、触れるまでもなく消滅するのは間違いない。いや、人間どころか、皇魔も、神兵も、だれもかれも神威の光に灼かれ、消し炭となり、滅び去るだろう。

 実際、光の柱の落下地点は、見るも無惨な光景と成り果てていた。海は割れ、大地は裂け、大気は燃え尽き、木々は消し飛び、精霊たちが死に絶え、動植物も息絶えた。海の断面こそすぐに元通りに戻ったものの、水位は幾分か下がっただろう。海面は割れただけではない。大量の海水が蒸発している。そして、大地に深々と刻まれた断裂には海水が流れ込み、地形も様変わりした。

 それは、彼の眼前で起きた出来事であり、彼は、光の柱の落下地点にいたのだ。

 彼が消滅を免れることができたのは、幸運だったからではない。咄嗟にシールドオブメサイアを最大出力で発動し、周囲一帯に守護結界を展開したからだ。もし、光の柱に見取れ、反応が遅れていれば、獅徒といえど致命的な損傷を受けていたことだろう。それは、二度と元に戻らない傷痕となり、今後の行動を制限した可能性もあった。冷や汗が流れるのは、そのせいだ。

 なにせ、獅子神皇の力なのだ。

 獅子神皇の使徒たる獅徒は、獅子神皇にこそ生殺与奪の権利を握られている。生きるも死ぬも獅子神皇次第であり、レオンガンドが破滅の力を発動し、それに触れたというのであれば、滅びざるを得ない。光の柱は、獅子神皇が持つ破滅の力、その片鱗だった。

 シールドオブメサイアの最大出力による守護結界は、ヴィシュタルと彼の部下、そして彼に率いられ、この島を訪れた聖軍の将兵を守り切ることに成功した。それと、結界内の地形もだ。もっとも、島全体などではない。咄嗟のことでもあり、ヴィシュタルは、自分たちを護ることしかできていなかった。島自体には、多大な被害が出ている。

 結界のすぐ外では、光の柱が直撃したことで大地に巨大な断裂が刻まれていたし、その断裂の周囲にも影響が出ているようだった。

 凄まじい熱量がなにもかもを焼き払ったのだ。

「冷静に考え込んでいる場合ですかい」

「いや、こういうときこそ冷静なのがヴィシュタルのいいところだろう」

「そりゃあそうだが……」

 ミズトリスの声音にも、ウェゼルニルの声色にも、焦りや畏れといった感情が見え隠れしていて、だれもがこの非常事態に直面し、冷静さを見失いかけている。聖軍の将兵たちも、なにが起こったのかわからないといった有り様であり、狼狽を隠せず右往左往するものもいれば、あまりの事態に気を失うものさえいるようだった。聖兵の混乱ぶりは、致し方のないことだったし、聖将たちでさえ慌てふためくのも無理はなかった。ヴィシュタルでさえ、なにが起こったのかと断定して説明し、兵士たちの心を安んずることは難しいだろう。

 ヴィシュタル、ウェゼルニル、ミズトリスという獅徒三名に加え、聖将三名に聖兵一万五千名が、この度のワラル島制圧に駆り出された人数だ。ワラル島の実情がわかっていないとはいえ、制圧だけならば、獅徒だけでもなんの問題もないはずだった。が、レオンガンドは、ザルワーン島やログナー島、さらには三度に渡るリョハン制圧任務の失敗を例に挙げ、念には念を入れるべきだということで、過剰なまでの戦力が手配される運びとなったのだ。

「作戦は一時中断しよう」

 ヴィシュタルは、守護結界を維持したまま、大地に穿たれた巨大な断裂を睨んだ。いまや海水が流れ込み、充ち満ちて、海の一部と成り果てたそれは、どう足掻いても破壊の爪痕だ。獅子神皇が持つ絶大な力、その片鱗なのだ。

「まあ、それが一番でしょうな」

「わたしはどうすればいい?」

「ウェゼルニルと二手に分かれ、島内の状況を確認して欲しい。この断裂の周辺以外は無事だと想うが……万が一のこともある。なにか異変があれば、すぐにでも報せてくれると嬉しい」

「わかった。ヴィシュタルはどうする?」

 ウェゼルニルは、白い兜を被りながら聞いてくる。

「ぼくは船に戻り、本国に連絡を試みようと想う」

「あの様子じゃ、本国も無事とは想えませんが」

「だろうね」

 ヴィシュタルは、ウェゼルニルの言葉を否定できず、憮然とした。

 光の柱は、ネア・ガンディオンに起こった。そしてそれは、獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアの力の発露であり、聖皇の力そのものといっても過言ではなかった。かつてこの世界を作り替えた聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーン。その力の受け皿にして、器たる獅子神皇の力なのだ。

 ネア・ガンディオンがこの地上から消滅していたとしても、なんら不思議ではない。

 レオンガンドがそんなことをするはずもないのだが、だからといって、この胸騒ぎが消え去るわけもない。

 そもそも、光の柱による破滅的な攻撃すら、レオンガンドがするはずもないことなのだ。

 なにが起こっていたとしても、おかしくはなかった。



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