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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百五十五話 完全なる勝利(一)

 敵は、ひとりとしていなくなった。

 獅徒レミリオンが率いたネア・ガンディアの軍勢は、全滅したのだ。全部で三十隻存在した飛翔船は小型のものから大型のものまですべて撃墜され、転送装置も徹底的に破壊された。これにより、敵本国より増援が送り込まれることはなくなり、さらに既に転送されていた神人もすべて駆逐されたため、戦場に存在するのは味方のみとなったのだ。

 獅徒レミリオンおよび神々との熾烈な戦いによって、リョフ山周辺は、地形そのものが大きく変化していた。局所的な天変地異が短期間のうちに何度も起きたかのような激変ぶりには、戦いの渦中にいたセツナも呆然とするほどだが、致し方のないことだと諦めるほかない。これでも周囲への影響を抑えるように戦った方なのだ。それでも大地は引き裂かれたり、大きく陥没、あるいは隆起したりして、戦闘前とはまるで異なる風景が生まれているのだから、もう少し考えた方がいいのは間違いない。戦闘の余波に巻き込まれて失われた命もあったかもしれないのだ。

 神人、神獣程度ならばまだしも、獅徒や神々との戦いともなれば、手加減などしている場合ではない。周囲への影響を考える余り力を抑えれば、それだけで窮地に立たされるだろう。地上に影響を与えたくなければ、遙か上空に戦場を移すというのもありだろうが、敵がこちらの思惑通りに動いてくれるかどうかは別の話だ。

 そんなことを考えながら地上に降り立ったセツナは、周囲に生命反応すらほとんど存在しないことを確認すると、速やかにすべての召喚武装を送還した。黒き矛カオスブリンガーと六眷属、合計七つの召喚武装を同時に呼び出しているのだ。維持しているだけで多大な負担がかかる。戦いが終わり次第、すぐさま送還するのは当然のことだった。

 ただ、厄介なのは、すべての召喚武装を送還すると、途端に反動が来ることだ。

 実際、セツナは、凄まじい脱力感と疲労感、全身の激痛に襲われ、その場にへたり込まざるを得なかった。全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げ、体力が消耗され尽くした事実に直面する。体力だけではない。精神力も尽く使い切っている。

「ぐええええ……」

 戦勝の充実感も余韻もあったものではない。

 むしろ暗澹たる気分になるのは、目の前が真っ暗だからというのもあるだろう。これまで目の前の風景だけでなく、全周囲、広大な範囲の景色というものを認知できていたのは、完全武装によって強制的にすべての感覚が強化されていたからだ。視覚、聴覚、触覚、嗅覚――あらゆる感覚が常人とは比較できないくらいに引き上げられた結果、万能感すら覚えるほどに研ぎ澄まされていた。それが一瞬にしてなくなった上、体力が限界近くまで搾り取られているのだ。目の前が暗くもなろう。

 なにせ、完全武装がさらに深化したのだ。

 ランスオブデザイアだけでなく、ロッドオブエンヴィーも変化し、真価を発揮した。それはセツナに多大な力を与えるだけでなく、セツナにかかる負担を増大させたに違いなかった。

 もちろん、先にルノウと戦っていた影響もあれば、レムに完全武装・影式を使わせたことも大きい。最初から万全の状態でレミリオンと戦っていれば、ここまで消耗することはなかったのではないか。

「なに情けない声出してるんですか」

 声に、顔を上げる。真っ暗な視界に白い翼が輝いているようだった。

「隊長」

 ルウファの声は、いつになく優しかった。

 だから、だろう。

 セツナは、意識が闇に堕ちるのに身を委ねた。



 戦いが終わった。

 第三次リョハン防衛戦とでもいうべき大戦争は、リョハン側の圧倒的勝利で幕を閉じる結果となったのだ。

 リョハン側の損害は、死者三百名、重傷二百名、軽傷多数であり、それらはいずれも戦闘要員に発生したものだ。一般市民には一切の被害が出ておらず、そのことは、戦女神の名声及び信頼、信仰をより高め、深めるものとなっていくだろうことは、想像に難くない。

 多くの市民は、戦女神の帰還とリョハンの完全勝利を結びつけるものであり、リョハンの政治家たちもそれを否定しないどころか率先して利用するからだ。いまはまだ、戦女神が必要な時代だ。いずれ、遙か将来、戦女神が不要となるまでは、戦女神をリョハンの柱として崇め奉るのも致し方のないことなのだ。

 とはいえ、ファリアはまったく浮かれてなどいなかったし、勝利に沸き立つひとびとの輪に入れない気分の中にいた。

 三百名もの死者が出たのだ。

 敵が敵である以上、多少なりとも死傷者が出ることは覚悟していたし、そのことでファリアが責められるようなことは万にひとつもありえないのだが、だからといって、素直に喜べないのも事実だった。

 もっと上手くやれたのではないか、と、考えてしまう。

 無論、もっとも上手くやれたからこそ、死者が三百名で収まった可能性も大いにある。いや、むしろ、そう考えるべきだろう。相手は獅徒だ。獅徒率いるネア・ガンディアの軍勢なのだ。もっと多くの死者が出たとしても、なんら不思議ではない。

 とはいえ。

 報告によれば、獅徒レミリオンは、最初に約三百名の武装召喚師を殺害してからというもの、武装召喚師たちを積極的に傷つけたり、殺そうとはせず、行動を封じることに専念していたらしい。その上でファリアを殺し、マリク神を封じることで、事実上リョハンを瓦解させようとしていたのではないか。現在のリョハンは、戦女神と守護神の二本の柱によって成り立っている。その二本の柱が同時に失われれば、リョハンは、半ば自動的に瓦解するのは火を見るより明らかだ。

 ネア・ガンディアにとって目障りなのは、一枚岩のリョハンであって、その意思統一の源たる戦女神と守護神が失われ、瓦解を始めるのであれば、あとは放置しておいても構わないという考えだったのかもしれない。

 だとすれば、無理に防衛戦力を展開しようとせず、ファリアが率先して獅徒の目を引くことで被害を抑えられたのではないか。

「そう、想わない?」

 ファリアが問うと、ラムレシア=ユーファ・ドラースは明らかに呆れたような素振りを見せた。戦宮の一室、戦女神の執務室にふたりはいる。

 戦宮には相変わらず扉や窓がない。そのため寒風も平然と通り抜けるものだから、ファリアは防寒服を着込み、寒さを凌いでいる。しかし、ラムレシアは、寒風などどこ吹く風といった様子だった。半竜半人とでもいうべき存在となった彼女だが、全身が鱗に覆われているわけではない。人間のままの部分も少なくなく、故に露出した肌などを見ると、つい寒くないのか心配になるのだが、どうやら平気らしい。

 ラムレシアは、執務室の窓に腰を下ろし、戦宮の外の景色を眺めていた。

「そんなことをすればおまえが殺されただけのこと。だから、セツナはおまえに前線に出るなと強くいったのだ」

「わたしだって、戦えるわ」

「それは知っている。だが、おまえは人間で、獅徒は人間ではないのだよ」

「人外との戦闘経験だって豊富よ」

 強く、ではないものの、反論する。獅徒とだって戦った経験があるのだ。

「それも理解してはいるがな」

 ラムレシアがこちらを見た。その表情は、いつものように柔らかく、穏やかだ。

「おまえは二千五百名の武装召喚師以上の実力があるとでもいうのか?」

「そうはいっていないわ」

「だったらわかるだろう。おまえひとりでは、ただ殺されるだけのことだ」

「……そうね。でも、わたしひとりなら、でしょ?」

「おまえが戦場に姿を出した時点で、獅徒はおまえだけを狙っただろう。それが彼奴の目的ならな。それとも、おまえは部下を盾にでもするつもりだったか」

「そんなこと、するわけないでしょ」

「ならば、この話はおしまいだ」

 ラムレシアが窓枠から腰を上げ、床に降り立った。人間の頃とは変わり果てた姿も、見慣れてしまうものだ。いまではその力強く美しい姿こそ彼女だと想うようになっていた。ゆらゆらと揺れる尻尾には、つい触りたくなってしまうが、いきなり触られるのは嫌いらしい。

「それに済んだことだろう。なにをいまさら考え込むことがある。戦いは終わった。こちら側の完全勝利でな。ネア・ガンディアの連中は、なにも得るものはなく、それどころかすべてを失ったのだ。これでリョハンを二度と狙わなくなるかどうかは不明だが……時間は稼げたはずだ」

 そして、その稼げた時間こそが肝要なのだ、と彼女は言いたげだった。彼女の言い分は、わかる。だが、ファリアにはファリアの言い分があり、考えがあるのだ。

「……また、同じようなことがあったとき、また同じ方法で迎え撃つ? それで、迎え撃てる?」

「……そんなことか」

「重要なことよ、とても」

「そんなことは、もう起きないさ」

「どうして、そう言い切れるのよ」

 ファリアは、ラムレシアの断言が不思議でならなかった。

「それまでにはすべての決着がつく」

 ラムレシアは、確信を持っているかのように告げ、ファリアに向かって微笑んだ。



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