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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百九十二話 それぞれの望み(六)


 十一月十一日。

 つまり、レムとの逢瀬の翌日だ。レムとの遺構巡りは夕刻まで続き、御陵屋敷に戻ってもふたりきりの時間を満喫している。レムは一日中セツナを振り回せたことで満足したらしく、幸福感に満ちた寝顔を見せたものだ。

 それはともかく、今日は、シーラの日だった。シーラがなにを願い、なにを望むのか、それは気になるところだったし、楽しみでもあった。前日のレム、前々日のミリュウとそれぞれ異なる一日を過ごしたこともあり、セツナはもはやすべてを全力で楽しむ心構えになっていたのだ。もはやなんでも来いだった。なにが来ても動じることはない、そう考えていた。

 だが、しかし。

「シ、シーラ……?」

 セツナは、朝食を終えた後、自室に訪れたシーラの姿を見て、言葉を失った。

 シーラは、普段、女性的な格好よりは男性的な格好を好んだ。肌の露出はまったくなく、スカートの類もまったく履かなかった。そのほうがいざというとき動きやすく、戦いやすいからというのは本音でもあるのだろうが。そんな彼女が、丈が長いとはいえスカートを履いているというだけで衝撃を受けるのは、致し方のないところだ。

「なんだよ……なにか文句でもあるのかよ……」

 シーラは、セツナの反応を見て、顔を赤らめた。

「い、いや、ない、ないよ、うん」

「似合わねえとか想ってんだろ」

「んなこたあねえよ……」

(むしろ似合い過ぎてだな)

 セツナは、シーラが美女であることを再確認させられる想いがした。いや、元々わかりきっていたことだ。美女たちに囲まれて感覚や認識がおかしくなっていたのだろう。慣れ、というものがいかに恐ろしく、凶悪なのかを思い知る。そして、その慣れを打破するような一撃を受けると、並々ならぬ衝撃を受けるらしい。

 というのも、シーラは、特別な格好をしているわけではないのだ。ただ、女性らしい衣服を身につけているというだけに過ぎない。寒さ対策も万全な厚着であり、肌を露出しているわけでもない。だのに、セツナが衝撃を受けるのは、彼女が常日頃、女性らしさとは無縁の格好をしているからだ。

 しかし、いま部屋の前にいるシーラは、女性らしい衣服を着込み、化粧をして、髪を整えているという、普段の彼女からはまったく想像もつかない姿だった。それもどうなのかと想わないではないが、普段の格好は、彼女が好き好んでしていることであり、それを見咎めるほうがおかしいだろう。彼女には彼女の趣味趣向というものがあり、それが場にそぐわないものでもない限り、強制的に変更させる必要はない。

 そんな彼女が、美々しく着飾って現れたのだ。

 セツナが目を丸くするのも当然だった。


 ふたり連れ立って御陵屋敷の廊下を歩いていると、視線を感じることがある。ミリュウらレムが物陰からこちらの様子を盗み見ているに違いなく、いま現在のシーラの姿に驚嘆しているのではないだろうか。シーラが常ならぬ格好をしていることで、注目を集めざるを得ないのだ。

 そんなシーラはというと、視線には一切気づいていない様子だった。緊張しきっている。

「この数日、悩みに悩んで眠れぬ日々を送ったぜ」

「そ、そうか……」

 実際、シーラの顔には寝不足であることが如実に表れていて、セツナはなんだか心苦しくなった。彼女は、ミリュウやレムのように企画を考えるのが好きな人間ではないのだ。しかも、それがセツナを好きにしていいとなると、彼女の場合、考えが中々纏まらなかったのではないか。彼女は、セツナへの好意や愛情を隠してはいないが、だからといってそれを人前に臆せず出せるほど厚顔ではなかったし、むしろ奥ゆかしく消極的な人物だった。

「なんでも聞いてくれるっていうからいろいろ考えたんだぜ?」

「うん」

「本当にさ、悪い頭を総動員して、考えに考え抜いたんだ」

「ああ」

「あ、いま、俺の頭が悪いってこと肯定したな?」

「なにいってんだよ」

「へへ、冗談」

 わかりきったことをいって屈託なく笑うシーラの横顔は、目に痛いほどに眩しい。彼女は、いまこの瞬間を思い切り楽しんでいるようだ。それがわかっただけで、セツナはほっと胸を撫で下ろした。彼女がこの時間を苦痛に想うようなことがあれば、どうしようかと考えていたところだったのだ。そんなことはないだろう、とは、考えられない。趣味趣向は、ひとぞれぞれだ。とはいえ、シーラが先の戦いで発奮してくれたのは、この約束があってのことなのは間違いないし、そのことを踏まえれば、不安に想う必要はなかったのだろうが。

「ま、いろいろ考えたんだけどよ、俺にはほかにはなんも思いつかなかったんだよ」

「ん?」

「船に行きたいんだ」

「船……ウルクナクト号か?」

 船といえば、ほかにはないが、一応、尋ねる。シーラは静かにうなずいた。

「うん。連れて行って……くれるよな?」

「構わないが……船でいいのか?」

「うん」

「わかった」

 ウルクナクト号は、いま現在、リョハンに停泊しているわけではない。そもそも、空中都の外縁部に無理矢理停泊していたようなものであり、空中都をリョフ山の内部に隠すとなったとき、ウルクナクト号は邪魔だということでリョフ山付近の渓谷に隠してあるのだ。

 戦いが終わっても、ウルクナクト号は動かしていない。というのも、リョハンがリョフ山内部に隠されたままだからであり、また、セツナたちが旅立つ準備をしている最中だからでもある。マユリ神だけは船とリョハンを行ったり来たりの日々を送っているものの、セツナたちは、船とは無縁の日々の中にいた。

 御陵屋敷からウルクナクト号まで移動するには、ひとの足では一日では足りないだろう。となれば、結論はひとつだ。

「武装召喚」

 セツナは、呪文を唱えると、メイルオブドーターを召喚し、身につけた。黒き軽鎧を装着した瞬間、夢の出来事が脳裏を過ぎったが、それも一瞬に過ぎない。つぎの瞬間には、セツナは当然のようにシーラの肩に手を回している。シーラは少し驚きこそしたが、すぐさまセツナに身を委ねた。

 飛んでいくのだ。

 シーラを連れて、飛んでいくには、背負うか抱き抱えるかだ。シーラに掴まってもらうという選択肢はない。

 シーラを抱き寄せるようにして抱えると、彼女もセツナの体に腕を回してしっかりとしがみついた。防御障壁がある。振り落とされることはないが、それでも高速で空を飛んでいく以上は不安にもなるというものだろう。

「さて、行くか」

「場所はわかってるよな?」

「当たり前だろ」

 小さく笑って、翅を広げる。闇色の蝶の翅は、薄らと透けており、禍々しくありながら、美しいといえなくもない。地獄の夢に現れた化身としてのメイルオブドーターは艶美な女だったが、その妖艶さを表現しているといってもいいのかもしれない。

 ふと、そんなことを考えたのは、夢を見て思い出してしまったからだ。

(いま思い出すことかよ)

 頭の中からこの間見た夢の出来事を掻き消したいと想うものの、そう上手くはいかなかった。ただ、現実のシーラを抱き抱えていると、夢想の中の実感というのは限りなく嘘くさいものであり、結局あれはただの妄想に過ぎず、現実でもなんでもなかったのだという確信を持てる。

「どうしたんだ?」

「ちょっとな」

「なんだよ、気になるだろ。話せよ。それとも……俺には話せないことなのか?」

「いや、そういうわけじゃあないんだが……」

 セツナは、シーラにせがまれて、仕方なく話すことにした。

 ウルクナクト号までは、それなりに距離がある。



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