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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百三十五話 夢より淡く、現実よりも確かなもの(三)

 緑衣の女皇ラグナシア=エルム・ドラース。

 三界の竜王の一柱にして、維持と平衡を司るというが、実際には自由奔放であり、一所に留まらず、世界中を放浪する悪癖があることでほかの竜王たちに知られていた。ただし、三界の竜王の役割に従い、世界に干渉することはなく、ただ当てもなく飛び回っていただけだといい、そんなことになんの意味があるのかといえば、なんの意味もないのだろう。

 三界の竜王は、世界を管理するという重要極まりない役目を持つが、その役目が発揮されるのは、世界が滅亡に瀕したときだけなのだ。

 世界を滅亡から救うことこそが竜王たちの役割であり、それ以外では、世界に干渉することが許されなかった。そのため、彼らは何千年、何万年、いや、何億年という月日を、沈黙とともに過ごさなければならない。それがどれほど虚しく、意味のない日々であってもだ。

 ラグナに放浪癖があったのは、そんな虚しい日々に多少なりとも変化をもたらしたいという想いがあったからではないか。

 そんなことを考えるが、案外、なにも考えていなかったのかもしれない、とも想わないではない。

 ラグナと皆の会話を聞いていると、そう考えざるを得なかった。

「船ごと乗ってもまったくもって平気だもの……大きくなったっていう次元じゃないわ」

 ファリアがいったとおり、ラグナの広大といっても過言ではない背中にウルクナクト号は着船していた。その上で、飛行するラグナから振り落とされないように背中の突起と船体を紐で結んで固定しているのだが、船の大きさに比較すると、ますますラグナの巨大さが圧倒的と想わざるを得なくなる。人間が米粒程度になるのも当然といえる。ウルクナクト号と比較してすら小さいのが人間なのだ。そのウルクナクト号を乗せても余裕があるラグナの背の広さは、彼女がどれほど巨大なのかを思い知らせるようだった。

 船からラグナの背に降りた皆は、背中から首を辿り、頭の上に集まっている。その移動だけで結構な距離があり、ルウファがシルフィードフェザーを用い、ウルク、イル、エルが魔晶人形の飛行能力を駆使したりして、皆を運搬する必要があった。

 そうしてようやく全員がラグナの頭上に揃ったころには、日が傾き始めていた。

「ふふん、そうじゃろうそうじゃろう」

 ラグナは、とても誇らしげだった。小飛竜のころとは違うのだ、とでもいいたげでもある。

「でも、そうよね。“大破壊”の力を吸い取ったんだものね。これくらい大きくなって当然よね」

「“大破壊”?」

「大陸を引き裂いた天変地異のことよ。便宜上、そう呼んでいるの」

「なるほどのう」

「ありがとう、ラグナ」

「唐突に、なんじゃ?」

「あなたが“大破壊”の被害を小さくしてくれたって、聞いたのよ。あなたのおかげで救われた命もたくさんあるってこと」

「わしにそんなつもりはなかったからのう。褒められても、釈然とせぬ」

「ラグナらしいわね」

 ファリアが微笑むと、ラグナはなんともいいようのない顔をしたに違いない。

 ラグナはファリアの表情を見ていないし、ファリアもラグナの顔を見ることは出来ないが、それでも互いに心は通じ合っている。

 

「本当、大きくなったわねえ。昔はあんなに可愛かったのに」

 とは、ミリュウだ。頭の上からではその巨大な体の一部しか見渡せないが、遠目に見れば、ラグナの全体像がはっきりとわかる。ウルクナクト号に乗っている間、セツナたちは、ラグナの威厳と迫力に満ちた強面をしかりと見ていたのだ。その姿は、確かに愛嬌の塊だった小飛竜態のラグナとは似ても似つかぬものだ。

 緑衣の女皇には相応しいものだろうが。

「まるで可愛くなくなったようにいう」

「可愛くはないわよ」

「なんじゃと」

 愕然とするラグナに対し、ミリュウが苦笑を浮かべた。

「むしろ厳つくて怖いくらいよ。ラングウィン様を見習ってほしいわね」

「どういうことじゃ!? セツナ!」

「なんで俺に聞く」

 セツナは、突然話を振られて、困惑するほかなかった。

「おぬしはどう想うのじゃ!?」

「可愛いよ、ラグナ」

「ならばよいのじゃ!」

「相変わらずねえ」

「おまえも変わらねえだろ」

「なにかいった?」

「いいや」

 ミリュウの半眼がますますファリアに似てきたと想いながら、セツナは目を逸らした。


「おっきくなったね! ラグナちゃん!」

 そう呼びかけたのは、エリナだ。

「おぬし、エリナか。大きくなったのう」

「成長したんだよ!」

「わしもじゃ!」

「成長しすぎだよ!」

 エリナが大笑いすると、ラグナも一緒になって笑った。

「でも、これだけ大きいと、一緒に遊べないね」

 多少の落胆を込めて話しかけたのは、エリナだ。エリナは昔、ラグナと一緒になって遊び回っていた。そのころの記憶は、夢の光景となって虚空に投影されていたことからも、ラグナにとっても大切な記憶だったのだろう。ラグナも、口惜しげにうめいた。

「むう……それは困りものじゃな」

 仲の良いふたりにとっては死活問題だったのかもしれない。しばし、沈黙がふたりの間に横たわった。すると、不意にエリナがなにかを思いついたようだった。

「小さくなれたりしないの?」

「ふむ、その手があったか」

「なれるんだ?」

「うむ。変身くらい、児戯のようなものじゃ。あとで見せてやるとしようではないか」

「わあい、楽しみ!」

 エリナが全力で喜ぶ様を見て、セツナも自分のことのように嬉しくなった。

 ラグナがいて、皆がいる。

 これほど喜ばしいことはない。


「これでは先輩風を吹かせるのも考え物ですね」

 レムがラグナの巨躯を見遣りながら、冗談めかしていった。もちろん、レムにそんなつもりはあるまい。彼女は、相手がだれであれ、下僕に関する序列には厳しかった。セツナの下僕となった以上は、主たるセツナを立て、下僕同士の序列には従わなければならない――そんな掟が、彼女の中にあるのだろう。もっとも、だからといってラグナやウルクに対し、権力を振るうというようなことはなく、あくまで下僕間の序列に関して口うるさいだけだというのが、レムらしいといえばレムらしいといえるだろう。

 ラグナが鼻で笑う。

「なにをいうか、先輩。わしはいまも下僕弐号ぞ。なあ、後輩よ」

「はい、先輩。こうして姿形は変われども、無事再会できたこと、大変喜ばしく存じます」

 ウルクが恭しく頭を下げると、イルとエルが真似をした。

「ふふふ……さすがは後輩よ。おぬしも変わったな?」

「はい。この弐號躯体は、壱號躯体よりも遙かに強力になっています。残念ながら、現状では全力を出すこともままなりませんが……」

「そうか……それは残念じゃな」

「ですが、必ずや修復し、セツナの下僕参号として完璧になりましょう」

「うむ。その意気じゃ」

 ラグナが力強くいうと、ウルクがうなずく。その様子を眺めているのがレムだ。彼女は、満足げに微笑んでいた。

「ふふふ」

「どうした?」

「嬉しいのです。こうしてまた、ラグナ、ウルクとともに御主人様に仕えることができる日がくるだなんて」

「伍号と陸号もいますよ、先輩」

「伍号と陸号、じゃと」

「はい、先輩」

 ウルクは静かにうなずくと、イルとエルの説明を始めた。

 その様子を横目に見ながら、セツナは、彼女たちの関係が良好であることに安堵した。

 

「あの小飛竜がこんなにでっかくなって」

 シーラは、ラグナの頭の上に座り込み、その頭部を手で撫でながら呆れるようにいった。

「シーラは相変わらずじゃな。セツナも喜んでいることじゃろう」

「どういうことだよ」

 シーラの疑問は、セツナの疑問でもあったが、ラグナの返答によって氷解する。

「セツナは胸の大きい女子が好きじゃというぞ」

「なんの話だ!?」

(なにいってんだあいつ)

 セツナは話に割り込みたい衝動に駆られたが、黙り込んだ。

「故にわしも胸の大きな女子に変身してじゃな」

「……なるほど、そういうことだったのか」

「しかし、人間というのは窮屈じゃったな」

「なにがだ?」

「わざわざ服などを着ねばならんじゃろ。わしにはあれがどうにも」

「だからって裸でセツナに迫るなっての」

 シーラが憮然と告げたのは、夢の光景にその瞬間を見たからだ。そのことでこってり絞られたのはセツナだが、あれは不可抗力だったことについては、いまもそう信じている。実際、ラグナが人間態となり、裸のまま行動するなど、だれが想像できるのか。

「セツナもそういっておったが、なぜじゃ。いまのわしは裸じゃぞ」

「そりゃあそうだけどさ」

 シーラは、返答に窮した挙げ句、セツナに助けを求めるように視線を向けてきた。

 セツナは、仕方なく話に割り込んだが、ラグナが持論を変えることはなかった。

 それはそうだろう。

 竜の強靱な肉体に衣服は不要であり、その変身である人間態もまた、同じなのだ。羞恥心など存在しないラグナに衣服の必要性を説いても、無意味だ。


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