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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百八十一話 竜の話(四)


「彼女は、まず、世界を滅亡の淵に追いやるほどに加熱する諸族の戦いの原因がなんなのか、突き止めることから始めた。そのためにラグナシアとラングウィンも協力を惜しまなかった」

「ラムレス様は協力しなかった?」

「人間嫌いのラムレスがミエンダに協力するはずもないだろう。時間的猶予を与えただけでも十分すぎるくらいだ」

「……それもそうね」

 それほどまでに人間嫌いが徹底していたラムレスだったが、ユフィーリアとの出逢いで代わっていったのだから不思議なものだ。もっとも、ラムレスの人間嫌いは、ユフィーリア以外には発揮されていたし、ファリアが友好的に対応してもらえたのは、ユフィーリアが親友としてファリアを扱ってくれていたおかげだろう。つまり、ユフィーリアにだけ甘くなったというわけであり、人間嫌いが薄まったわけではない、とも考えられる。「ともかく、ミエンダは、諸族の戦いの原因が種族間の軋轢が原因であると突き止めた。人間、天人、地人、森人、鬼人、魔人――多種多様な種族は、外見や能力の違いで嫌い合い、憎み合ったのだ。中には協力し合う種族もいたようだが、その協力の向かう先もまた、他種族との闘争だった」

「……どこまでいっても闘争なのね」

「それが、諸族の時代だったのだ。ただ、それだけならばどうでもいいことだ。争いなど、どの時代、どのような種族にも存在したことだ。人間同士が相争うようにな」

「……そうね」

 否定できない言葉に、ファリアはなんともいえない顔になった。人間同士ですら血で血を洗う闘争を繰り返し、歴史を血で染め上げていくのだ。外見の異なる種族となれば、より一層激しさを増すものかもしれない。事実、人間は、外見だけで皇魔を忌み嫌い、皇魔と戦いの歴史を積み上げた。諸族を馬鹿にできるものではない。

「だが、その戦いが行き着くところまで行き……世界を滅ぼしかねないほどのものとなれば話は別だ。我々も介入せざるを得なくなる。世界が滅ぼされる前にすべてをやり直すべきだ、とな」

「でも、ミエンディアの登場によって、創世回帰は一時中断された……のよね」

「そうだ。そして、ミエンダは、強引なやり方で争いの火種を消し去ることに成功した。それによって、我々は創世回帰を行う必要がなくなった。しかし、それは喜ぶべきことだったのか、どうか」

「どういうこと?」

「ミエンダは、諸族をひとつの種族へと統合することで、種族間の軋轢を消し去ったのだ」

「……なるほど」

 その話を聞いて、ひとつ合点がいったことがある。

 それは、ワーグラーン大陸に人間以外の種族がいないということだ。天人属や地人属といった種族が数多にいたはずの時代から地続きなのが、現代だ。なのに、この地上には人間と数多の動植物、異世界の存在たる皇魔、皇神しかいない。そのことが以前から不思議だった。その疑問が解決するとともにミエンダの強引な解決策に唖然とする。確かに種族間の軋轢が最大の原因ならば、種族をひとつにすることで解決することもあるだろう。

 それは、ミリュウの話ではわからなかったことでもある。ミリュウが諸族について深く言及しなかったのは、レヴィアが知らなかったか、思い出せなかったかのどちらかだが、どちらでもいいことだ。

「でも、どうやって?」

「聖皇ミエンディアがなにを為したか、知らないわけじゃないだろう?」

「……神々の召喚」

 そして、それによって三界の竜王の怒りを買ったのだ。

「御名答。ミエンダは、六賢人の智慧と竜王の力を借り、召喚魔法を完成させた。異世界の神の力を借りることでこの世界の問題を解決するためにだ。そのためというのであれば、竜王たちも否やはない。この世界が創世回帰とは異なる方法で破滅から救われるのであれば、それに越したことはなかったのだ」

 彼女の話を聞く限りでは、三界の竜王たちは、決して喜んで創世回帰を行っていたわけではないとわかる。本当に最終手段であり、できる限り使いたくない方法だったのだろう。故に、ミエンダが現れ、彼女が解決策を提示したときには、全員が全員、歓喜したのかもしれない。その方法で創世回帰を行わずに済むのであれば、どれほど喜ばしいことか。

 だが、その想いは踏みにじられた。

「しかし、ミエンダがしたことは、創世回帰とは根本的に異なるとはいえ、本質的には似ていることだった。ミエンダは、異世界から召喚した神々の力を用い、世界を作り替えた。人型の種族を人間属へと作り替え、大地を一カ所に集め、ひとつの大陸ワーグラーンとした。海による隔絶もまた、闘争の火種になると考えたからだろう。そして、言語を共通化し、思想を共通化した。みずから聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーンと名乗ったのも、そのときだ」

「闘争の火種を消し去るためにすべてを圧縮し、統一した。それが聖皇による大陸統一の真実……だったわね」

 深いため息とともにつぶやく。

 ミリュウから聞いたときにはにわかには信じられなかった話だが、こうして三界の竜王に肯定されれば、話は別だろう。

「そういうことだ」

 ラムレシアが複雑そうな表情をした。

「そして、我々もまた、聖皇の力に支配された。つまり、三界の竜王としての役割を忘れ、記憶の大部分を封印されたのだ。我々が記憶を封じられずにいたならば、ミエンダが聖皇ミエンディアを名乗る前に討ち果たしていただろう」

「三界の竜王にとっては、許せないことだったわけね」

「当たり前だろう。確かに世界は救われた。破滅の火種は消え去ったからな。だが、あのものが行ったことは、世界の改変そのもの。世界を自分にとって都合のいいように作り替えたに過ぎない。我々の記憶までも封印し、自分の望む世界を構築しようとしていたのだ」

 彼女が、遠い目で窓の外を見遣った。まるで自分のその目で見てきたかのように語る彼女の横顔には、深い悲しみがある。

「ミエンダは、心優しい娘だった。ラグナシアが興味を持ち、ラングウィンが応援し、ラムレスが多少なりとも心を開くくらいにはだ。そんな娘がなぜ、我々を裏切るような真似をしたのか、いまでもわからない」

「なにか……事情があったのよ。たぶん」

「あって欲しいものだが……」

 ラムレシアの複雑な感情の入り交じった息吹を聞いて、ファリアはなにもいえなかった。それは、彼女の感情というよりは、蒼衣の狂王ラムレス=サイファ・ドラースから受け継がれた記憶に基づく感情であり、心情だろうが、だからといって無下にできるものでもない。彼女は、もはやラムレスと同一の存在なのだ。

「……六将がどうやって世界を作り替えるほどの力を持ったものを討ったのかは、わたしにもわからない。だが、事実として聖皇ミエンディアは討たれ、滅び去った。五百年後に復活すると世界と契約し、六将たちを呪って……」

 そうして呪われたひとりが、レヴィアと呼ばれる人物であり、ミリュウの祖先に当たる。レヴィアの呪いは子孫に受け継がれ、ミリュウは、その一部を受け継いでしまっているのだ。聖皇にかけられた呪い、その一部を。

「それがいまよりおよそ五百年前の出来事だ。以来五百年近く、この世界は聖皇に改変された歴史の上に存在していた」

「……だから、約五百年前で様々な記録が途切れるのよね。聖皇に関する記録もあやふやで、なにが正しいのかわからないのも、すべて、聖皇が改変したから」

 だから、大陸史は五百年ほど前、唐突に始まるのだ。いや、歴史には五百年以上続いているとされているが、明確で詳細な情報が歴史に記録され始めるのは、およそ五百年前――つまり、大陸暦が始まって以降のことであり、それはすなわち、聖皇が世界をひとつの大陸に作り替え、すべてを改変してからということにほかならない。要するに、ワーグラーン大陸の歴史は、五百年前、突如として始まったのだ。

 それまでに積み重ねられ、連綿と紡がれてきたあらゆる事物がなかったことにされたといっても過言ではあるまい。少なくとも、諸族の歴史は闇に潰えた。人間以外の種族は消えてなくなり、人間の歴史のみが世界を構築している。

 “埋葬された文明”というのは、ミエンディアによる改変の結果、消え去った諸族の記録だったりするのだろうか。

 ふと、そんなことを考える。

 この世界には、歴史上に存在しないはずの文明の名残が遺構や遺跡、遺物として発見され、学術的な研究が盛んに行われている。かつてガンディオンの地下に発見された遺跡がそうだ。まるで地下深くに葬られ、埋められたかのようなそれらを総称して“埋葬された文明”と呼ぶ。それら地下深くに眠る文明が、聖皇によって秘されたものであるとすれば、納得もできるというものだ。

「そういうことだ。わたしたち三界の竜王の記憶に霞がかかっていたように、世界の記憶そのものにも霞がかかっていたのだ。そして時が流れ、五百年もの歴史が積み上げられれば、それ以前の記憶など忘れ去られる。五百年以上生きている人間などいないのだからな」

「記憶は……受け継がれたわ」

「……ミリュウか」

「ええ。彼女からだいたいの内容は聞いて、知っているのよ」

「道理で驚きが薄いわけだ」

「がっかりした?」

「少しな」

 そういってはにかむラムレシアの表情は、ユフィーリアのものであり、ファリアはどうしても抱きしめたくなった。

 そしてわざわざ立ち上がり、窓辺の彼女に歩み寄ると、ラムレシアは訝しげな顔になった。

「どうした?」

「大好きよ、ラムレシア」

「な、なんだ、急に……?」

 慌てふためく彼女を抱きしめたまま、ファリアは小さく微笑んだ。



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