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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百八話 白銀纏う霊帝(四)


「それで、なにをしてくれるのかしら? 三界の竜王様は」

「俺たちに力を貸してくれるのなら、なんであれありがたい話ですが」

 ミリュウが仰ぎ見る隣で、セツナもまた、ラングウィンを見上げていた。山のように巨大な竜は、遙かなる高みより地上を睥睨するかのようにこちらを見下ろしている。そのまなざしは穏やかで、限りない慈しみに満ちており、セツナは、一瞬でも彼女に怒りを覚えたことを反省する想いだった。ラングウィンの表情、言動を見れば、彼女がラグナを否定するわけがないことくらい想像できそうなものだった。だのに、そういったことをまったく考えられなくなっていた。いまどこにいるかもわからないラグナのことだ。そうなるのも仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが、だとしても、もう少し冷静さを保つように努力するべきだろう。

「……あなたがたに力を貸すことが、この世界をより良い方向に導く数少ない方法だと、わたくしは考えています」

 ラングウィンは、柔らかな口調でいってきた。その声音は、果てなき大海のような広大さを感じさせ、揺るぎなき大地のような暖かさを想わせる。母性そのものといってもいいのかもしれない。彼女の声を聞いているだけで心が落ち着き、安定していくような、そんな感覚。錯覚ではあるまい。魔法の作用かもしれないが。

「世界を滅ぼさんとした聖皇復活の儀式の完成が妨げられたことにより、世界は救われました。しかし同時に甚大な損害を被り、多くの命が奪われ、いまもなお失われ続けています。かつて世界を包み込んでいた結界が消え去ったことで、神威が満ち溢れ、猛毒となって世界を蝕んでいることも、そう。この世は、イルス・ヴァレは、いままさに存亡の窮地に立たされているのです」

「……その災禍の中心にいるのは、獅子神皇と呼ばれるものです」

「そうですね。ネア・ガンディアの獅子神皇こそ、聖皇復活の儀式によって召喚された聖皇の力、その受け皿となった存在であり、この混沌たる現状を生み出した原因であることに間違いありません。獅子神皇は、神々や神に匹敵する力を持つものたちを従え、その絶大な戦力でもってこの世界を征服するつもりなのでしょうが、その果てに待っているのは、まごう事なき終焉です」

「ネア・ガンディアが世界を征服した先に未来はない、と、そう仰りたいのですね?」

「聖皇の力の受け皿である以上、そうなるでしょう」

 ラングウィンは、断言する。

「それに、獅子神皇には、聖皇の力を御しきることはできない」

「なぜ、そう言い切れるのです?」

「獅子神皇は、器に過ぎません。それも、仮初め、一時凌ぎのもの。聖皇は、ミエンディアと名乗ったあの娘は、百万世界に通じ、繋がることで、莫大な力を得ていました。百万世界に繋がる力を持たない獅子神皇では、聖皇の力を完全に制御することは出来ず、力に飲まれ、我を失う。そうなればもはや手の施しようもなくなる」

「だから、そうなる前に獅子神皇を討ち滅ぼすべき、ってことか」

 獅子神皇を討滅するのは決まっていたことではあったが、より決定的なものを突きつけられた気がした。獅子神皇を野放しにすれば、世界の破滅は免れ得ないのであれば、斃す以外の道はないのだ。どのみち戦い、斃し、滅ぼすしかないとはいえ、決定的だった。

「そして、そのためにはセツナと黒き矛の力が必要不可欠……」

「そういうことです。無論、セツナひとりの力では、足りません。皆さんのお力が必要なのです」

 ラングウィンが請うようにいってきたが、セツナこそ、希いたかった。現有戦力では、あまりにも足りなさすぎるのだ。セツナが無限に長く戦い続けられるというのであれば話は別だが、完全武装状態を維持したまま何十時間も戦い続けられない以上、ネア・ガンディアの戦力を引き受けられるだけの戦力が必要だった。現状では、とてもではないが、ネア・ガンディアの防衛網を突破できる自信はない。

 そも、ネア・ガンディアの本拠地がどこにあるのかも不明ではあるが。

「俺たちだけでも、まだまだ足りません。ネア・ガンディアの戦力を破り、獅子神皇に刃を突きつけるには……まだ」

「そのためにこそ、あなたを呼んだのです。セツナ」

「そのため……?」

「そうよ、それよ。ラングウィン様がどうしてセツナを呼んだのか、ずっと気になっていたのよ」

「それに、御主人様のことをラグナから聞いたという話も、引っかかっているのですが」

「ああ、そうだ。ラグナだ。ラグナのことだ」

 レムとシーラの疑問は、セツナにとっての疑問でもあった。ラングウィンは、セツナのことをラグナから聞いたというようなことをいっていたのだ。それは、ラグナがセツナたちと出逢い、行動を供にするようになった以降のことであるはずだ。だが、ラグナがラングウィンと話し合える機会など、セツナたちと一緒にいるときにはなかったことであり、それはつまり――と、そこまで考え、彼はラングウィンに問うた。

「……ラングウィン様は、先程俺のことをラグナから聞いたと仰っていましたが、ラグナと、どこかで逢ったのですか?」

「はい」

 ラングウィンの返答は簡素なものだ。しかし、その声音には力強さがある。少なくとも嘘をついているようには聞こえなかった。そもそもこの状況でラングウィンがセツナたちに嘘をつく必要性はなく、疑うまでもない。

「じゃあっ……!」

「ラグナがどこかにいる!?」

「生まれ変わることに成功したってことね!?」

 皆が喜悦に満ちた声を上げる中、ラングウィンが嬉しそうに目を細めた。その反応を見ても、嘘はない。すべて真実のようだ。

「わたくしたち三界の竜王は、世界の管理者として、存在し続けることを宿命づけられた転生竜。どのような滅びを迎えようとも、必ずや生まれ変わり、誕生するさだめ。ラグナシアもまた、セツナのために命を燃やしたのち、世界をさまよい、力を集め、再び生を受けたのです」

「やっぱり!」

「ラグナが……生きて……!」

「どこにいるのでしょう? 」

 セツナもそうだが、甲板上にいて、ラグナのことをよく知っているものは皆、歓喜に満ちた反応をした。それはそうだろう。ラグナを失ってから長い年月が過ぎたいまもなお、彼女が残した想いは、セツナたちの胸の中にいまもなお息づいている。愛らしい小飛竜との日常から戦いに至るまで、様々な記憶が脳裏を過ぎり、心を感動で埋め尽くす。

 ずっと、逢いたかった。

 いつだって、すぐにでも探しに行きたかった。

 ラグナは、ラングウィンがいったように転生竜だ。死は絶対的なものではなく、むしろ仮初めめいており、

必ずや生まれ変わるものと宿命づけられているという。その話は散々聞いたし、疑いはしなかった。だが、それでも、ラグナに関してなんの情報もないままに過ぎていくだけの日々というのは、ただただ辛いものがあったのもまた、事実なのだ。本当に生まれ変われるのか。もしかしたら、転生の回数に制限があり、あれが最後の命だったのではないか。そんなことまで考えていた。

 それがたったいま、ラングウィンによって回答が示されたのだ。

 喜びに沸き立つのも当然のことだった。

「ぬか喜びはさせたくないので、落ち着いて聞いてください」

 忠告にも等しい発言に、セツナは、ラングウィンの目を見つめることにした。宝石のような淡く輝く瞳は、柔らかにこちらを見守るかのようにそこにある。

「……なんでしょう?」

「わたくしは、ラグナシアに教えてもらったといいましたが、ラグナシアから直接話を聞いたわけではありません」

「どういうこと?」

「わたくしは、ラグナシアが見せる夢の中にあなたがたとの触れ合いを見、ラグナシアがセツナに寄せる信頼、親愛を見ました。故にセツナ、あなたをここに呼んだ。わたくしでは、ラグナシアを夢から目覚めさせることができなかったのです」

「夢……?」

「目覚めない?」

「はい」

 ラングウィンが穏やかに、そして厳かにうなずいた。

「ラグナシアは、夢の中にいます」

 銀衣の霊帝は、その長大な頭部を大きく巡らせた。

 北を、見遣った。


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