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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千八百話 竜の庭へ(三)


 船は、“竜の庭”を目指して、空を飛んでいる。

 蒼白衣の狂女王ラムレシア=ユーファ・ドラースの眷属たる飛竜たちが空を映す視界に入り込むのが少し不思議な気分だった。そもそも、空飛ぶ船に乗っているという事自体、普通の経験ではなかったし、中々に異様な感覚があった。ただ、不安は一切ない。セツナたちが長い間乗ってきて、一度たりとも墜落したことがないという話もあるが、それ以上に安定感があった。それに神々の加護もある。

 そして、たとえ船が墜ちるようなことがあったとしても、彼には翼がある。

(翼か……)

 シルフィードフェザー。

 彼がそう名付けた召喚武装は、当然、いま現在召喚しているわけではない。在るべき世界のどこかにいるはずだ。そして、彼の召喚を待ちわびている、ということもあるまい。召喚武装には意思があり、生きている武器防具なのだ。契約者の召喚だけを生き甲斐にしているはずもない。

 とはいえ、心を通わせ合った間柄でもある。

 召喚には必ず応じてくれるし、そのときには最大限の力を貸してくれる。

 だが、その力をもってしても、獅徒には太刀打ちできなかった。

 シルフィードフェザーの最大能力を駆使しても、だ。全力を解き放ち、全身全霊でもって挑んだが、シルフィードフェザーだけでは手も足も出なかった。故にレイヴンズフェザーも召喚するという最終手段に出たのだが、その結果は、あの通りだ。

 あのザマに終わった。

 彼は、両手に強い痛みを覚えて、眼前に掲げてみた。手のひらに爪が食い込んだ痕があった。それもかなり強く食い込んでいる。あのときのことを振り返れば、様々な感情が吹き荒れ、力の制御が効かなくなるのも致し方のないことだろう。

 獅徒レミリオン。

 そう、処理しようとした。

 そうすることで、すべての感情に決着をつけ、記憶の奥底に封じ込めようとした。

 しかし、できなかった。

 獅徒がなにものであるのか、その正体については、大会議の際、セツナによって完全に明らかなものとなった。

 獅徒。

 獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアの使徒たるそれらは、死んだ人間の転生体であるという。獅徒の長ヴィシュタルがクオン=カミヤの転生体であるように、その配下ミズトリスは《白き盾》幹部のひとりであるイリスの転生体であり、ウェゼルニルはウォルド=マスティアの転生体だということだった。そして、獅徒レミリオンは、ロナン=バルガザールの転生体だ。

 転生。

 つまり、獅子神皇の力によって、生まれ変わったのだ。

 そして、レミリオンは、二度目の死を迎えることになった。

(二度……死んだ)

 そのことを考えるたび、彼は、心は凍てつくように灼け焦げ、耐え難い苦痛に襲われた。

 獅徒レミリオンは、ロナン=バルガザールとして死に、獅徒レミリオンとしても死んだのだ。その際、だれが殺したかについては、考えることはない。考えるべきは、彼の愛しい弟が二度も死ななければならなくなったというその事実についてだ。

 ロナンが最初に死んだままならそれで良かったのか、と、聞かれれば、なんともいいようがない。しかし、彼の二度目の生が、獅徒レミリオンとしての生がロナンの望んだものであり、幸福なものだったかどうかなど、考えるまでもなくわかることだ。

 レミリオンは、幸福ではなかった。

 むしろ、滅びゆく中でこそ、幸福感に満ちていた。

 それはつまりどういうことなのか。

 彼は、滅びるために生き急ぎ、リョハンを訪れたとしか考えられなかった。二度に渡ってネア・ガンディアの軍勢を退けたリョハンならば、獅徒となり、人知を越える力を得た自分を滅ぼせるのではないか、と、そう考えるに至ったのではないか。だから、リョハンを攻撃した。

 そう考えれば、色々と辻褄が合うのだ。

 レミリオンが本気ならば、ルウファは殺されていたはずだ。ルウファだけではない。空中都において迎撃に赴いた全武装召喚師は、レミリオンの前に身動きひとつできなくなったのだ。レミリオンにその気があれば、五百人どころか、二千五百人を殺し尽くすことも不可能ではなかった。だが、彼はそうしなかった。それはまるで自分を止めて欲しがっているような行動にも考えられた。

 獅徒として転生し、絶大な力と無限に近い命を得たレミリオンがなぜそのような行動を取り、あのような結末を迎えたのか。

 彼がなにをそう駆り立てたのか。

(ネア・ガンディア……)

 すべては、そこに行き着く。

 神々の国ネア・ガンディア。

 神々の王とも呼ばれる獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアは、セツナたちによれば、その名の通り、レオンガンド・レイ=ガンディアそっくりそのままの姿をしているといい、同じなのは姿形だけではないというが、ルウファにはどうでもいいことだった。もちろん、ルウファにとってレオンガンドは、偉大な王であり、彼に生きる道を指し示してくれた主君であり、忠誠を誓った相手であることに違いはない。たとえばいま目の前にレオンガンド本人が現れ、力を貸して欲しいといわれれば、逡巡なく応じることだろう。バルガザール家の人間として当然のことだ。

 だがしかし、獅子神皇は、レオンガンドそのひとではないことがセツナによって明かされた。

 獅子神皇は、聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーンの力の器だというのだ。

 かつて、この世界にはたったひとつの大陸があった。そこには三つの大勢力と無数の小国家が存在し、彼の生まれ育ったガンディアも小国家のひとつだった。その大陸の歴史に終止符を打ったのは、“大破壊”と呼ばれる天変地異だ。大陸をでたらめに引き裂いたそれは、聖皇復活の儀式を食い止めたために起きたことだという。

 そもそも、なぜ、聖皇復活の儀式なるものが行われたのかといえば、聖皇によって召喚された神々が在るべき世界に還るため、聖皇の協力を必要としたからだ。聖皇によって送還されなければ、世界に留まり続けなければならない。そうして、五百年もの長きに渡ってこの世界に縛り付けられてきた神々には、同情の余地はある。が、だからといって、大陸全土を戦場に変え、血と死、破壊と殺戮を撒き散らした神々を許す必要もない。そして、大陸そのものを破壊し尽くす原因ともなった神々には怒りを禁じ得なかった。

 しかしながら、神々の目論見は、失敗に終わった。

 クオン=カミヤらが儀式を食い止めたからだ。

 儀式は失敗に終わり、だが、それですべてが丸く収まったわけではなかった。

 聖皇の力そのものは召喚されてしまったのだ。そして、その莫大な力が大陸を破壊した。世界をばらばらにするほどの力は、当然、儀式を食い止めたものたちの命を奪い去った。ロナンも、レオンガンドも、そのときに死んだのだろう。おそらくは、あのとき王都の地下に逃げ隠れていたひとびとも、皆、死んだはずだ。王都ガンディアは、“大破壊”の中心、爆心地だった。破壊の力が最大限吹き荒れた場所だ。だれひとり生き残れなかったに違いない。

 そして、暴走する聖皇の力がその器として選んだのが、レオンガンドだったという。

 レオンガンドは、神々の王として転生し、獅子神皇を名乗った。獅子神皇の力によって獅徒や神将がつぎつぎと誕生し、神々もまた、獅子神皇に付き従っていったのだ。

 そうして、ネア・ガンディアが誕生した。

 獅徒レミリオンも、その中で生まれたのだ。

 彼は、倒すべき敵を見つけた。

 だから、彼はここにいる。



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