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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百十三話 接近禁止領域(三)

 甲高い警報音に叩き起こされ、セツナははっと目を見開いた。

「なんだ!?」

 セツナが叫んだのは、そもそもウルクナクト号に警報装置が搭載されており、警報音が鳴り響く仕様を知らなかったこともあれば、いつの間にか眠りこけていた自分自身の不甲斐なさに対してでもあった。興奮のあまり眠れないと想っていたのも束の間、船が飛び始めてしばらくすると、いつの間にか寝入っていたらしい。夢さえ見ている。その夢の心地よさは、警報音の不快さに消し飛ばされたものの、警報音とはそういうものだろう。耳心地の良い音ならば、警報にはならない。

 そして、セツナはいつの間にか自室の寝台に寝転がっていたことに気づき、愕然とした。意識を失う直前まで機関室にいたはずだが、その辺りの記憶が判然としない。

(部屋に戻って寝た……のか?)

 しかし、だとすれば、自分の意思で機関室を出て、ここまで歩いてきたことになる。が、そんな記憶もなければ、あの興奮状態ではそんな判断を取るはずもない。なにかがおかしい。不自然だ。

 そう考えている間にも、警報音は途切れることなく鳴り続けている。

 そして不愉快な警報音は、心を焦らせるには十分な力があった。

 急いで寝台を飛び降り、部屋を出れば、隣り合った部屋の扉が勢いよく開かれ、同じように飛び出してくるものたちが続々といた。ファリア、ミリュウ、シーラ、エリナ、エリルアルム、ダルクスなどなど。

「なんなのこの音!?」

「うるせえ!」

『あー、聞こえるかね諸君』

 そのとき、どこからともなく響いてきたのは、マユリ神の声だった。腕輪型通信器でもなければ、脳に響く神の聲でもない。なにかしらの船の機能。いま鳴り響いている不快感極まる警報音と同じ、セツナたちの知らない機能のひとつだろう。そうとしか、考えられない。

「マユリんでしょ、この音!」

 ミリュウが腕輪型通信機に向かってがなり立てた。

『うむ』

「うむじゃないわよ!? なんなのよ、この不快な音!」

『警報装置の試験運用だ。寝入っている諸君を叩き起こせるかどうか、実際に試しておく必要があったのでな』

 すると、警報音が鳴り止んだ。が、残響音が耳の奥に鳴り響いているような、そんな不快感が残っている。すぐには綺麗さっぱり消えてなくなるようなことはなさそうだった。

『つい先日、ウルクナクト号の改修中に発見した機能でな。元々この船に備わっていた機能だ。いま現在わたしが使っている船内放送もだ』

「船内放送……」

『機能についての詳しい話は後にするが、緊急事態だ。非戦闘員は速やかに機関室に集合し、わたしの庇護下に入れ。戦闘員は、甲板に向かうのだ』

「つまり敵襲ってこと?」

『わからん』

「はい?」

「警戒しとけってことだろ」

「なーる」

「よし、それなら急ぐぜ」

 ひとり納得するミリュウの隣でシーラが息巻く。

「お母さん、急がなくていいからね、こけないようにだけ注意してね!」

「あらあら、そこまで心配されるいわれはないと想うのだけれど……うふふ、心配性ね、エリナちゃんったら」

「お母さんが心配なだけだよ……」

 仲の良い親子のやり取りを聞きながら、セツナは全員に目配せした。非戦闘員は、ミレーヌ、ゲイン、ネミアの三名だけだ。逆に戦闘員となると、それ以外の全員ということになる。セツナ、ファリア、ルウファ、ミリュウ、シーラ、エリナ、エスク、ダルクス、エリルアルムと彼女率いる銀蒼天馬騎士団の騎士たち。

 ちなみにだが、ザルワーン島脱出の際、銀蒼天馬騎士団の全員がウルクナクト号に乗船したわけではない。総勢五千名を誇る銀蒼天馬騎士団のうち、ほとんどが龍府に残り、エリルアルムが選んだ精鋭五十名あまりが船に乗り込んでいるのだ。五千名全員を船に乗せることはできなくもなかったし、戦力的には欲しいことこの上なかったのだが、いかんせん、時間的余裕もなければ、グレイシアら龍府に残ったひとびとのこともあったからなのだ。

 グレイシアやリノンクレアを始め、龍府にはセツナたちの知り合いが数多く残っている。シーラの弟セイルもそうだし、ミリュウの兄や弟もいる。龍府のガンディア仮政府は、ネア・ガンディアに合流することを選択し、それによって滅びを免れたとはいえ、ネア・ガンディアがどのような行動を取るのかわかったものではない。万が一の場合に備え、グレイシアたちの身辺に戦力を残しておくのは当然の配慮だった。

 とはいえ、ネア・ガンディアの絶大な戦力を前に武装召喚師たちですらなにができるのかといえば、疑問の残るところではあるが、少なくとも、グレイシアたちの心を支えることはできるだろう。

 乗船した五十名のうち、五名が武装召喚師であり、黒獣隊が用いていた召喚武装の使い手が二名いる。統一ザイオン帝国から譲り受けた召喚武装の使い手として、日々、研鑽の日々を送っているものもいる。譲り受けた召喚武装は二桁を数えるが、それらを使いこなせるものが現れるかどうかは未知数であり、すべてに使い道があるかどうかも不明だった。

 もっとも、そのおかげで戦力が増強されていることはいうまでもない。

 レム、ウルク、イル、エルの四人がいないことが気になったが、どうやらマユリ神に雑用を押しつけられていたらしいことが船内放送越しに漏れ聞こえてくる会話からわかった。機関室でなにがしかの作業をしているようだ。

 セツナたちは、それぞれに自身の状態を確認したのち、甲板へ急いだ。

 

「ところで、ひとつ聞きたいことがあるんですが」

 セツナが問うたのは、甲板への移動中のことだ。

『わたしにか?』

「はい」

『なんだ? いまは緊急事態だぞ』

 マユリ神がいつになく冷ややかに告げてきたが、当然の反応だ。いまはそんなことよりも甲板に急ぐべきだ。そんなことはセツナもわかっている。

「まあ、あとでもいいんですけどね。気になって」

「なになに? セツナが気になることが気になるんだけど」

「あなたは前を向いて走りなさい」

「ああん、あたしはセツナだけを見つめていたいのよう」

「はいはい」

 取り合わず、ミリュウをセツナから引き離そうとするファリアに対し、内心感謝しながら通信器に目を向ける。船内放送は、一方通行でしかないのだ。一方、腕輪型通信器は女神と直接言葉を交わすことができるという点では優れものだ。ただ、船内にいる乗船員全員になにかを伝えるとすれば、船内放送のほうが効率的だろう。

 腕輪型通信器は、全員が身につけているものではない。

「俺が部屋で寝ていたのはどういうわけでしょう?」

『なぜそれをわたしに問う。自分で戻ったのだろう』

「冗談を。俺は意識を失う寸前まで機関室にいたはずです」

『それが思い違いという可能性は――』

『マユリ様のおかげでございますよ、御主人様』

 と、放送に割り込んできたのは、レムだ。

『ひとがせっかくだな』

『マユリ様は神様でございます』

『そういうことをいっているわけでは……』

「なるほど。俺たちを強制的に眠らせたってわけか」

 そして、それぞれの部屋に空間転移術で送り届けた、というところだろう。それならば、辻褄は合う。ラグナとの再会を目前にして興奮状態だったのが突如として意識を失ったのも、自分の部屋で目を覚ましたのも、すべて納得のいくことになる。そして、なぜ女神がそのようなことをしたのかの理由についても、想像がついた。

 女神は、心配性だ。

「えー、なんでそんなことするのよう?」

 ミリュウが驚きに満ちた声を上げたものの、セツナには理解の出来る行動だった。

「俺たちのことを心配してくださったんだろう。人間にとって睡眠は大切だからな。ですよね?」

『まあ、そういうことだ。おまえたちはなにごとも気負い過ぎるきらいがある』

 マユリ神は、嘆息とともに告げてきた。

『ラグナシアとの再会が嬉しいのはわかるが、だからといって眠らずに気を張り続けるのは、結局、状況を悪化させるだけのことだろう。ならば、強制的にでも眠らせるべきだと判断したのだ。悪いとは想ったが……背に腹は代えられぬ』

 女神の告白を聞きながら、セツナは、その気遣いと優しさに感謝した。

 どれくらい眠っていたのかわからないが、それでも、眠る前より体調も精神状態も良くなっているような、そんな気がした。


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