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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百八十七話 それぞれの望み(一)


 日が、過ぎていく。

 一日、また一日と、特に問題があることもなく経過していく。

 体調は、一日しっかり休めば、完全に快復した。それこそ、昨日の疲れがなんだったのかと想うくらいの回復ぶりに自分自身が驚き、呆気に取られるほどだった。

『おまえの回復力には驚かされる。人間とは想えぬな』

 マユリ神が冗談交じりにそう評したほどだ。尋常ではない回復力は、無論、マユリ神を始めとする神々がなにかをしてくれたわけではない。回復したのは、肉体ではない。肉体の損耗に関しては、マユリ神が戦後すぐに癒やしてくれていたらしいのだ。その上で六日ほど眠り込んでいたのだから、精神的な消耗が大きすぎたということにほかならず、目覚めたあとも、うんざりするほどの疲労を覚えていたのもそのせいだ。

 それが一日休んだだけで回復したものだから、セツナは、自分で自分がわからなくなった。いや、それ自体は問題でもなんでもない。むしろ、一刻も早く回復し、行動を起こしたかったのだから、たった一日休むだけで済んだのは重畳としか言い様がないだろう。

 問題はない。

 少なくとも、いまは。

(いまは、な)

 回復すれば、待ち受けていたのは、挨拶回りだ。

 第三次リョハン防衛戦における事後処理はとうに終わっており、セツナがするべきことなどなにひとつなかったが、とはいえ、なにもせずにはいられなかった。

 彼はまず戦死者の慰霊碑に向かい、その死を悼んだ。獅徒レミリオンとの戦闘で数百名が命を落としている。だれひとり死なせることなく、完全無欠の勝利を得ることはかなわなかったということだ。慰霊碑を前に、セツナは、自分の戦術が正しかったのかどうか自問自答を繰り返した。犠牲を出さない勝利を得る方法もあったのではないか。

 死者が出た以上、完全勝利には程遠いのだ。

 だが、いまさら悔いたところで、どうにもならない。死者は出たのだし、時は戻らない。セツナにできることといえば、それら数多くの死を無駄にしないことだ。

 つまり、リョハンを護り抜くということ。

 つぎに守護神マリクと話し合った。

「全部君のおかげだよ、セツナ。ありがとう。心からの感謝を」

 マリク神は、本心からそう想ってくれているようであり、セツナはそれが嬉しかった。しかし、素直に感謝を受け取る一方で、自分ひとりの力では成し遂げられなかったことであり、死者が出た以上、手放しでは喜べないともいった。

「確かに死者は出た。けれども、五百名あまりの犠牲で済んだのは、むしろ賞賛に値することだと想うよ。少なくとも、ネア・ガンディアの猛攻を退け、完膚なきまでに叩き潰した上で、それだけの犠牲で済むだなんて普通は考えられないことだ」

「犠牲は、少なければ少ないほうがいい」

「それはそうだね。君のいうとおりさ」

 彼は、セツナの考えを否定せずに微笑んだ。

「でも、あまり思い詰めないほうがいい。君は、やれるだけのことをしたんだ。そして、このリョハンを護ってくれた。リョハンのひとびとが君にどれだけ感謝しているか、考えたことはあるかい?」

「……感謝されていることは、わかっているよ」

 宿所から戦宮へ移動するときも、マリク神に会いに来る途中も、そうだった。すれ違う一般市民は、彼がセツナ=カミヤであることを知ると、先の戦勝に関するセツナの貢献を褒め称え、中には歓喜のあまり涙を流すものまでいた。セツナは、そういった光景を見慣れてはいたが、リョハンのひとびとの暖かな反応に、自分の戦いが無意味ではなかったことを知れたし、勝利できて本当に良かったと想ったものだ。だからこそ、なおさら、犠牲者が出たことに関して、考え込まざるを得ない。

「だったら、いまはそれだけでいいさ。リョハンは、君のおかげでいまも存在し、未来に向かって飛ぶことができるんだからね」

 マリク神との話し合いは、そこから、リョハンの今後の方針に関するものとなり、セツナは私見を述べた。

 ネア・ガンディアの軍勢に完勝したが、それでネア・ガンディアの方針に変化が起こるかどうかはいまのところなんともいえないというのが、セツナとマリク神、両者の考えるところだった。

 三度も敗れ去った以上、リョハンに拘り続けるということは、戦力を失い続けることだと考えを改め、今後はリョハンに手出しをしなくなるという可能性も皆無とは言い切れないが、これまで以上の戦力を投入し、今度こそリョハンを殲滅するべく動き出すかもしれないのだ。前者ならば喜ばしいことだが、後者ならば、現状の戦力でも如何ともしがたくなるだろう。

 その場合、第三次侵攻以上の戦力を投入してくるのは間違いないのだ。それも、完璧にリョハンを攻め滅ぼすための戦力だ。六柱どころではない数の神が投入されるだろうし、そうなればセツナたちが加わったところで対応できなくなるのは目に見えている。

 もっとも、その場合でも、数日以内に攻め寄せてくるようなことは考えにくい。ネア・ガンディアの戦力は膨大だ。だが、その戦力を世界中に差し向けている以上、リョハンに割くための戦力を確保するには、それなりの時間を要するはずであり、多少なりとも時間は稼げたはずだ。少なくともリョハンが準備をするだけの時間はあるだろう。

 リョハンは、食料物資を確保でき次第、飛翔船も届かない超高空を逃げ続けるのが一番だろう、というのがセツナの私見であり、マリク神の考えだった。

 つまり、意見の一致を見た、ということだ。

「そのためにはできる限り多くの食料を確保したいところなんだけど」

「手間取ってる?」

「まあ、心配はいらないさ。大陸中、いや、世界中から掻き集めている最中だからね」

 事実、リョハンには現在、大量の食料や様々な物資が運び込まれていた。周辺の都市のみならず、大陸中の都市を飛び回っては食料や物資を買い付け、リョハンに搬入しているのだ。その際、大活躍しているのがラムレシア=ユーファ・ドラースの眷属たる飛竜たちだ。

 飛竜たちは、ラムレシアの命令に従順であり、彼女が厳命すれば、人間たちを背に乗せて飛び回ることも嫌がらなかった。

 そうして、戦後から今日に至るまで、日々、様々な物資がリョハンの倉庫に運び込まれているというのだ。

 マリク神との会見を終えれば、つぎは戦女神による表彰が待っていた。

 第三次防衛戦におけるセツナの英雄的活躍を讃えるものであり、二度に渡って存亡の危機に瀕したリョハンを救ったセツナはリョハンの戦神と呼ぶに相応しく、護峰戦神の称号が授与され、セツナは素直に受け取った。戦神と呼ばれるだけの戦いぶりだったのは、自他共に認めることだ。なにせ、六柱の神々を圧倒し、討ち滅ぼしたのだ。神々をも凌ぎ、打倒して見せたのだから、戦神と呼ばれたところでなんの問題もあるまい。

 無論、自分が神に等しい存在であるなどと想ったことも、考えたこともないが。

 称号は称号に過ぎない。

 などとセツナは想っていたのだが、表彰について、ミリュウたちはまったく別の感想を持ったようだった。

「戦女神に相応しいのは戦神とか、そういうことよね、きっと」

「なるほど、そういうことか。やるなあ、ファリアも」

「さすがはファリア様でございます」

 ミリュウの着眼点に多いに納得したシーラとレムだったが、その後、三人の話を聞いたファリアは、ミリュウのいわんとしていることを察し、顔を真っ赤にして否定した。

「そんなこと、あるわけないでしょ!」

 


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